還暦を迎えてスタートした青春の第二章。真っ赤な2シーターで駆け巡るロードスターとの物語

  • GAZOO愛車取材会の会場である『米子駅前だんだん広場』で取材したマツダ・ロードスター

    マツダ・ロードスター


子供の頃から、クルマに限らず飛行機や船など、乗り物が大好きだったという『こういち』さん。若かりし頃には、青年海外協力隊の一員として東アフリカのケニアへと渡って中学校の理科教師を2年半務め、帰国後も大阪の貿易会社に就職するなど、故郷の広島と距離を置くことばかりを考えていたという。

「安芸高田の神社の息子として生まれたことから“田舎のお宮のお坊ちゃん”なんて言われるのが、とにかく嫌だったんです。そんな反発心も20代半ばには落ち着き、30年前に帰郷してからは地元の高校で理科教師として29年間勤め上げました。今は定年を経て、再任用で教師業を続ける一方、週末は実家で宮司としても働いています」

  • (写真提供:ご本人さま)

とても穏やかな語り口調が印象的なこういちさん。愛車遍歴は初代カローラFXに始まり、R31型スカイライン、セルボ、クレスタ、レガシィB4、カローラフィールダーなど10台を超える車種を乗り継いできたという。ちなみに、昨年まで乗っていたノートeパワーでは運転の正確さを競いあうJAF公認競技『オートテスト』に8回も出場するなど、アクティブな一面も。

  • (写真提供:ご本人さま)

「色々乗ってきた中でスポーツタイプと言えば、最初に買った4A-Gエンジンを積んだカローラFX-GTくらいですかね。スカイラインは、GTSが欲しかったんですけど高くて手が出せずにパサージュでしたし。ノートeパワーは独特の乗り味で車検を2度受けるほど気に入っていたけど、所有から5年目を過ぎた辺りから、そろそろ次のクルマをと考えるようになり、いつもお世話になっている販売店にいくつか候補を挙げて見積もりをお願いしたんです。その中の一つが、ロードスターでした。オートテストの競技会場でもよく見掛けていて、カタチがカッコ良いし運転も楽しそうだなと思っていました」

とはいえ、有力候補として想定していたのはノート・オーラの4WDや、カローラなど実用志向のモデル。この時点では2人乗りのロードスターはあくまで参考程度の位置付けだったと語るこういちさん。ところが数日後、お店から届いた見積書を見比べてみたところ、思わぬ事実が判明する。

「見た目の印象から“きっと価格もそれなりに高額だろう”と思い込んでいたロードスターですが、他のコンパクトカーとの金額差がほとんどなかったんです。これなら買える! と一気に前のめりになりまして。オーラやカローラは最上級グレードで運転支援機能が満載されているのに対し、同価格帯のロードスターは下から2番目のグレード、Sスペシャルパッケージということで、装備内容はシンプルでしたが、そもそもキャラクターがまったく違うクルマですからね」

「系統の違うクルマを同列で比較すること自体に無理があるワケだし、2人乗りで荷物もたいして積めないけど、還暦も過ぎたことだし一度こういうクルマに乗ってみるのもアリかなと思って。こういった経緯で、具体的に話を進めることになりました。お店の方は私がいきなりスポーツカーなんて言い出したので“どうしたんですか?”と驚いていましたけど」

こうして、自身初のピュアスポーツカーとなるロードスターの購入計画がスタート。
ボディカラーやオプション関係などが決まっていく中、最後に問題となったのがトランスミッションの選択。ご存知の通りロードスターと言えば、絶対数的にマニュアルミッション(以下、MT)がメジャーとされ、こういちさんも当初はMTでの見積もりを依頼していたが、契約時に選んだのはオートマチックトランスミッション(以下、AT)車であった。

「周りからの声も圧倒的にMT推しでしたが、毎日の通勤から買い物まですべての用途をこれ一台でカバーするとなれば、やはり最低限の実用性は必要だろうと。ちょうど別の販売店でMTとATを乗り比べる機会があったので試してみたところ、ATでも十分キビキビとした走りを見せくれたことから、迷いも吹っ切れてハンコを押す決心がつきました。先ほど驚いていたと話したお店のスタッフさんからは、納車のお祝いにとワインを2本も頂きましてね(笑)」

こうして昨年9月、こういちさんの元にソウルレッドのロードスターがやってくることに。取材を行ったのは2025年の5月で、所有期間はまだ8ヵ月余りのタイミングであったが、オドメーターはすでに1万8000kmを突破。平日は学校まで毎日往復60kmの道のりに使われているとはいえ、マイレージの進み具合はなかなかのペースである。
運転時にグローブを嵌めるのはノートの頃からの習慣だが、赤いキャップはオープンでの走行時用として新たに購入したもの。洋服も黒やグレーではなく明るめの色を選ぶようになるなど、ロードスターに乗り始めたことでファッションの志向にも変化が訪れたという。

「シートベルトに巻くレザー製のパッドとか、今まで興味が無かったものにも目が行くようになりました。オープンカーということでゴーグルも買ってみたけど、さすがにこれは実用には向かず、助手席のヘッドレストに飾りとして置いています」

「トランク内のカメラや双眼鏡は、授業の資料として鳥を撮ったり眺めたりするためのもので、クルマの写真は撮りません。写真を撮るより運転している方が楽しいですから。小ぶりで引き締まったロードスターのスタイルは何度見ても飽きませんね。ただ、赤いボディカラーのせいか、私が思っている以上に周囲から目を引いているようで、十分な車間距離を保っているにも関わらず走行中に先行車から道を譲られることが何度かありました。ですから、常に思いやり運転に徹するよう心がけています」

走りに、スタイルに、すべてにおいて大満足という様子のこういちさん。車体周りは手入れが行き届き、乗り込む際には必ず両足の靴の裏をパンパンと軽く叩き合わせて砂利や汚れを落とすなど、日頃から愛情をたっぷりと注いでいることが見て取れる。

「家族の評判ですか? 嫁は自分のN-BOXがあるからと、コレには乗りたがらないですね。次女はオープンカーに興味があったようで、一度乗せましたが、降り際に『なんか思っていたのと違う』と。本人的にはTVドラマみたいな爽やかさを想像していたようですが、実際には、乗り心地が極上というワケではないし、ビュービューと入ってくる風に吹かれ、髪が乱れてしまったようでガッカリしていました(笑)」

「やっぱり、一人でのんびり乗る方が気楽ですね。ドライブは山口県の角島や、九州方面では別府、阿蘇などにも足を伸ばしました。ロードスター同士、すれ違う時に手を振り合ったりしながら。こんな経験は今までのクルマでは無かったですよ。実は最近、MTのロードスターも気になっているんです。もちろん、このクルマを手放すつもりはないけど、隣に旧いNA型ロードスターのMT車を並べられたらと、頭の中で妄想しています。実現するのは5年先か、10年先の話になるのか分かりませんけどネ」

開放的なオープンエアモータリングの醍醐味を、存分に堪能することができるロードスターは、円熟期を迎えた大人のライフスタイルに、彩りをもたらしてくれる最高のパートナーとなっている。
「こんな素敵な世界があったなんて、もっと早く買っておけば良かったです」。そう語るこういちさんだが、嬉々とした表情でコクピットにおさまる姿を見れば、そのタイミングは決して遅過ぎではなかったことは誰の目にも明らかだろう。

(文: 高橋陽介 / 撮影: 稲田浩章)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:米子駅前だんだん広場(鳥取県米子市弥生町2-20)

[GAZOO編集部]