大学で生物学を専攻するも就職は自動車業界志望 それほどまでに人生を動かした自動車部とロードスターの影響力

  • GAZOO愛車取材会の会場である島根大学 松江キャンパスで取材したマツダ・ロードスターRS(NB8C型)

    マツダ・ロードスターRS(NB8C型)


今回の出張取材会場となった島根大学には自動車部が存在し、多くの学生が在籍している。そんな自動車部の部長を務めているのが、この1998年式マツダロードスターRS(NB8C型)に乗る『ディオ』さんだ。

ディオさんがロードスターを手に入れたのは大学1年生の頃。大学に入学したらクルマを買うぞ! と、中学生の頃から心に決めていたのだとか。

「中学生の頃に見た、RX-7(FC3S型)やスカイライン(R32型)、ザガート・ステルビオ(AZ1型)に惚れて、クルマに興味が湧きました。スポーツカーはもちろんでしたが、クルマ全般が好きだったこともあって、具体的にどのクルマが欲しいといった候補はなかったんです。なので、入学したらまずクルマのことを学ぼうと考え、そのコミュ二ティに属するために自動車部に入ってみました。その頃の先輩で、RX-8に乗っていた人がいたのですが、その姿を見てマツダ車に興味が湧いて。どうせ乗るなら部内の人とは被らないロードスターが良いんじゃないか? って考えるようになったんです」

当初はロードスターのモデルバリエーションすら知らなかったというが、そこからインターネットや雑誌で情報を得て、候補車をNB8C型のロードスターの前期に絞り込んだ。スポーツカーが軒並み高騰している現在では『軽い』『安い』『FR&MT』のパッケージを持つロードスターは、クルマを欲する学生の希望をすべて叶えてくれる最適モデルと言っても良いだろう。

「ロードスターについていろいろ勉強していくと、どんどん好きになっていくんですよね。そうなると少しでも早く手に入れたくなっちゃう。そんな時に、インターネットの個人売買で見つけたのがこのクルマなんです。以前のオーナーはUSDM系のカスタムで乗っていたのですが、所々にDIYチューンの跡やヤレもあって、その分、超リーズナブルな価格で手に入れることができましたよ」

ちなみに、NBロードスターには高回転まで気持ちよく回せる1.6リッターモデルと、可変バルブ機構を搭載して出力、トルク共にアップした1.8リッターモデルの2バリエーションがある。どちらもライトウエイトスポーツを主張できる絶妙なセットアップが行われ、オープンエアで気持ち良く走りたい、幅広い層に受け入れられるユニットとなっているのだ。

「ロードスターの良いところは、なんといってもタフなエンジンですね。回転数を回しすぎて少々レブったところで壊れることはないですし、万が一壊れても鋳鉄製のエンジンブロックなので、アルミ製ブロックよりはダメージが小さい可能性が高いですから。その点でも、安心して楽しめるロードスターを手に入れて正解でした」

自動車部たるもの、整備に関しても当然自分達で行っている。その作業はエンジンオイルなどの油脂類交換から、大小様々な修理、さらにはサーキット走行に備えたメンテナンスなど多岐に渡る。

「学校からは少し離れていますが、自動車部の部室兼、整備ガレージもちゃんとあるので、部員のクルマはそこでメンテナンスしています。このロードスターに関しては、近々タイミングベルトを交換しなければいけないので、みんなでワイワイと作業できればと思っています」

「やっぱり学生のうちは、クルマをイジるにも限界があるんですよね。簡単なメンテナンスは自分でできても、作業によっては知識や経験だけでなく、人手も必要になります。そんな時でも自動車部に所属していると、自然と仲間が集まってきて協力してくれるんですよ。もちろん自分のクルマだけじゃなく、仲間のクルマをイジる時にも手伝ったりするので、クルマに対する知識もどんどん増えていくのは、クルマ好きにとってメリットが多いです」

学内のクルマ好きが集まる秘密基地として、欠かすことのできない居場所となった自動車部。
一般的に大学の自動車部というと、学生自動車連盟が主催するジムカーナやダートラなどの競技に出場するために運転技術を磨くというイメージがあるが、島根大学自動車部はこの学生自動車連盟には所属せず、もっと気軽にカーライフを楽しむことを目的に活動しているそうだ。
とは言っても、もちろんクルマイジりばかりではなく、モータースポーツを楽しむ活動も行っている。部で所有しているミラで軽自動車の耐久レースなどに参戦するほか、ディオさんが発案し、昨年初めて部が主催するサーキット走行会も開催したそうだ。

「自動車部としては、30年以上前には連盟に所属していたようですが、その後、なぜかは不明ですが脱退したままの状態なんです。だから、どちらかと言えばクルマ好きの集まりのような部になってはいますが、みんなで“もっとクルマ遊びを楽しもう”と考えたわけです。島根からは、岡山県の備北サーキットや広島県のTSタカタサーキットなどが最寄りになるので、そこを借りて部員が自由に走れるようなイベントを作りました。もちろんサーキット初心者も多いので、まずは雰囲気を味わって、そこから徐々に走りに熱を入れる部員が増えたら良いなって考えています。そして、僕たちの代で終わりではなく、この走行会を後輩に引き継いでもらって、OBも参加できる部の伝統行事として続いてくれたら嬉しいですね」

個人的にもマイカーのロードスターで、TSタカタサーキットでタイムアタックを楽しんでいるというディオさん。ロードスター購入当初は1分11秒台だったタイムは、現在1分06秒まで徐々に縮めてきた。今後は足まわりのセッティングを煮詰めていき、1分を切るのが目標なのだとか。

とは言っても、サーキットでタイムを狙うのなら、バケットシートやレーシングハーネスは装着したいというのが本心。しかし、まだ勉学が本業と言える学生の身分では、高額なパーツはなかなか手が出せないのが実情だ。それよりも、タイヤや油脂類などの消耗品をケチらないことで、クルマのコンディションを維持することを優先しているという。

そんな愛車の特徴として気に入っているポイントのひとつが、購入時から貼られていたというボディサイドのストライプ。前オーナーが手切りで作ったというミアータ(ロードスターの北米名)のロゴが入れられていて、限定色となるエボリューションオレンジマイカのカラーとのバランスもよく、このロードスターのアイデンティティとなっている。

ボンネットやトランクリッドなどが黒くペイントされているのも前オーナーが行なったDIYカスタマイズ。しかしボンネットは“ノーズブラ”が装着されていたため、塗装の表面が荒れてしまっているのが悩みのタネ。このノーズブラはまだ保有しているが、部員仲間からは不評なため、普段は取り外しているのだとか。

オープンで風を感じながら走るのはロードスターの醍醐味ながら、冬になると雪が舞う島根では、幌よりもハードトップの方が使い勝手が良いのだとか。そこで、広島で売られていたハードトップを購入し、ボンネットやトランクリッドに合わせてブラックでペイントして装着している。

「このハードトップは3万円という破格値で購入できたんです。元色は赤だったのですが、前オーナーが缶スプレーで塗っていたのと、欠けた部分などもあったのが安かった理由ですね。でも、FRPの欠けや塗り直しの作業は自分たちで行ったので、トータルで考えると十分に満足できるプライスでした! 加えて雨漏りの心配もなくなったので、快適性も一気にアップしましたね」

エンジンはノーマルながら、排気系は前オーナーの手で交換されている。特にエキマニが変わっていたことで、NAらしい乾いた排気サウンドが満喫でき、さらに高回転までスムーズに吹けるフィーリングも楽しめるのだという。

「USDM風のカスタム車でしたが、基本的にはほぼノーマルだったことが購入の決め手になりました。車高調整式サスペンションで車高が下がっていたり、エキマニが付いていたりしましたが、フェンダーは爪も折られていない状態でした。走行距離はけっこう走っていましたが、そのまま乗っているのなら手間の掛からないクルマでしたよ」

インテリアに関しては、ステアリングを社外品に交換するのみ。普段の街乗りからサーキットまでマルチに使っているため、快適性を損なうようなハードなカスタマイズは避けているそうだ。

「中高生の頃に自分が想像していた以上にクルマにハマってしまいましたね。そのおかげで、生物学系の学部に進学したのに、就職の希望は自動車関係の会社になってしまったほどですから。とは言っても、勉強したかったのは生物学だったので、その点に後悔ありません。そのうえで、クルマをもっと楽しめる職業に就きたいと、明確に考えるようになったのは自動車部のおかげですし、もし自動車部に所属していなかったら、仕事選びの段階で興味の幅は広がらなかったんじゃないかな」

大学はあくまでも専門的な勉強をするための機関であって、必ずしも就職先とイコールには繋がらない。そのため学びたいこと、そして仕事としてこれから先の人生で向き合いたいことが異なるのは十分にあり得るのである。

やりたいことが明確に見つけられたディオさんにとって、自動車部、そしてロードスターと過ごした学生生活は、人生を充実させる転換点となったことは間違いない。

(文: 渡辺大輔 / 撮影: 稲田浩章、編集部)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:島根大学 松江キャンパス(島根県松江市西川津町1060)

[GAZOO編集部]