【素敵なカーライフレシピ #14】愛車のハチロクは走行距離366,000キロで今も現役

クルマのある暮らしはオーナーの味付け次第。ひとりひとりの人生を豊かにするレシピは十人十色です。こちらではどんな調理法でクルマとの生活を楽しんでいるのかをご紹介します。

第14回目に登場していただくのは、38年もののトヨタAE86(通称ハチロク)を所有する佐藤夏恵さん。20代でクルマに目覚め、好きなものを突きつめたいと秘書とガソリンスタンドの仕事を両立し、経験と技術を身に着けました。おかげで愛車AE86は、33年たった現在もコンディション良好で、佐藤さんの心強い相棒です。

待ち合わせの5分前。どこからともなく聞こえる“ドドドドド”っというエンジン音で、佐藤さんの到着を知った取材班。ロータリーにいた何人かは彼女のクルマにクギ付けになり、通り過ぎたあとにふり返る人も。

それもそのはず、佐藤夏恵さんの愛車は通称 “AE86(ハチロク)”と呼ばれる「トヨタカローラ レビン」。1983年にトヨタから発売されたこのクルマは、当時のスポーツカーブームを牽引した1台です。
その後モデルチェンジを重ねながら、現在も愛され続けているAE86ですが、佐藤さんがこの愛車に出会ったのは今から33年前のこと。

「当時私は会社で秘書の仕事をしていましたが、本当にやりたいことが見つからず、モヤモヤした気持ちのままなんとなく働いていたんです。でもある日テレビでバイクの8時間耐久レースを見て、ピンときました。これは楽しそうって!」

「でもまったくの素人だった私はとりあえずいろいろ勉強になるかもと、ガソリンスタンドでバイトを始めたんです。もちろん会社には内緒。9時から17時まで秘書として働き、19時から23時まではガソリンスタンドでバイト、24時から3時くらいまで愛車で都内を流す……。この生活を4年続け、その後ガソリンスタンドに再就職しました。当時まだ20代だからできたことです」

カーレースも盛んに行われていた当時、多くの若者が自分のクルマをレース仕様に改造していました。なかでもサスペンションの改造が容易だったAE86は、とくにチューニング思考の強い走り屋を中心に大人気。佐藤さんが働いていたガソリンスタンドでも、6人ものスタッフが乗っていたほどです。

「ガソリンスタンドで働き始めて間もなく、自分がバイク向きではないと悟った私は、もれなく5年落ちのAE86を手に入れました。前のオーナーもレースに参加していたらしく、サスペンションやマフラー、ステアリングなど、チューニングしてあったんです」

「バイクを諦め、レースに参加するわけでもない私は、このレース仕様のAE86をどうしたものかと悩みました。そして悩んだ末、普段の足として乗るならやはりノーマルな状態の方がいいと思ったんです。運転しやすく、乗りやすいように考えてデザインされているわけですから」

左は前のオーナーが装着したステアリング。交換した純正のステアリングは知り合いのジャーナリストさんから譲っていただいたもの。元は広報車に使われていたという高級レザー仕様。しかし、重ステのため長距離の運転やカーブが続く道路での運転は、腕がパンパンになるそう

タイヤ+ホイールも前オーナーが装着したものから当時オプションで販売されていたドイツのイントラ社製ノーマルホイールに交換。仲良しの車屋さんに手に入れてもらいました

こうして“ノーマル化計画”として元に戻すことを決意した佐藤さんが始めたのが、純正のパーツ探し。幸いにもトヨタには相互性のあるパーツが多く存在し、30年以上経過したクルマのものでも、新品で入手できることも多いのだそう。

「今回はサスペンション、次回はステアリングというように、少しずつパーツを手に入れては交換の繰り返し。随分と時間がかかりましたが、AE86のレストア専門の整備工場の皆さんのおかげで、無事ほとんどのパーツを発売当時の状態に戻せました」

「クルマ業界は狭いので、私が何かを探しているとどこかで誰かが聞きつけて、うちにあるよと連絡が入る。ですからパーツ探しに困ったことはありませんでしたね。多くが新品だったり、かなりコンディションがよい状態なので、実は見た目より中身はしっかりしているんですよ」

相棒歴33年目となり、走行距離はなんと366,000キロ! 安心&安全に乗るためには日々のチェックが欠かせません。ガソリンスタンドに勤めた経験から、かつては自身でメンテナンスをしていたそうですが、現在は専門家にお任せしているそうです。

  • 専門の整備工場で整備中の愛車

  • 車検を終えて戻ったAE86は、エンジンルームもピカピカ!

「数年前からAE86専門店が主催する、“筑波1000”というスポーツ走行会に参加しているんです。せっかく出るならいいタイムを出したいので、半年に一回のレースに備えて徹底的にメンテナンスをしてもらっています。もちろん、普段は乗る前とあとにエンジンルームを目視で確認したり、水温計や油圧計を確認したりと、基本的なチェックは欠かしません」

「実は昨日まで車検に出していたんですが、ついでにあちこち気になっていたところを伝えたら、想定内の大工事になりました。お陰でピッカピカになって戻ってきたのですが、逆に調子が良すぎて、慣れるまで大変です(笑)」

ガソリンスタンドに勤めたのは通算24年。昔の仕事仲間は今も都内のガソリンスタンドで働いていて、「困ったときにはいつでも連絡して!」とサポートしてくれているとか。まさに怖いものなしのカーライフです。

こうしてまだまだ走る気満々のAE86と佐藤さん。近所への買い物からドライブのお供、近隣のサーキットまで応援など、毎日足代わりとして大活躍です。こんなにもAE86を愛する彼女に、あえて「もし愛車がとうとう動かなくなってしまったらどうしますか?」と聞いてみました。

「ハチロクは構造がシンプルなうえ、未だにパーツが豊富に揃うんです。だからメンテナンスさえ続ければずっと乗れるクルマだと思っています。私が運転できるうちはずっと相棒。他のクルマに乗ることは考えたこともありません」

当面の目標は愛車AE86とタッグを組み、筑波1000でいいタイムを出すこと。優しい笑顔とは裏腹に、強い闘志とAE86愛に溢れた佐藤さん。ドドドッ、ブロロロロッというエンジン音を響かせて、髪をなびかせながらさわやかに走り去る彼女は、キラキラ輝いていました。

(取材・文/土屋みき子(officetama,Inc.) 写真/村上悦子)

[ガズー編集部]

愛車広場トップ