2台のNSXタイプTを乗り継いできた四半世紀の愛車ライフで得たもの

  • GAZOO愛車取材会の会場である埼玉県の『埼玉スタジアム2〇〇2』で取材したホンダ・NSX(NA1型)

    ホンダ・NSX(NA1型)


F1での初優勝から今年で60周年を迎えるホンダ。常にチャレンジングスピリットを忘れず、夢を追いかけ続けるその姿勢に魅了されるファンは多い。
ホンダにとってのF1参戦第2期は1983年から1992年まで続き、あのアイルトン・セナや中嶋 悟などがドライバーとして活躍。通算69勝、5年連続ダブルタイトル獲得という金字塔を打ち立てた。

また、その時代は日本全体も折からのバブル景気に乗り、ホンダに限らず日本の自動車メーカーは元気いっぱい。潤沢な開発予算に恵まれ、後世に名を残す数々の名車を世に送り出した時節でもあった。
ホンダにとってのそれは、なんといっても市販車として世界初のオールアルミモノコックボディを採用した初代NSXをおいて他ならない。
F1の技術を応用したミッドシップレイアウトを取り入れ、日本の技術力と勢いを高らかに誇示するスーパーカーとして喝采を浴びた1台だった。

初代NSXが登場したのは1990年。当初は3.0リッターのV6エンジンを搭載したNA1型、1997年にはMT車のエンジンのみ3.2リッターへと変更され型式がNA2に変更されている。その後、2001年にはリトラクタブルヘッドライトが固定式ヘッドライトに変更されるなど、いくつかの変遷を経て2005年の年末に生産を終了した。

当時の日本車のスポーツカーで最高額のクルマだっただけに、そもそもNSXというだけでレアな存在ではあったが、その中でも特にレアなバリエーションとして知られているのが、いわゆる“タルガトップ”を採用したオープンモデルの『タイプT』である。
1995年に発売されたタイプTは、生産終了までカタログモデルとして設定され続けたものの、やはり人気はクーペボディに集中したため、累計の生産台数は200台程と言われている。

そして、その希少な初代NSXのタイプTを2台乗り継ぎ、現在も愛車として保有し続けるスーパーレアな愛車遍歴をお持ちなのが『タイプTのO』(以下、Oさん)さんである。
Oさんが最初のNSXタイプTのAT車を購入したのが、2001年の8月。そのキッカケも非常に独特なものだった。

「クルマはずっと好きで、運転免許を取ってすぐ購入したライフステップバンはオールペンして遊んだりしていました。親戚にホンダの関係者がいたことで自然と購入するクルマもホンダ車が多かったんですけど、NSXを買う前はカプチーノにも乗っていて実用車とは別に趣味のクルマも1台所有するというのも常でしたね」

「ただ、ひとつ長年の悩みがありまして、クルマに長距離乗るとなぜか頭痛が出るという持病があったんです。ホンダ車の最高峰であるNSXにはいつか乗りたい憧れがずっとあったので購入を決意したものの、頭痛の際は妻に運転を代わってもらう場合もあったためMT車ではなくAT車を探していました。なかなか希望に合う中古車が見つからなかったんですけど、たまたま見つかったのがタイプTだったんです(笑)」

つまり、タイプTに巡り会ったのはあくまで偶然であり、そして本当は運転を楽しめるMT車に乗りたかったけれど、致し方なくAT車を購入した、というのがOさんにとっての最初のNSX体験だったというわけだ。
そしてそのNSXタイプTには9年弱乗ったのだが、Oさんご自身にもよくわからない不思議なことが起きたという。

「本当に不思議なんですけど、なぜかNSXだといくら乗っても頭痛の症状が出なかったんですよ(笑)。それならばATに縛られる理由もないので、MT車に乗り換えようと思ったんです。ただ、すっかりタイプTが気に入っていましたから、今度は最初から“MTのタイプT”狙いで探しました」

厳密にはエンジンは3.2リッター、色はパープルとタンレザー内装の組み合わせが理想だったそうだが、そもそも希少なタイプTだけに理想を叶えるのは難しく、程度が良くて自宅の近所で見つかった赤のNA1(3.0リッター車)を新たな愛車として迎えることになったそうだ。

2台目のタイプTとなる現在の愛車も、購入から既に15年が経過しているが、内外装ともに美しく、素晴らしいコンディションがキープされている。普段はカーポートの下で、車両にカーカバーを掛けた状態で保管しているそうだが、日常的に買い物に出掛ける時にも気兼ねなく使っているとのことだ。

「スーパーカーではあるんですけど、段差さえ気をつけていれば日常使いもOKなところがNSXの魅力だと思います。見た目は極力純正をキープしたいと思っているんですけど、さすがにもう古いクルマなので、後期型のパーツを流用するなど工夫を凝らしながら、なんとか状態を保っているという感じですね」

先にも述べたがNSXは15年間の生産期間の間、何度かマイナーチェンジや仕様変更を繰り返していたため、後期型へと進むほど部品の熟成も進んでいる。そのため、NSXユーザーにとっては定評のある後期型用のパーツを流用するのは定番メニューとなっているそうだ。

Oさんもホイールやパワステを後期型用に変更しているほか、パンチングレザーのシート、ステアリング、ドアハンドル、シフトレバーなども後期型から流用。
サスペンションもホンダの純正用品であるModuloのスポーツサスを使ってリフレッシュを図っている。

「メンテナンスは馴染みのディーラーか、埼玉県にあるNSX専門店のT3TECで、いつもお願いしています。予防措置的に壊れる前に部品を交換することを心掛けていて、最近だとエアコンのユニット、ガソリンタンク、燃料ポンプ、ホイールハブを交換して、ブレーキは02R(2002年発売のNSXタイプR)から流用しました」

タイプTの特徴でもある脱着式のルーフトップの重量は約8.5kg。一人でもなんとか取り外しできる重さで、エンジンフードの下側に収納できる仕組みとなっている。
「実は前のAT車の時は一度落っことして傷つけちゃったことがあったんですよね(笑)。それ以来、外す時は細心の注意を払うように気をつけています」

オープントップの真っ赤なNSXを所有し、日常的に気兼ねなく使っているというだけで、まさに“憧れのカーライフ”という感じだが『NSXを所有して良かったことは何ですか?』という問いに対するOさんの返答は、孤高のステータスを誇示するものではなく、人との繋がりを大切にする想いから出たものだった。

「何といっても同じ趣味を共有できる人たちと仲良くなれたことですね。コロナ以前は毎週金曜日にお台場で集まるミーティングがあったんですけど、それ以外にも鈴鹿で開催されるミーティングに参加したり、今年はトヨタ博物館であったクラシックカーのイベントに参加したりと楽しんでいます。オーナーさんの年齢や職業もさまざまで、NSXをきっかけにしなければ出会うこともなかった仲間にたくさん恵まれて、本当に幸せです。オフ会はもう20年続いてますから、当時30代だった人が今は50代になっていたり(笑)。それだけ長く仲間との交流を楽しんでくることができたのも、すべてNSXのお陰だと思っています」

ちなみにエンジンフードの片隅に貼られたアルミのリサイクルシールも、NSXオーナーの間で交わされる遊びのひとつなのだそう。オフ会に初めて参加した人のNSXに、気づかれにくいよう助手席側のサイドにこっそり貼り付ける、ちょっとしたイタズラも昔は流行ったのだそうだ。
「NSXの仲間に入った人が最初に受ける洗礼のようなものだったらしいです(笑)。NSXがオールアルミモノコックボディであることを知っている人にしか通じないシャレですから、イタズラされたオーナーもついクスッとしちゃうんですよね」

NSXを所有するようになって、もうひとつ得たこととして「逆に安全運転になったかもしれませんね」と答えてくれたOさん。ぜひ、今後も安全運転と地道なメンテナンスを続け、憧れの的となるようなカーライフを末長く送っていただきたい。

(文: 小林秀雄 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所: 埼玉スタジアム2002(埼玉県さいたま市緑区美園2-1)

[GAZOO編集部]