「GT-Rに乗るために整備士になりました」20代前半で手に入れたGT-Rは、超希少な『エゴイスト』
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日産・GT-R エゴイスト(R35型)
「当時通っていた英会話教室の先生がクルマ好きで、授業の合間に『イギリスBBC制作のトップ・ギアという番組で、戦闘機とブガッティ・ヴェイロンがドラッグレース対決をした』という話をしてくれたんです。その番組を実際に観て『戦闘機と競争するぐらい速いクルマがあるなんて!』と一目惚れしちゃいましたね」
もともと電車や旅客機、さらには戦闘機などの速い乗り物に興味津々で、電車や飛行機を観に連れていってもらえばご機嫌な子供だったという『MP』さん。
英会話教室の先生が教えてくれたこの話題は好奇心のど真ん中を貫き、俄然、ブガッティを始めとするスーパーカーに興味を持つようになったという。
「その英会話教室の先生が『日本にもブガッティに負けない速さのスーパーカーがあるよ』と、再び教えてくれたのが、おなじくトップ・ギアでの『GT-Rと新幹線の対決』でした。これを観て、名だたる世界の名車に負けないGT-Rに興味を持ちました。それからはGT-Rの動画を何本も観たんですが、その中にGT-Rの車両開発主幹である水野和敏さんがGT-Rを解説するものがあって、その思想に感銘を受けて『いつか自分でも所有する!』って決意したんです」
ここまでのエピソードは、クルマに興味を持った子供であれば、そう珍しくはない話である。しかしMPさんは、その決意を実現するために、その後の自分の進路を決めていく。
「高校生になって、将来はクルマに関わる仕事に就こうと決めたんです。開発や設計の仕事も魅力的でしたが、自分の能力では難しいと思ったので、それならばGT-Rを手に入れた後で、自分でメンテナンスできるようになろうと、整備士の専門学校に進学することにしました」
RB26DETT型エンジンを搭載する第2世代GT-Rの最終型となるBNR34型が2002年に生産を終了。そこから5年の空白期間を経て、2007年にデビューしたのが日産・GT-R(R35型)だ。
第1世代と第2世代はスカイラインの中のGT-Rというトップグレードであったが、第3世代からはスカイラインとは切り離され『GT-R』が車名となり、圧倒的な速さと強さを誇った第2世代GT-Rをも凌ぐ強烈なパフォーマンスで、登場から18年が経過した今でも絶大な人気を誇っている。
そんなGT-Rに魅了されてしまったクルマ好きは星の数ほどいるが、その数に対して、愛車として迎え入れられた人の数は非常に少ない。というのも、R35 GT-Rは手に入れるのも、そして手に入れてからもお金が掛るクルマなのだ。
大学に進学し自動車メーカーに就職という進路も考えられるが、MPさんは、そういった“GT-R購入後のカーライフ”までを見据えた結果、自分でGT-Rを整備できるスキルを学ぶことを選ばれたというわけだ。
そうして、晴れて自動車整備の専門学校に進学したMPさん。もちろん、直ぐに運転免許を取得して愛車を手に入れたという。
「GT-Rの中でも、マニアの間では“水野モデル”と呼ばれている2013年式までが欲しかったのですが、さすがに18歳の自分の財力では手が届かず、GT-Rの次に興味があったスープラ(JZA80型)を手に入れました」
2025年現在の感覚だとスープラも高額なイメージとなるが、MPさんが購入した頃はちょうど底値だった時期で、今では考えられないような値段で手に入れることができたという。
やがて専門学校を卒業し、ディーラーに就職したMPさん。スープラは学生時代にドリフトを楽しんでいたというだけに、それとは別に通勤用のクルマを買おうと、お母様に相談したそうだ。
するとお母様は「『普通のクルマを買ってローンで払うくらいなら、無理してでも好きなクルマを買った方がいいんじゃない?』というアドバイスをしてくれたんです」というように、息子さんが中学生の頃から欲しいと言っていたGT-Rを買った方が良いと、背中を押してくれたという。
さらに、ちょうどその頃は、世界的なコロナ禍と重なっていた時期で、GT-Rの中古車相場が落ち込んでいたタイミングでもあった。
「『買うなら今しかない!』と思って、中古車サイトをチェックするだけじゃなく、業者オークションの代行や、買取店にも予算を伝えて、探してもらったんです」
2ヵ月ほど経過した時に、買取店から希望に合う車両がオークションに出品されたとの連絡があり、さっそく上限金額などの打ち合わせのために買取店へと足を運ぶことにしたというMPさん。
「ところが、打ち合わせのために買取店に向かっている途中で、なんと一緒にGT-Rを探してくれていた弟から『エゴイストが売りに出てる!』と連絡があったんです」
『エゴイスト』とは、2011年モデル〜2013年モデルに設定された特別仕様車のこと。
その内容は、本革内装や専用のBOSE製オーディオ(オプション設定)、専用カーボンリヤスポイラー、RAYS製鍛造アルミホイール、チタンエキゾーストなど贅沢装備が満載。特にドイツの高級レザー工房で仕立てられる内装は、色やその組み合わせから20種が用意されており、市販車にも拘らず他と被らない自分だけのGT-Rを手に入れられるというものだ。
新車販売価格は1500万円以上という、当時としてはかなり高額な設定だったこともあり、GT-Rの中でもさらに希少性が高いモデルとなる。
「エゴイストの存在は、水野さんの動画を観て知っていました。もちろん興味はあったんですが、新車値段が高かったし、ほとんど流通していませんから購入候補に入れてなかったんです」
ちなみにMPさんの予算は400万円。対して、売りに出されたエゴイストの価格は600万円半ば。金額だけ考えれば諦めるしかないが、MPさんの心はエゴイストに傾いていた。
買取店との打ち合わせもそこそこで切り上げ、すぐにエゴイストを販売している店に連絡したという。
「帰宅後、母に『どうしようかなぁ?』って相談したんです。日産の公式ホームページに水野さんがエゴイストを紹介する動画があって、それを見せながらね。エゴイストの新車の値段が1500万円で、それが600万円半ば。元々買取店で探してもらっていたGT-Rは新車価格が800万円で、それが400万円…。『どっちがいいの?』って話になったんですが、その日は、とりあえず見積もりだけもらうことになったんです」
エゴイストの見積もりは、諸費用などを含めて700万円弱。高額な買い物だけに、決められずにいたMPさんを見かねたのか、仕事の合間にお母様から『エゴイストが欲しいの?』という電話が掛かってきたという。そこで「欲しい」と答えたら『わかった』と言って電話が切れ、家に帰ってみると『注文したから、あとは頑張って』と言われたそうだ。つまり、お母様が迷っていたMPさんの背中を押してくれたのだ。
こうして、晴れてGT-R、しかもエゴイストのオーナーとなったMPさん。
「車検はほぼ2年残っていたんですが、まずはクルマの状態を把握するために、日産のハイパフォーマンスセンターで点検してもらうことにしたんです」
点検の結果は、不具合がいくつか見つかり、それらをすべて修理すると約200万円という見積もりが出たという。一般的なオーナーであれば『なんてクルマを買ってしまったんだ』と落胆するところだが、GT-Rを所有するために整備士の道を選んだMPさんにとっては、大して慌てることもなかったという。
「具体的な内容を見ていくと、タペットカバーとクランクシール、そしてフロントデフからオイル漏れがあったのと、ショックアブソーバーの抜け、それからブレーキパッドの摩耗などでしたね」
その点検結果を見てMPさんは「何を削ろう?」と考えたそうだ。これは金額的な話だけではない。
GT-Rのオーナーになるために学んだ整備士の知識と技術を活かし「オイル漏れの放置は後々大変だから、今修理してもらおう」とか「GT-Rのブレーキパッド基準残量は6mmだから、まだもう少し大丈夫」「ショックアブソーバーは新車外しの中古を見つけて自分で交換すればいい」といったように、GT-Rライフのマネージメント楽しみながら総額120万〜130万円で納めたそうだ。
とはいえ、100万円オーバーという金額は、なかなか痛い出費のように思えるが「僕の中では、このGT-Rは運転免許の返納まで一緒にいようと思っているので『下手にケチっちゃダメ』と考えているんです」という明確なお答えが返ってきた。
まだ20代の半ばながら、免許返納まで乗り続けると言い切る。それだけの覚悟が伝わってきた。
そんなGT-Rエゴイストで、GT-R系のイベントなどへの参加を楽しんでいるというMPさん。現在も行った先々で、GT-R仲間を増やしているようだ。
「同じエゴイストに乗るオーナーさんとイベントでお会いできて『いつかエゴイストのオーナーズクラブを作りたいね』なんて話で盛り上がったんですよ」
ちなみにMPさんによると、エゴイストの生産台数は輸出されたものまで含めて40台、日本国内に限れば28台という。そんな超絶希少車だけに、オーナーを探すのに苦労されているそうだが、氏はまだ若い。なので、いつかきっと『エゴイストオーナーズクラブ』を誕生させてくれるに違いない。
(文: 坪内英樹 / 撮影: 土屋勇人)
※許可を得て取材を行っています
取材場所: 霞ヶ浦緑地(三重県四日市市大字羽津甲)
[GAZOO編集部]
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