オーナーとして整備士として、80スープラは一緒に切磋琢磨できる、同じ年齢の身近な存在



トヨタスープラ(A80型)を愛車にするStream Front(以下、ストリーム)さん。かつてはGT500マシンのスープラが好きで、市販されているスープラへの思い入れはなかったそう。ところが今では「世界に誇れるドライバーファーストの1台」と公言するほどスープラに誇りを持ち、より深く理解するべく自身の手でメンテナンスや車検整備を行っています。

今回は、そんなストリームさんとスープラのお話です。

――ストリームさんがクルマに興味を持ち始めたのは、いつからですか?

物心がつく前から、ミニカーに興味があったと聞いています。ちゃんと自覚したのは愛知県での生活からなので、9歳からですね。

――愛知県での生活からクルマに興味が? どういうことでしょう

私の親はいわゆる転勤族で、幼少期から青年期にかけて静岡、愛知、京都、鹿児島と、生活の場を転々としてきました。物心がつく頃は万博で湧く愛知で暮らしており、トヨタを中心とした自動車産業に囲まれて育ちます。子供心に「これはすごいぞ」と、クルマに興味を抱き、理解が進むにつれてクルマが好きになっていきました。

――なるほど。ストリームさんは現在、スープラを所有されていますが、これまでのクルマの遍歴を教えてください

18歳の時、父から譲り受けたスープラが最初のクルマです。現在、所有するスープラと同モデルですが、父のスープラはMT、今のスープラはATという違いがあります。22歳で今のスープラに乗り換え、同年中にホンダ・ゼストスポーツを増車しました。

――お父様もスポーツカーがお好きなんですか?

いえ、父はスポーツカーよりもミニバンなどの、大きな車を好むタイプです。スープラの購入は、私への善意によるものです。

――ストリームさんへの善意とは?

まず私がスープラを知ったのは9歳の時で、JGTCに参戦していたスープラがきっかけです。当時はテレビ番組の『激走!GT』を毎週、欠かさず視聴していましたね。

GT-RやフェアレディZ、NSXは、非の打ちどころがない“速そうで格好いいクルマ”。一方のスープラは丸くて可愛いいのに、GT-Rたちと同じクラスで走る“異質なクルマ”に見えて、そこにとても惹かれました。

それから14歳まで、私がことあるごとにスープラへの愛を家族に語っていたら、突然、父が「スープラを探しに行こう」といってくれたんです。父は既にトヨタの初代アルファード ハイブリッドを所有しており、私のためにスープラを購入し、所有してくれるという申し出でした。

――子供のためにスープラに乗るなんて、きっぷの良いお父様ですね

はい、父には感謝しかありません。この時、父は単身赴任で離れて暮らしていたため、私が中古車情報サイトでめぼしいスープラを調べ、最終的な決定権までもらえました。

――購入したのはお父様ですが、選んだのはストリームさんというわけですね。スープラが身近に納車されたときの気持ちは、いかがでしたか

それが特に嬉しいわけでもなく、運転席に座っても「こんな運転席だったのか、知らなかった」って、感心こそしたものの、ときめきは抱きませんでした。当時の私が好きなスープラは、あくまでJGTCに出場していたGTカーで、市販車ではなかったので……。あまりにも表面的で、なにも知らなかったなと、振り返って思います。

――では、はじめてスープラを運転したときの感想を教えてください

高校を卒業してすぐに運転免許を取得し、スープラを譲ってもらえました。そのため、はじめて運転した印象も「教習車よりもクルマに重厚さを感じる。クラッチは重いが運転はしやすく、乗り心地もいい」と、教習車と比較したものになりました。

――2台目のスープラに乗り換えられた経緯は、どのようなものでしょう

1台目のスープラは、雨の高速道路で不測の事態により自走不能となりました。当初は直して乗り続けるつもりでしたが、運び込んだ修理工場より「修復は厳しい」という連絡が入り、乗り替えを決めました。

GRスープラがデビューした翌年の出来事で、90年代スポーツカーの高騰が始まった頃でもあります。乗り替えはGRスープラを選んだ方が現実的だったのですが……。

――引き続き、同モデルのスープラを選んだんですね

はい。父からスープラを譲り受けたころ、私はスープラに関してなにも分かっていませんでした。けれど自動車整備士の専門学校を卒業し、社会人となって2年目を迎えた当時、このスープラがトヨタやクルマの系譜を知るうえで、どれだけ重要な存在であるかを認識していました。

スープラから学ぶべき事柄はまだまだ多く、ここでGRスープラを含め、他の車種に乗り替えてしまったら、スープラの本質を知らないまま終わってしまうと思ったんです。

あと仕事柄、何度かGRスープラに触れており、自分の手でクルマをいじることを考えると、少し距離を感じてしまったというのもあります。

1台目を部品取りにすることもあって、2台目の条件は1台目に近い仕様であること。運良く、すぐに17インチ純正ホイール(SZだとオプション)を履いた、白のSZが見つかりました。整備士としてキャリアを積んだこともあり、2台目の程度に対する許容範囲も広くなっていました。中古車販売店で現物を確認し、問題のない車両と判断。その場で購入を決めました。

――先ほど「2台目のスープラはAT」と、うかがいました。MTとの差はありましたか?

速く感じますね。楽しさなどを別に速さだけで考えるなら、ATの方が速く感じるのだと知りましました。

――2台のスープラを乗り継がれ、感じた魅力や好きなところを教えてください

当時のトヨタ車で、スープラほど高速巡航性能の優れた車両は存在しないと思います。車両重量の必要性も教えてくれる、安定した乗り心地が魅力です。くわえてコクピットは視界の広さをふくめ、運転の楽しさを見事に伝えてくれます。世界一、ドライバーファーストの運転席ですね。

――スープラを所有しているからこそ、得られた出会いや嬉しかったことはありましたか?

もちろんです。スープラを所有していることで、多くの方と関わりを持つことができ、また、オフ会に招いていただきました。特にスープラのオーナーとして『スープラオーナーズクラブ(以下、SOC)』に入れたことは、今でも感慨深いです。

このSOCの存在を知ったのは社会人になってからです。これまでに数回、オフ会に参加していますが、初対面の方であってもスープラが好きなのは間違いないので、ためになる話や、やり取りがいつもあります。

――特に思い出深かったオフ会はありますか?

SOCは『スープラ全国ミーティング』という大規模オフ会を定期的に開催しており、2021年の開催では、GT500マシンの「エッソ ウルトラフロー スープラ」が展示されていました。

まさに私がスープラ好きになるきっかけとなった車両の1台です。実物を目の当たりにでき、さらにタイミング良く自身のスープラと一緒に撮影する機会ももらえました。これには感動しましたね。

また、とある方のご自宅まで、オフ会メンバーの皆さんと一緒に訪問させていただいたことがあります。クルマ好きなら誰もが理想と思うガレージを備えた、立派なお宅でした。クルマを交えたライフスタイルを考える上で、ひとつの答えを見せていただけたことは本当にありがたく、思い出深い1日でした。

――オーナーならば、誰しもガレージの所有は考えますものね。2台目のスープラと同じ年に、ゼストスポーツを購入されています。どのような経緯で購入されたのでしょう?

1台目のスープラは日常的に利用していたのですが、2台目を購入する頃になると、このスープラは価格や価値の高騰、遠くない将来に交換部品が品薄になることがみえ、消耗を避けたい環境になっていました。もっと気兼ねなく乗れるクルマが必要になり、増車を決めました。

トヨタだけではなく、他メーカーのクルマを所有した方が勉強になると思い、また、かねてから「ホンダ車を所有したい」という気持ちもありました。価格や条件、そのクルマの素性から検討した結果、ゼストスポーツにたどり着きました。

ここまで5年間、ゼストスポーツには日々、活躍してもらっています。のちのNシリーズに繋がるとあって、とても良いクルマです。スープラと同じように私がメンテナンスを行い、動かなくなるまで走ってもらおうと考えています。

――SNSの活動についておうかがいします。まずストリームさんがSNSを始めた経緯を教えてください

スープラを含め、旧車に乗るには情報や関係者との繋がりがとても大事だと思い、始めました。またメンテナンスやオフ会の参加など、自身の活動記録も兼ねています。

――クルマ以外の趣味や熱中していることはありますか?

ラジコン、自転車、写真、バスケットボール、ご当地グルメ巡りなどなど、色々とあります。特に自転車は「自らの気持ちと動力で目的地まで行く」という信条と合致するため、強い思い入れがあります。

まだクルマを運転できなかったころは、自転車で各地を旅していました。出先での不具合に対応するため、整備も自然と習得しましたし、自転車からしか見えない景色が沢山あることも学べました。頻度は減りましたが今でもゼストスポーツに自転車を積み、出先でポタリングをしたりしています。

――それでは最後になりますが、ストリームさんとスープラの関係がどのようなものかを教えてください

幼い頃、クルマは未知の存在でした。最初のスープラは運転免許を取得するまで実物大のプラモデルで、専門学校で資格を取得してからは最高の実務経験取得車両に。自分で購入したスープラは、同じ年齢(年式)で切磋琢磨できる身近な存在なりました。

スープラの日頃のメンテナンスや車検は、私自身の手で行っています。切磋琢磨という表現は、経年劣化や盗難対策といった降りかかる課題に、一緒に取り組んで解決していく気概を込めています。

スープラとのカーライフが、私の生き甲斐を生んだことは間違いありません。他の人から「あなたは変わっているよね」といわれるようにしてくれたスープラには感謝しかありませんね。

デザインから好きになり、スープラの生まれた背景や注ぎ込まれた技術を理解するにつれ、愛を深めたストリームさん。これからも主治医として自身の手を汚しながら整備を行い、他のオーナーと交流を重ねながら、スープラとの絆を深めて行くのでしょう。

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(文・糸井賢一)

MORIZO on the Road