10年かけてレストアするもまだ道半ばという拘りの“エーダブ”(トヨタ・MR2)

  • 信州サンデーミーティングで取材させていただいた1989年式 トヨタ・MR2(AW11) Gリミテッド

    1989年式 トヨタ・MR2(AW11) Gリミテッド

工業製品の宿命で、クルマの好調を維持していくためには走行距離や年数に応じたメンテナンスが不可欠となる。
特に近年人気が高まっている絶版車や旧車では、基本的なメンテナンスに加えて、内外装や機関類の劣化やダメージの補修は必須。そうした補修作業はレストアと呼ばれ、その手法は様々だが、中でももっとも手間と時間がかかるのが新車当時の状態を目指す、純正部品を使ったフルオリジナルのレストアということになるのではないだろうか。
その理由は言うまでもなく、メーカーが在庫している補修用の純正パーツは一部の例外を除けば再生産されることはないので、年々入手が困難になっていくからだ。そして、運良く在庫があったとしても価格がどんどん高くなってしまうというのも、旧車オーナーの多くが抱える悩みのひとつとなっている。

さて、そんな苦労を乗り越えて、自分が理想とするスタイルを追求し続けているのが『信州サンデーミーティング』に参加していたAW11型トヨタMR2オーナーの深澤さん。
フルオリジナルにこだわって2022年に完成したマシンは、まさにため息モノの美しさ。まるで新車が販売された当時にタイムスリップしてしまったような感覚を覚えるほどだ。では早速、ここまでの経緯を詳しく伺っていくこととしよう。

「この1989年式の最終型Gリミテッドは今から12年前に購入したものです。AW11が発売されたのは私が高校生の時だったのですが、当時から欲しいと思っていました。しかし、免許を取って最初に購入したのはMA45セリカXX。その後はST185セリカ、GZ20ソアラと、トヨタのスポーツ車を乗り継いでいましたが、AW11には乗る機会はないままだったんです。そして結婚してからは、家族でスキーを楽しむために4WDのRAV4に長く乗っていましたね。そんな私がAW11を手に入れることになったのは、この信州サンデーミーティングを主催している、トップランの清沢社長との出会いでした。いろいろ話をしていくうちに高校時代のAW11への憧れが蘇り、オークションでこのクルマを見つけてもらったんです」
なるほど、AW11は“初恋の相手”のような存在となれば、愛着が湧くのも納得だ。

トヨタMR2(AW10/11系)は、1984年にデビューした国産車初のミッドシップ2シータースポーツカーだ。エッジの効いたコンパクトなボディのデザインは日本刀をイメージしたもので、パワートレインはE80系カローラのものをベースにミッドシップ搭載用に変更が加えられている。
型式はOHC8バルブにシングルキャブレター仕様の1.5L エンジン3A-LUを搭載したSグレードの型式がAW10、1.6L DOHC16バルブにEFIの4A-GELUエンジンを搭載したGおよびGリミテッドがAW11と区別されている。またAW11と言えばスーパーチャージャー仕様(4A-GZE)がよく知られた存在だが、これは1986年のマイナーチェンジで追加されたもので、前期型は1.5L、1.6Lとも自然吸気タイプのみの設定だった。

そのほかにも後期モデルの変更点は多岐に渡り、深澤さんがお気に入りのポイントとして挙げてくれたTバールーフもマイナーチェンジ後の後期モデルで設定されたもの。
「取り外しができるグラスルーフ部分がミラータイプとなっているのですが、ここに映り込む景色で四季を感じられるのがとくに好きなんです」と、紅葉が映り込んだ愛車のルーフを嬉しそうな目線で眺めていた。

また深澤さんの最終モデルでは、LEDストップランプ内蔵のリヤスポイラーや電動格納式ドアミラー、ぼかし入りのブロンズガラスなども装備される。
「購入当時はこんな状態ではなく、外装のダメージはもちろん、内装もシートが破れていました。そこで外装は純正色でオールペイントし、灯火類のレンズも純正が入手できるものは交換、廃番になっているものはリペアしています。なかでも苦労したのは外装のアクセントとして欠かせないデカール類でした。これらは純正パーツの中でも真っ先に廃番になってしまうものなので、知り合いの看板屋さんにお願いしてワンオフで製作してもらいました。車内も洗浄を行なった上で、傷んでいた部分を補修しました。また社外品に変わっている部分も多かったので、ノーマル戻しのための純正パーツ集めも苦労した部分ですね」と、深澤さんのこだわりは細部に至るまで徹底したものである。

「以前は愛車をカスタマイズしていた時もありましたが、今では古いクルマはノーマルこそが一番美しい本来の姿だと思っています。こうした一連のレストア作業は、予算の都合もありパート毎に行なってきたため、ナンバーが付くまでに3年、現在の状態になったのは2022年でしたから、購入してから10年もかかってしまいましたね」

  • 信州サンデーミーティングで取材させていただいた1989年式 トヨタ・MR2(AW11) Gリミテッド

    1989年式 トヨタ・MR2(AW11) Gリミテッド

そして、そんな苦労を積み重ねて完成した愛車に、最近追加されたアイテムがこちら。
「この丸いゼッケンは、完成を記念して参加した『トヨタ博物館クラシックカー・フェスティバル』のパレードランの時のものなんですよ」

そんなAW11のオーナー以上のファンだというのが、お父さんとペアルックで助手席に乗ってきた息子さんの康皓(こうき)くん。
「以前は電車の写真を撮るのが好きでしたが、今はクルマの方がカッコイイと思っています。お父さんのMR2では、助手席からギヤ操作をしているところとか、メーターの中のスーパーチャージャーのランプが光るのを見るのが楽しいです。もちろん将来はマニュアル免許を取って、このクルマに乗るつもりです。もしそれまでにお父さんが手放してしまっても、同じクルマを買います!」
心強い後継者がいるようだから、この美しいAW11の将来は安泰だろう。

聞けば深澤さんのAW11のレストアプロジェクトはこれで終わりではなく、まだまだやりたいことがあるのだそうだ。
「今後は、まだ手つかず状態のエンジンと足まわりもレストアしたいです。その際には、できればトヨタ博物館の車両も手掛けている新明工業さんに依頼したいと考えています。これからもこのAW11を家族の一員として長く付き合っていきながら、最終的にはトヨタ博物館に寄贈できれば本望ですね」と締めくくってくれた。

取材協力:信州サンデーミーティング
(⽂:川崎英俊 / 撮影:岩島浩樹)
[GAZOO編集部]