人生の3分の2を共に駆け抜けた、限定400台の特別仕立て『コロナクーペ』への一途な想い
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トヨタ・コロナクーペ(ST162型)
「えっ、これ何てクルマ?」
そんなふうに声をかけられるのは、もう何度目だろうという『162CORONA』さんが36年間愛し続けてきたのは、トヨタのST162型コロナクーペ。1985年にセリカやカリーナEDの姉妹車として登場し、わずか一世代で姿を消した希少なモデルだ。
そしてそのモデル末期1989年に、2000VXをベースにドアミラーやモールまで真っ黒に統一し、電動スポーツシートなども装備された“スペシャル仕立ての特別仕様車”が400台限定で販売された。
当時は、ブラックセリカやAE86のブラックリミテッドなど、最終モデルで“黒染め”の限定車がこぞってリリースされていて、このコロナクーペもまたそんな特別感をまとったモデルのひとつだった。
この特別仕立てのコロナクーペに心から惚れ込み、新車で手に入れてから36年間、ただの一度も浮気することなく乗り続けてきたのが162CORONAさんだ。
彼がこのコロナクーペに出会ったのは大学時代。バブル景気の真っ只中、大学に入ったらアルバイトでお金を貯めてクルマを買うのが若者たちの夢だった。
「2ドアのカッコ良いクルマが欲しかったので、当時は必死でアルバイトをしました」
はじめての愛車候補には、スープラやセリカ、カリーナEDなども挙がっていた。しかし、その中で162CORONAさんの心を捉えたのは、流面形ボディの滑らかなラインと引き締まったノッチバックスタイルが印象的な、黒いコロナクーペの特別仕様車であった。
「ディーラーに見積もりをもらいにいったら、特別仕様車が出るって話しを聞いたんです」と振り返る。これが運命の出会いだった。
「スープラは高すぎてとても手が届かないし、セリカは当時のボクにはリヤがちょっと重たく感じられて…。でもコロナクーペは滑らかなラインで、ドアからリヤフェンダーにかけての曲線が美しいな、と。そのデザインに一目惚れしました」
バブル経済の真っ只中とはいえ、学生のアルバイト代で新車を買うのは並大抵ではなかった。それでも設計補助の仕事を続け、ついに大学3年の時に、新車のコロナクーペを手に入れた。
ようやく手に入れた念願の愛車。納車後は嬉しくて、嬉しくて走り回った。
「せっかくクルマを買ったんだから遠くへ行ってみようって、敦賀から小樽までフェリーに乗って、北海道を巡りました。学生だったので何も計画なしの、行き当たりばったりのクルマ旅です。フェリーの中で旅行雑誌を見ながら、行き先を決めていました。結局、道北あたりを中心に10日間ほど掛けて回りました。楽しかったですね。“そろそろお金がなくなりそうだから帰ろう”ってなるまで。学生時代の良い想い出です」
あれから36年。162CORONAさんは、この黒いコロナクーペとともに人生を駆け抜けてきた。その走行距離は、なんと35万kmを超えている。だが、それだけの年月を共にしているのにもかかわらず、大きな故障やトラブルは一度もないという。
「JAFを呼んだこともありませんし、牽引されたこともないですね。エンジンやミッションも一度もオーバーホールしていませんが、快調をキープしています。消耗品であるクラッチは28年目に交換しましたが、まだディスクが半分くらい残っていました。もしかしたら40万km位は走れたかもしれませんね」
もちろん、それだけのコンディションを維持し続けられるのも、オーナーの愛情があってこそ。オイル交換は7500kmごと、フィルターは1万5000kmごとのサイクルで実施するなど、メンテナンスは基本的にすべて自分の手で行ってきた。
長距離ドライブではリッター20kmに迫ることもあるほど燃費も良く、京都から青森まで無給油で走った経験もあるという。
「自分で世話をしてきた分、このコロナクーペは自分の子供みたいな存在ですね。乗り換えようと考えたことは一度たりともありません」
長らく“目立たないクルマ”だったコロナクーペだが、近年はその希少さ故か注目されることも増えてきたという。
「後ろに“CORONA”のエンブレムがあるのを見て、通りがかりのひとがあれ? って顔をしているのが分かるんです。そういう反応をみると、ちょっと嬉しくなりますね」
3年ほど前にはクルマ系SNS「みんカラ」に愛車を登録。以降、旧車イベントやミーティングに積極的に参加し、セリカやカリーナEDのオーナーたちとも親交を深めている。
気が付けば、オーナーの行動力も愛車とともに広がっていた。その行動力、行動範囲は半端ではなく、この1年だけでも、クルマ仲間との箱根旅行や、福井や富山で開催された旧車のミーティング、イベントへの参加など、出向いた場所やイベントは枚挙にいとまがないほど。
「ついこの前は、山口県の絶景スポット、角島で行なわれたイベントに参加してきました。往復1300kmの道のりでしたが、同じクルマに30年も乗っていると自動運転が付いているかのように、クルマが身体に馴染んでいるので全然疲れませんよ(笑)。そして、このクルマを通じていろんな方と出会えたことが、なによりも貴重な財産ですね」
コロナクーペは圧倒的な馬力があるわけでもないし、豪華な装備が付いているわけでもない。だが、それでもこのクルマに長く乗り続けるのは、性能やステータスではない何かがあるからだ。
「大きな理由のひとつは、時間です。今からこのクルマをもう一度買おうと思っても無理でしょう。私と一緒に過ごしてきたこの36年という時間だけは、どれだけお金を積んでも手に入らない。人生の3分の2以上をこのクルマと過ごしてきましたから」
30年目の節目では、色褪せてきたボディのリフレッシュを決行。純正ブラックへの同色オールペンを実施し、美しい輝きを取り戻した。トヨタ博物館が主催するクラシックカー・フェスティバルにも参加し、参加者のみに進呈される記念バッチをダッシュボード上に貼り込んだ。
希少な限定車だけに、オリジナルのスタイルにこだわっているというが、今後の課題は傷みが目立ってきたシートのリフレッシュだという。
「数年前までは青空駐車だったんですよ。それでシートとかが傷んできているのだろうなって思います。シートの張り替えには費用が掛かりますが、綺麗にしたいですね」
基本的にはノーマル状態を維持しているが、決してカスタマイズを否定しているわけではない。購入して間もなく追突事故の予防にも繋がるハイストップランプを追加した他、キーレスエントリーもDIYで装着。またトランクのカギ穴部分にバックカメラを装着するなど、快適性を向上させる部分を中心にアップデートも施してきたという。
今でこそ通勤には使っていないが、休日の買い物やイベント、ドライブはすべてこのコロナクーペで出かけていて「一頭飼いですからね」と笑いながら語る162CORONAさん。
工具に加え、寝袋や防災セットまでトランクに積み込むのも、愛車に何があっても対応できるようにするためだ。
「いつ何が起るかわからないじゃないですか。万が一、出先でクルマが止ったら困るので…。しかし、もしこのクルマが動かなくなったら、自分もどうなるんだろうなって。奥さんに先立たれた気分になるかもしれませんね」
コロナクーペは、あまり日が当たる存在ではなかったかもしれない。でも、そうしたことを気にすることもなく、むしろ誇りに変えて36年間、静かに、確かに人生を共にしてきた。そんなオーナーだからこそ、このクルマと過ごす時間は何よりも豊かで、誇らしく、美しく見えた。
流行りに乗らなくてもいい。周りと違っていても構わない。
自分が好きだと思えるものを、大切にし続けること。それが、愛車と向き合う理想のかたちなのかもしれない。
そして、162CORONAさんと黒いコロナクーペの物語は、まだまだ続いていく。
(文: 石川大輔 / 撮影: 清水良太郎)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:西京極総合運動公園 (京都府京都市右京区西京極新明町32)
[GAZOO編集部]
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