S2000で『純粋な速さ』とはまた違ったスポーツカーの世界を知る
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ホンダ・S2000(AP2型)
クルマの楽しみ方はひとつではなく、ライフステージに応じて様々な変化が起こり得るもの。例えば、若い頃はスポーツカーで走ることが楽しかったが、結婚して子供ができたらミニバンに乗って快適な空間を満喫したい。そういった様々なニーズに対応したモデルが出揃っている現在だからこそ、人それぞれのカーライフが実現できることは間違いない。
もちろん、必ずしも多ジャンルのクルマを乗り継ぐ人ばかりではない。特にスポーツカーはクルマ趣味の醍醐味でもあり、モータースポーツを楽しみたい人には欠かせない存在でもある。そんなスポーツカーに惹かれ、こだわりのホンダ・S2000(AP2型)に愛情を注いでいるのが『おんちゃん』さんだ。
2シーターオープンでFRレイアウトの設計は、生産終了から16年が経過した今も多くのファンに愛され、また、新たにオーナーを目指す人も少なくはない。
その理由は均整の取れたプロポーションに加え、エンジンをフロントミッドシップに搭載する50:50の前後重量バランスの良さ。また、VTECを搭載した高回転向きのエンジンは、パワフルかつドライビングの楽しさをダイレクトに伝える珠玉のユニット。サーキットはもちろん、ワインディングでも抜群の運動性能をもたらし、ドライバーズカーとして求められるすべてを兼ね備えているのだ。
そんなS2000(AP2)を、8年前に手に入れたというおんちゃんさん。このクルマ以前にも、前期型のS2000(AP1)を所有していたというから、S2000に対する愛情もひと際深いと言えるだろう。
「若い頃から速いクルマが好きで、運転免許を取ってしばらくしてGT-R仕様のハコスカを手に入れたのがスポーツカー人生のはじまりですね。それからS130フェアレディZやKP61スターレット、310サニーなどを乗り継いでいますが、サニーの頃はダートラやジムカーナといった競技にも参加していました。当時はダートラの地区選にも出場していたので、速いクルマ好きが一気に加速していっちゃいましたよ。その後もMR2などに乗り換えながら、サーキット走行も楽しむために、前車のS2000にたどり着きました」
S2000を前期/後期で乗り継いでいる理由のひとつがエンジンの違いだという。ちなみに、前期モデルのF20Cは排気量2.0リッター/最高出力250psで、最高回転数が9000回転まで達するのに対し、後期モデルのF22Cでは2.2リッター/242psで、最高回転数が8000回転ながらトルク特性が改善されている。サーキットを楽しむなら前期がベストチョイスだが、ワインディングを気ままに楽しむなら後期に軍配が上がる。
「S2000オーナーあるあるですが、エンジンの特性がまったく異なるため、前期オーナーは後期が気になり、後期オーナーは前期が欲しくなる。そんな話をよく耳にしますね。自分もその中のひとりでしたので、前期とお別れした時は真っ先に後期モデルを探しちゃいましたよ」
ドライバーの心を刺激するのは前後バランスやエンジン特性だけではない。バーグラフでリニアに表示されるタコメーターをはじめ、デジタルメーターはドライバーのモチベーションを高めてくれるギミック。未来感を演出した昭和世代のデジタルメーターとは違い、実戦での視認性を求めた装備は、F1へのワークス参戦を目指したホンダの思いが込められている。そんな細部の仕上げも、おんちゃんさんがS2000を乗り継ぐことにした決定打となっているのだ。
新たな縁を繋いでくれたことも、おんちゃんさんがS2000を特別に感じている理由のひとつ。というのも、乗り継いだことで様々な純正部品に対する知識が増え、不意に目に留まった『スピードスターカバー』をどうしても付けたくなってしまったそうだ。北米ホンダの純正部品として供給されていたスピードスターカバーだが、日本国内の部品供販で入手することができ、早速に購入したという。しかし、取り付けるためのブラケットなどは国内で入手できなかったとのことで、仲間のコミュニティを使って紹介してもらったのが、宮崎市にある松元エンジニアリングの松元さん(写真右)だ。
「いろいろな部品をワンオフしてくれると聞いて、藁にもすがる思いで連絡を取ってみたんですよ。そしたら快く引き受けてくれたのは嬉しかったですね。ブラケットの現品があるわけではないので、車体側の構造や取り付けるカバーの形状などを確認しながら、現物合わせで図面を引いてもらって、ようやく理想のカタチに仕上げてもらえた時は、本当に感謝の言葉しかありませんでしたよ。今ではこのS2000の主治医として頼りにしています」
そんな苦労の力作と言えるスピードスターカバーは、もはやおんちゃんさんのS2000には欠かせないアクセント。普段はハードトップを装着しているが、週末のツーリングなどではオープンボディを楽しんでいるという。やはりオープンの状態こそがS2000本来の姿であって、そのスポーティフォルムを際立たせるスピードスターカバーが装着できたことは、さらに愛情を深める要因になったことは間違いない。
ちなみに、北米純正パーツとなるスピードスターカバーは、CR(クラブレーサー)という2007年に設定されたグレードに装着されていたもの。モータースポーツが盛んなアメリカにおいて、サーキットを楽しむために設定されたこのグレードは、装備品を簡素化して軽量化が図られている。出荷台数は600台程度と限られたモデルながら、その部品を日本で調達できることを見つけ出したのは、長年S2000を乗り続けて蓄えた知識と探究心があったからこそ。また、取り付けを行なってくれた松元エンジニアリングのステッカーは、おんちゃんさんが名刺のロゴを切り出して作った自作品。というのも、同店はステッカーなどを作っていなかったのだが、どうしても取り付けてもらった感謝を表したくて、勝手に作ってしまったのだとか。
週末のサーキットを楽しむクラブレーサーの装備品を組み合わせながらも、すでにサーキットは卒業しているというおんちゃんさん。その代わりに現在は奥さんと供にツーリングに出かけたり、イベントなどに足を運ぶことでS2000を満喫している。
本来はベースグレードながらも、フロントスポイラーやリヤウイングなど、エアロパーツはすべてタイプS用の純正パーツを装着。また、ハードトップも純正パーツを利用するため、思いっきりカスタマイズしていた前期モデルとは違い、ホンダ純正のスタイリングを重視した仕上げとなっている。
足まわりに関してはスポーティな雰囲気を与えるため、ミタレーシング製のMS10をセット。もちろんサーキットに足を運ばなくなっても、タイヤの性能を重視し、しっかりとグリップするブリヂストン・RE-71RSを組み合わせる。スポーツカーに安心して乗るためのパーツ選びも、長年培った経験から妥協のないチョイスを行なっているのだ。
「前期モデルを所有していた時は、サーキット仕様にカスタマイズしていました。そこから後期に乗り換えたところ、ノーマルの良さを改めて知ったんですよ。排気量が上がった分乗りやすくなっているし、何よりも街中でもワインディングでも楽しめるから、純粋な速さとはまた違った、スポーツカーの世界を知ることができたのは大きな学びですね」
運転席はスポーティなドライビングポジション作りのためにレカロ製のバケットシートに変更。しかし助手席は奥さんが乗り降りしやすいように、純正シートをそのまま残している。速さだけを突き詰めるのではなく、奥さんとのツーリングを存分に楽しむためのアレンジこそ、今現在のスポーツカーとの付き合い方を表しているというわけだ。
「ハードトップの脱着はひとりでは無理なので、いつも妻にも手伝ってもらっています。だから喧嘩なんかしちゃったら、ハードトップを外せない、もしくは閉めることができなくなっちゃいます(笑)。だからってわけじゃないですが、S2000以上に妻を大切にして、休日は一緒にS2000で出かけるのが楽しみになっているんです。桜のシーズンなんかは花見ドライブ、夏は花火を眺めるなんて、オープンカーだからこその景色も満喫しています」
これまでの話を聞くと、S2000を溺愛する旦那さんに奥さんが振り回されていると感じるかもしれない。しかし、おんちゃんご夫妻は、奥さんもS2000を大切に思っているというのが重要なポイント。というのも、奥さんもクルマはカッコ良いことが第一と考えているそうで、S2000はその価値観にピッタリなのだ。
「前のS2000の時は運転しようとしたんですが、クラッチがすぐに繋がっちゃって何度もエンストしていたんです。でも、このS2000はノーマルなのですごく乗りやすくて、時々運転させてもらっています」とおっしゃるように、その溺愛ぶりを伺わせる。そう、このS2000はご夫妻の宝物になっているのだ。
2シーターのスポーツカーは、若い時に楽しむ乗り物だという声もあるだろう。しかし、速さだけを求めるのでなく、そのスタイリングや使い方によっては幾つになっても楽しめる。むしろコンパクトなキャビンスペースは、物理的な距離感も近いので、ご夫婦水入らずのツーリングにはもってこい。おんちゃんご夫妻を見ていると、ライフステージが移り変わっても、クルマ好きにとって『スポーツカー』は、やっぱり特別な存在であると、しかと認識させて頂いた。
(文: 渡辺大輔 / 撮影: 西野キヨシ)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:宮崎県林業技術センター/森の科学館(宮崎県東臼杵郡美郷町西郷田代1561-1)
[GAZOO編集部]
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