“維持る”という美学。兄弟でつなぐS660は、唯一無二の相棒
「002ka034」さんのSNSでは、旅した先々で愛車とともに撮影した風景が発信されています。緑が深い林道、岬の集落を見晴らす展望台。風景の美しさはもちろん、空気感も伝わってくるドライブフォトが素敵です。
そんな002ka034さんの相棒は、ホンダ・S660 α。2025年でデビュー10周年を迎えたS660は、ホンダ「Sシリーズ」の名を受け継ぐオープン2シーター。ミッドシップレイアウト、操る楽しさをもつピュアスポーツとして知られています。
今回は、S660と002ka034さんのお話です。
――S660とさまざまなスポットへ出かけていらっしゃいますね
ドライブルートは、山間の県道や広域農道を選ぶことが多いです。交通量が少なくて快適だし、その土地の風情や生活感を感じながらドライブすることが楽しい! 道の先にふいに集落が現れたり、暮らしの景色に出合えたりするところが魅力だと思います。
――印象に残っている道はありますか?
四国の国道195号という、高知県と徳島県を結ぶ、渓谷に沿って走る長い道です。民家がまったくなくなったと思ったら突然集落が現れ、変化があって景色がすばらしい道なんですよ。四国にはまた行きたいなあ…!
――S660でオープンドライブも楽しまれていますが、どんな魅力を感じていますか?
バイクのようにヘルメットがないぶん、視野が広く風や匂い、光の変化を肌で感じられるのはオープンならではです。野焼きの煙や、家から漂ってくる料理の香りを感じると、一瞬だけ地元の人になる感覚があります。その感覚が二度と戻らないという切なさを含めて「情緒」を感じているんだと思います。
――S660の写真は、風景に溶け込む構図が印象的です
情緒を形で残しておきたいからかもしれません。あのときの景色にエスロクがいることで、自分はこの世界の一部になっていたという感覚を思い出せるからなんでしょうね。
――素敵です!では、あらためて002ka034さんがクルマに興味を持ったきっかけを教えてください
小学校低学年の頃に、テレビアニメの「頭文字D」を見たことです。それまでクルマにまったく関心はありませんでしたが、スポーツカーのかっこよさに惹かれました。
――愛車歴をお聞かせください
最初の愛車は、社会人になってすぐに乗ったホンダ・アコードユーロR(CL1型)。父のお下がりでした。すでに20万キロ近く走っていたので、少しずつリフレッシュしながら乗っていました。そのうち、リフレッシュしながら乗ることに快感のようなものを覚えていき、これがカーライフの土台となっている気がします。
――走らせてメンテナンスもきちんとされていたんですね。その次のクルマがS660ですか?
いえ、S660の前にはS2000に乗っていました。自分で購入した初めてのクルマでした。もう、ゾッコンでしたね。
――ゾッコンですか! ぜひ、理由を教えてください
最初は「タイプR」に乗ろうと思い、DC2やDC5(インテグラタイプR)、EK9(シビックタイプR)を探していたところ、S2000が候補に挙がったんです。タイプRではなかったものの、VTECでFR。しかもオープン2シーター。赤ヘッドのエンジンにも惹かれました。
自分にとってS2000は、NSXと同じくらい高嶺の花だったんですが、乗るのは今しかないと思って購入を決めました。
――具体的に、どんなところに魅力を感じていましたか?
S2000といえばエンジンと思われがちなんですけど、私はシフトフィーリングが好きでした。歯車がシンクロするダイレクトな感触。「スコスコ」というフィーリングではなく「ガチャ」っていう感触。これはS2000でしか味わえないと思います。
ツーリングに出かけたり、各地のイベントに参加したりと、S2000を通じて多くの仲間と出会えました。上原繁LPL(S2000の開発責任者)ともイベントでお話できる機会もありました。開発者の方と直接話すと、どういう想いで生まれたのかが一層強く伝わってくるんですよね。
――そこまで惚れ込んでたのに、どうしてお別れを?
走行距離20万キロを超えた時点で、エンジンやミッション、デフといった大きなリフレッシュを考えなければならなくなってきました。ここで今の経済力を考えると、この先良い状態で維持していくのは難しいと判断したわけです。
私の中では「維持」がカーライフの基本となっています。自分の身体に変調があれば、原因を調べて治しますよね? それと同じことで、走らせることと維持を両立できなくなったときは、健康体を保てないということです。そのクルマに乗る資格はないと考えています。
S2000には極力良い状態で旅立ってほしくて、純正触媒とO2センサーを交換してから手放しました。
――愛を感じます…! S2000を手放したあと、S660を迎えることになった経緯を教えてください
エスロクはもともと弟が所有していたクルマです。父が「乗ってみたい」と話していたこともありましたが、弟は「父さんに乗らせると、あまり動かさないからS660が不憫だ」と(笑)。そこで、クルマの価値観も似ている私が譲り受ける形になりました。
――じゃあ、ひょっとして今まではS660とS2000が並んでたってわけですか? うらましい〜
そうですね。弟と一緒に住んでいた頃は、S2000とS660が一緒にありまして……こうお話すると、取っ替え引っ替え乗り放題だと思われるかもしれませんが、お互いのクルマは基本的に貸し借りしません。「自分の愛車は自分で責任を持つ」が兄弟のルールでした。
――S660を迎えてから、カーライフに変化は?
遠くまで行かなくても、非日常を感じられるようになりました。おそらく、走ることそのものを自然に楽しめるようになったからかなと思います。S2000に乗っていた頃は、とにかく長時間走らないと気が済まなかったですが、エスロクは速さとは関係のないところに気持ち良さがあるように感じています。
――S660は今、どんな存在ですか?
これまで乗ってきたアコードやS2000は、乗り始めからそこそこの老体だったので、リフレッシュしながら維持するクルマでした。エスロクはラインオフから10年なのにまだ総走行距離も短く、若いクルマに乗っているという感覚が強いです。少しずつ衰えを感じつつも、育てる楽しみも多くありますね。
――実際にモディファイされている部分はありますか?
RECAROのバケットシートに交換、ECUセッティングとSPOON SPORTSのマフラー、TEINの車高調を入れています。どれも“走りをより正確に感じ取るため”の手入れみたいなもので、ドライビングインフォメーションを受け取りながら気持ちよく走れるようにという意図で手を加えています。
見た目で言えば、モデューロのホイールだけはちょっとこだわりました。モデューロのエアロが付いているのにホイールだけ社外品だったので、廃盤になる前にどうしても欲しくて(笑)。こうやって書き出すと、けっこう手を入れてますね。
――もしS660のLPL・椋本陵さんに会えたとしたら、どんな話をしてみたいですか?
生みの親として「オーナーに願いたいこと」を伺ってみたいです。エスロクとの理想の付き合いかたや、走ってほしい道もお聞きしたい。自分のカーライフを伝えて、どう感じてもらえるのかも知りたい。自分のエスロクが、生みの親の目にどのように映っているかどうかを確かめたいと思っています。
――S660とのこれからのカーライフをどのように過ごしていきたいですか?
これまでと同じように、しっかり走らせて世話をしていきたいです。生活環境が変われば乗る頻度も変わるかもしれません。でも、ドライブしていれば車窓が変化するように、その変化すらも一緒に楽しみたい。そのときどきでベストな形を見つけていけたらいいですね。まだまだクルマ旅もしたいです。
そういえば、母から「S2000はあんたの生写しみたいね」と言われたことがあります(笑)。たしかに、愛車を見ればオーナーの生き方がわかる気がします。走ってきた時間も傷や汚れも自分の一部。“弄る”よりも“維持り”ながら、エスロクにも自分の人生を重ねていけたらと思っています。
002ka034さんが、ドライブという時間をとても大切にしていることが伝わってきました。“維持る”とはメンテナンスを超えた“生き方”なのかもしれません。
S660は、まさに分身のような存在だと思います。これからも素敵なドライブフォトを楽しみにしています!
(文:野鶴美和 写真:002ka034さん提供)
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