「日本をもっと知りたくて」全国を旅する個性派オーナーとダイハツ・コペン
赤いボディに白い水玉でエクステリア全体をコーディネイトした、2002年式のダイハツ・初代コペン(L880K)。街中で出会ったら思わず目で追いかけてしまうであろう独特なルックスのコペンに乗るのは、長野県在住の女性オーナー、IKUさんだ。
「よく、ミニーちゃんとか、てんとう虫とも言われるんですが、尊敬している草間彌生さんのデザインをモチーフにしているんです」
網目や水玉といった模様を使った芸術作品で知られる、世界的に著名なアーティストの草間彌生氏は長野県松本市出身であり、IKUさんが住む安曇野市とはお隣同士。作品への共感だけでなく同郷という縁もあり、外装以外にもスカーフや人形など、様々な草間彌生氏にまつわるアイテムが飾られている。
このように、現在はもともと生まれた長野県にお住まいというIKUさんだが、これまで東京、神奈川、札幌といった各地でカーライフを歩んできたという。
「中学生のころに漫画や雑誌の影響でクルマ好きになってから、10代のころはクルマ好きのギャルという感じでしたね」
長野からの上京のきっかけはバスガイドになるため。ところが、いざ仕事に就くと業務内容のあまりのハードさに絶望し、ほかの職を探すようになったという。
「それで川崎市のほうに引っ越して、ガソリンスタンドで社員として働くようになったんです。『スタンドで働けば毎日お客さんの乗っているいろいろなクルマが見れる!』っていう、単純な理由なんですけけどね(笑)」
そして、そこで知り合ったクルマ屋さんから、格安の1万円で購入したクルマが初の愛車となったという。
「とにかく免許取り立てで運転が下手だから、練習のためのクルマが欲しいと頼んで、出てきたのが貨物車登録された4ナンバーのボロボロなミニカだったんです」
その頃の遊びといえば、仲間と一緒に夜な夜なパーキングエリア等に出かけて交流するといったもので、いわゆる当時のクルマ好きギャルといったイメージ。
「好きなクルマもオールジャンルだったので、GMのインパラに乗って大黒に集まっていた人達と一緒に、テレビの取材を受けた思い出もあります(笑)」
その後は仕事の都合で札幌へ引っ越しとなり、20代のほとんどを過ごすことになったというIKUさんが、北海道の地でマイカーに選んだのはスズキのワゴンRだった。
「もともとそういう雑誌を読んで育ってきましたから、当時流行りのコテコテのギャル車にイジって乗ってました(笑)。車高を下げて、ボディカラーも偏光塗料のマジョーラに塗ってあって、内装もハデに飾っていましたね」
そうして札幌で約10年間を過ごしたのち、現在の住まいである長野県に戻ってきたのは30歳を迎える手前だった。
長野に帰ってきてからも最初は昔のようにガソリンスタンドで働いていたが、それからおよそ6年経った頃に、現在のお仕事であるバーの経営を始めるに至ったという。
「その当時は好きなクルマに乗る生活からはちょっと離れていました。息子2人を大学まで行かせようと思っていたので、そのために色々と節約しなければならなかったですから」
そんなIKUさんが無事に子育てを終え、現在のコペンにつながる“大好きな愛車と過ごす日々”を送るようになったのは今から6年前のことだった。
「ミニのクーパーSクラブマンです。新車で出た当時にすごく気になったクルマだったんですが、その時は買えなくて。なかでもブラウンのホットチョコレートというカラーリングが好きで、中古車屋さんに並んでいるのを見て、一目惚れという感じで購入しました」
そのクラブマンは6年経った現在でも所有する愛車となり、2年前の2021年に増車という形で購入したのが、今回取材させて頂いたダイハツ・コペンだ。
「オープンカーが欲しいのは最初から決まっていて、いろいろなクルマの中から候補を考えていたんです。そんな時に、東京オリンピック仕様の白いナンバープレートを取れる期限がもうすぐ終わると知って、それなら軽自動車で取るしかない!! と、コペンに決めました。ナンバー申請の期限が近づいていたので、とにかく急がなきゃいけないと3日間で1700km、名古屋から横浜まであちこち走り回ってコペンを探しました。最終的には群馬で買うことになったんですが、赤白のツートンにオールペンされた綺麗なボディと、オーナーさんが良い人だったのが決め手になりましたね」
晴れてオリンピックナンバーを取得してコペンオーナーになる傍ら、手に入れたコペンを自分好みのどういった仕様に仕上げていくかを考えたというIKUさん。
「コペンを買うにあたって、インスタとかSNSでオーナーさん達のコペンを参考にさせてもらうと、皆さん自分でイジって乗っている方が多くて。そういった方々のクルマを見ていくうちに、私も自分だけの特別なコペンを作りたいと思うようになったんです」
そして、IKUさんが作るオンリーワンのコペンは、草間彌生氏をリスペクトした水玉模様のカラーリングに仕上げられることになったとのこと。ちなみにこれらの模様は、友人と一緒にカッティングシートを切り貼りして自作したものだ。
また、外からもよく見えるオープンカーの内装も、赤を基調にした差し色を追加する。ファブリックをアルカンターラに張り替えるといったカスタムは、大阪のプロショップへ半年に渡って通い続け、仕上げていったそうだ。
シフトレバーは、カクレクマノミが泳いでいる南国の海をイメージし、レジンを使って製作。これはIKUさんが経営するバーが、アクアリウムの展示を行なっていることに由来する。
「コロナが流行ったタイミングで、それまで接客重視だったお店の形態を大きく変える必要があったんです。そんな時に、東京や川崎に住んでいた頃、疲れた時に行って癒やされていた水族館を思い出して。ウチのお店にも水槽を置いて、アクアリウムを鑑賞できるバーにしようと。長野県には海がないですしね(笑)」
コロナ禍による自粛期間は、夜間営業に対して時短要請が出たことで、仕事を休まざるを得ない期間が続き、愛車との生活スタイルにも変化が起こったという。
「日本人に生まれたけど、日本のことをあんまり知らないなと思ったことから、その時間を利用してコペンと一緒に全国を回ろうと思ったんです。飛行機やフェリーが必要なところは行けていないですが、自分の足も含めれば四国以外の都道府県を訪れることができました。その期間で4万6000kmをコペンと一緒に走りましたね」
それからというもの、行ったことのない場所への旅行が趣味のひとつになったというIKUさん。いよいよ今度は海外へ行きたいと思うようになり、まずはアメリカのニューヨークを目指すようになったそうだ。
「海外はお金がかかるから、本職以外にバイトをして貯めました。夏の間だけですが、普段の仕事が終わってから、朝5時から10時まで、いちご農家のバイトを3年間。寝る間も惜しんで大変でしたが、家族から『なんでお母さんだけ』と言われないように、自分で頑張ったご褒美だよと(笑)」
海外に愛車のコペンを持ち込むことはさすがに難しそうだというが、やりたいことに向かってこれだけ本気になれる行動力には驚かされるばかり。詳細を話しだしたらとてもここでは紹介しきれないコペンのカスタムも含め、オンリーワンだらけなIKUさんと愛車の濃厚なカーライフの片鱗を聞かせて頂いたのであった。
取材協力:信州サンデーミーティング
(⽂:長谷川実路 / 撮影:土屋勇人)
[GAZOO編集部]
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