33万kmを走り抜けたカローラGTとの14年。「妥協」が「相棒」になるまでの道程

  • GAZOO愛車取材会の会場である西京極総合運動公園で取材したトヨタ・カローラGT(AE111型)

    トヨタ・カローラGT(AE111型)


クルマ好きにとって、初めて自分の力で手に入れた愛車は、格別な存在となるものだ。
今回ご紹介するRF-4さんもそのひとり。彼が貯金をはたいて手に入れた1999年式トヨタカローラGT(AE111型)と共に、14年間、33万km以上もの道のりを走り続けてきた。

実はこのカローラ、当初は“本命”ではなかったそうだが、今では彼のカーライフに欠かせない相棒となっている。では何故、RF-4さんはこのカローラに魅了されたのか、その理由を伺ってみた。

クルマ好きの父親が運転する姿に憧れてしまうほど、幼い頃からクルマに夢中だったRF-4さん。アニメ『頭文字D』で登場したシビックのエンジン音に心を奪われ、自然と「高回転まで回せるNAエンジンのマニュアル車に乗りたい」と強く思うようになっていった。

そんなRF-4さんが、マニュアルの運転免許を取得したのは22歳の時。その10ヵ月後、コツコツと貯めた貯金を頭金に、自らの愛車を手に入れることを決意した。条件は「予算内で、4ドア以上でスポーツエンジンを搭載したMT車」。これは、父親の影響も大きかったという。

「なぜそのような条件にしたかと言うと、クーペに乗っていた父親が、子供の成長に合わせて『クーペじゃ狭いけど走りは捨てられん』と、ランエボと同じ4G63型ターボエンジンを積んだ4ドアワゴンの三菱RVRスポーツギアの5速MT車に乗っていたんです。そんなクルマ選びも面白そうだと思った僕も『どうせ乗るなら、見た目からは想像できないような、高回転まで回って楽しく走れるNAのスポーツエンジンを積んだマニュアルミッション車に乗りたい』と思うようになったんです」

まず本命候補となったのは、エンジン音に惚れたホンダの4ドアセダン、シビックフェリオSiR(EK4型)のMT車。しかし流通台数が極端に少なく、探すのは困難だった。次に候補に挙がったのが、6速MT車で2ZZ-GEのスポーツエンジンを搭載したカローラフィールダー。しかし100万円越えのクルマばかりで、予算50〜70万円で考えていた彼にとっては完全に予算オーバー。そんな中、中古車サイトで見つけたのが、1999年式のトヨタ・カローラ(AE111型)だった。

「中古車サイトで探していたんですけど、フィールダーと共に検索結果にあがってきたカローラGTを見つけたんです。4ドアセダンで1.6リッターの4A-GE型エンジンを搭載した6速MT仕様は、僕の条件にぴったりでした。さらに、車検込み70万円と予算内だった上に、走行距離は12年落ちにもかかわらず1万2000kmと少なく『これならまあ妥協できるかな』と、実物を確認して購入に至りました」
ちなみに納車日は、ちょうど14年前の今日(取材日)、2011年4月13日だったそうだ。

  • (写真提供:ご本人さま)

当初は「5年乗って、シビックタイプR(FD2型)に乗り換えるつもりだった」というRF-4さん。
しかし、実際に乗ってみると、想像以上に好みの走行フィーリングや、ライフスタイルにマッチしていたことから、その考え方も変わってきたそうだ。それを証明するのは、14年間で33万kmという付き合い方だ。計算すると、年間平均2万km走行以上にもなる。

「ここ2、3年は年3万kmくらい乗っていると思います。通勤は1万5000kmくらいで、あとはカローラオフ会などのイベント参加ですね。オフ会では関西や愛知にちょくちょく行きますし、それとは別に旅行にもよく行くんです。昨年は盆休みに一人で青森まで行ってきました」

  • (写真提供:ご本人さま)

「夜10時くらいに家を出て、北陸道と下道を使って翌15時くらいに青森駅に到着。青函連絡船を見てから龍飛崎に行ったり、大間のマグロを食べたり。帰りに同じ型のスプリンターGTオーナーさんとオフ会をしたりと楽しかったですね!」と、長距離ドライブの思い出を振り返ってくれた。

気の赴くままにドライブに出かけ、同じ趣味仲間と会うために行動するRF-4さんだけに、どうしても長距離走行が多くなる。
走行距離が増えれば増えるほど重要になるのが、日常的なメンテナンス。滋賀に引っ越してからは、近所のディーラーで日頃の整備を依頼しているそうだ。

「2022年の夏には、26万6000kmの時点でエンジンのオーバーホールもしているんです。オーバーホール前には、エンジンの油温が街乗りで105℃、高速走行だと115℃くらいを差し続けていたこともあり、流石にマズいなぁと思いまして、一緒にオイルクーラーも装着してもらいました。その後は滅多に100℃を超えなくなってホッとしています」

ちなみに、エンジンのオーバーホールを依頼したのは、いつものディーラーさんではなく愛知県のGRガレージだという。情報網の広いRF-4さんは“とあるメカの方がプライベートで黒ヘッドエンジンをバラしていてとにかく詳しい”と知り、紹介してもらったのだとか。こういった交友関係の広さからの、生きた情報が得られるのも彼の強みだ。

RF-4さんのカローラは『見た目とのギャップ』を好む彼のこだわりが詰まっている。外装はほぼノーマル状態だが、山道なども楽しく走れるようにボディ剛性や足まわりを重視したカスタマイズが施されているのだ。

「ボディ補強に関しては、自分好みの動きを目指してストラットタワーバーやロワアームバー、室内用の補強バーなどを追加して、フロントから車体センターくらいまでをメインに強化しました。スタビライザーも強化して、車高調整サスペンションはテイン製を愛用しています。車高は下げ過ぎずに推奨基準にしています。その方がノーマル感がありますし、悪路も気にせず走れますからね」

「その他、トヨタ純正のヘリカルLSDや、フジツボ製のマフラーを装着して走りの楽しさを追求しています。アルミホイールも交換しました。そして温度管理のために水温、油温、油圧の3連メーターも追加したので、各温度の状況もはっきり認識できるようになりました」

ちなみに、フロントバンパーとボンネットの劣化も気になっているそうだが、「それを直すくらいならフューエルポンプを変えたいし、15万km使用している点火プラグの交換もしたいと思っているし…」と、見た目より“走る”ための整備を優先するスタイルを貫いている。

しかしながら、20年以上前に生産を終了した車種にとって、純正パーツの製造廃止は共通の悩みとなる。RF-4さんもネットオークションや通販サイトなどを駆使し、気になるパーツはストックするように心掛けているそうだ。そんな中、彼にとって幸運だったのは、エンジンパーツの心配がなかったことだったという。

「AE111に搭載されている4A-GEエンジンの純正部品はまだ買える状態だったので、オーバーホールも純正部品だけで完結できました。まさか今の時代にオーバーサイズの純正ピストンが出るとは思ってなかったので嬉しかったですね。それと、4A-GE繋がりでカリーナやカローラスプリンターやレビン・トレノのオーナーさんとSNSやオフ会を通して知り合う機会が増えたことも、嬉しい誤算でした。実は、車種選びに迷っていた時の選択肢に日産・サニーのVZ-Rも入っていたんですけど、もしそれを選んでいたら、今よりも茨の道だったかもしれません」

そんなRF-4さんは、今後のカローラとの付き合いについてこう語る。
「正直言って、このクルマの寿命はエンジンではなくモノコックそのもの、もしくは車検に必要な外装パーツの欠品かなと思っています。僕もそれまでは長く乗り続けたいと思っています。今が34万5000kmなので、とりあえず来年の夏頃には月(38万4400km)に到着。そこまで行ったら、今度は“地球に帰還する”ことを目標に足掻こうかなと(笑)」

「僕にとってこのクルマの不満点は、シビックみたいな天井知らずの高回転型エンジンではないということだけなんです。なんだかんだ言っても、不満点がそれしか無かったことから、想定以上に長い付き合いになりました。人生初の相棒と呼べるこのカローラと、これからも末長く一緒に走り続けられたらと思っています」

そう嬉しそうに目を細めたRF-4さんの表情がとても印象的だった。その表情は、カローラが彼にとってかけがえのない存在であることを雄弁に物語っていた。
“妥協”だったはずの一台は、今や彼にとってかけがえのない“相棒”となり、これからも新たな出会いや旅へと、共に走り続けることだろう。

(文: 西本尚恵 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:西京極総合運動公園 (京都府京都市右京区西京極新明町32)

[GAZOO編集部]