いつか乗ってみたいと憧れた“ダートラで速かったカローラレビンTE27”を嗜む
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トヨタ・カローラレビン(TE27型)
『三つ子の魂百まで』のことわざではないが、旧車や絶版車を所有するオーナーたちにその車種を選んだ理由を尋ねてみた際に、よく耳にするのが『憧れ』や『当時は買えなかった』というキーワードである。
クルマ好きにとっても若き日に抱いた思いというのは、長い年月を経ても褪せることなく心に刻まれているもの。ここで紹介するオーナーも、まさにそんな思いでトヨタ・カローラレビン(TE27型)のオーナーとなったひとりだ。
「購入しようと決めたのは、今から9年前。キッカケはTE27が欲しいという友人の付き添いで専門店に見に行ったことでした。友人がお目当てだったクルマの各部をチェックしながらいろいろと店主と話をしていると『もう1台あるよ』というじゃありませんか。当時はホンダ・S2000を所有していたのでそんなつもりはなかったでのすが、TE27は若い頃に憧れていた存在だったので…我慢できずにオーダーしてしまったのです」と、購入の経緯を教えてくれた。
遠く過去の歴史を紐解いていくと、現在65歳のオーナーがTE27に憧れを抱いたのは18歳の頃。当時のTE27は、若者たちにとってどんなクルマだったのかは気になるところだ。
「私は16歳でオートバイに乗り始め、18歳にクルマの免許を取得。当時(昭和50年頃)は、今のようにサーキットを走るのは簡単ではありませんでした。そこで気軽にモータースポーツを楽しめる場所として人気だったのが“ダートトライアル”で、宮城県でもレースにはかなりのエントリー台数が集まっていたんです」
「私も免許とってすぐ、街乗りの110サニーGXやKP61スターレットでノーマルクラスに参加していましたが、改造クラスで多く走っていたのがTE27型のレビンとトレノでした。レース用にチューニングされたマシンは、音や速さが別物で『いつかあんなクルマで走ってみたいな』と憧れていたんですよね」と、当時を振り返る。
TE27型カローラレビンとスプリンタートレノは、AE86でおなじみのレビン、トレノシリーズの初代モデルで、登場したのは1972年。標準仕様では1200~1400ccを搭載するE20系カローラ&スプリンターの2ドアクーペのボディに、ひとクラス上の車種であるセリカ用の1600cc 4気筒エンジン2T-Gを搭載したホットスポーツモデルだ。
ボディはレビン、トレノともにオレンジ系とグリーン系の専用色となっているほか、純正で前後にオーバーフェンダーを装備しているのが特徴で、今で言うならGRヤリスのような存在とすればイメージしやすいかもしれない。
なんといってもまず驚くのは非常にコンパクトなボディサイズ。全長3955mm、全幅1595mmというサイズは現行のコンパクトカーよりもふた回りは小さいイメージで、2335mmのホイールベースは軽自動車以下。車重もわずか855kgと知れば、そのサイズ感がよくわかるのではないだろうか。
「私が購入したのは1973年式のカローラレビンなので、マイナーチェンジ後の後期モデルということになります。この個体は約20年ほど専門店でストックされていたクルマで、私がオーダーした後に2年間かけてエンジンやメンバーなどをすべてバラしてフルレストとオールペンしてもらったものです。速さを求めてレビンを購入したわけではありませんし、トラブルも嫌なのでエンジンやソレックスキャブレターは基本的にノーマルのままで、排気系のみメーカー不明のタコ足とフジツボ製のマフラーに変更しました」
「サスペンションもノーマルです。今日履いているホイールは、AE86に乗る友人から譲り受けた当時物のRSワタナベですが、ほかにトスコ(TRDの前身となるトヨタの競技パーツメーカーで、正式名はトヨタスポーツコーナー)のお宝ホイールも持っています」
確かに2年も費やしたフルレストによる美しい仕上がりは、まるで新車がタイムスリップしてきたかと思う程のミントコンディション。晩秋を感じる褐色のすすきに燃えるようなオレンジのボディがよく映えていた。
「購入後に知ったのですが、TE27の特徴のひとつであるオーバーフェンダーが、このクルマは前後で素材が違うんです。というのも前期モデルはFRP製、後期モデルはスチール製なのですが、私のは理由はわかりませんが、フロントがスチール製、リヤがFRP製なんです。もちろん内装もすべてレストア済みです。ただし完全にオリジナルではなく、運転席はレビン純正の表皮を張り替えていますが、助手席と後席はおそらくデラックス用のものです。そのためクッション部のデザインが多少異なるんですですが、それに関してはあまり気にはなっていません。モモ製のステアリングやオーディオは、購入後に好みで装着したものです」
聞けばこのTE27レビンの他にもS2000やローバーミニも所有しているそうで、それらクルマを選んだ理由や、それぞれの楽しみ方も気になるところだ。
「じつは結婚したのをキッカケに長い間クルマ遊びはお休みという状態だったのですが、50歳を迎えるころに『再び走りを楽しみたい』と思うようになりました。そこで選んだのが日産・シルビア(S15)。今度はダートラではなく西仙台ハイランド(後の仙台ハイランド)でサーキット走行をするようになりましたが、残念ながらクラッシュしてしまったので、次のクルマとしてS2000を購入したんです。しかしS15に比べると、S2000は乗りこなすのが難しいですね。他にも仲間と軽自動車の耐久レースに出ようとアルトも作りましたが、こちらは何回か練習したくらいで、結局レースに参加することはありませんでした。そしてローバーミニは普段乗りにも使っているクルマです。これも40年くらいに乗っていた想い出深いクルマで、友人が手放すというので譲ってもらうことにしたんです」
長いブランクを経てクルマ遊びを再開してから約15年。今はそれぞれ個性的な3台のクルマで第2の青春を謳歌するオーナー。最後にこのTE27ならではの魅力を聞いてみることにした。
「TE27はイベントやミーティングへの参加がメインで、走行距離は2年間で1000kmくらいです。走る度に『やっぱり良いな』と感じるのは、ガソリンやオイルの“匂い”ですかね。エンジン音や排気音だけでなく、各部から発するノイズも含めたクルマが発するサウンドが走行中のBGMです。基本的にノーマルですし、絶対的な性能は今どきのクルマにはかないませんが、中間域の力強さは排ガス規制前のクルマならではという感じで、本当に気持ちが良いです」
今回の取材に、終始青年のような笑顔で応えてくれたオーナー。
単なる機械としてではなく、クルマを通じて気持ちを若返らせてくれる。そんな不思議な力があるのも、旧車ならではの魅力なのかもしれない。
(文: 川崎英俊 / 撮影: 堤 晋一)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:鮎川浜山鳥渡し駐車場 (宮城県石巻市鮎川浜)
[GAZOO編集部]
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