「趣味をあきらめない」。公認取得済みの“ファミリーカー”トヨタ・86とのカーライフ
今回の主人公はトヨタ・86(ZN6型)オーナーのmarcoさん。学生時代は自動車部に在籍。社会人になってからは、約10年間クルマのない生活を送っていた時期もあったそうです。そして結婚、お子さんの誕生とともに再び動き出したカーライフ。
今回は「自動車誌の元デモカー」という愛車86との日々から、marcoさんの“クルマ観”や愛車への思いをききます。
――クルマに興味を持ったきっかけを教えてください。
覚えているのは、幼いころ、母が運転するホンダ・トゥデイに乗せてもらっていたことです。父は都市部で飲食店を営んでいて、運転が必要な人ではなかったので、ハンドルを握るのはいつも母でした。
トゥデイはMT車で、幼い自分にとっては操作する様子が「魔法」のように見えていた気がします。見慣れた田舎から知らない世界へ連れていってくれる“魔法のモビリティ”であり、子ども心に不思議な力を感じていました。
――それからクルマが好きになっていったんですか?
小さいころは助手席に乗るのがうれしかったんですけど、思春期に入るとなんとなく後部座席に座るようになっちゃいましたね。親子の距離感が変わる時期だったのかもしれませんが、母は変わらず送り迎えをしてくれました。
印象に残っているのは成人式の日です。そのころの私は、大学へ進学して家を出ていました。
式に出席するために帰省すると、母が当時乗っていたホンダ・フィットで送ってくれて、帰り道はひさしぶりに私が運転しました。あのとき、助手席で外ばかり見ていた母の姿が印象に残っています。
――かけがえのない時間でしたね。学生時代は自動車部に在籍されていたそうですが。
最初は、安くクルマを手に入れたくて入部したんです。クルマが手に入ったら辞めるつもりのはずが、実際は想像以上に体育会系で、辞める隙がないくらいに厳しかったです。クルマが嫌いになりそうなくらい、きつい時期もあって……。
転機は1年の夏の合宿のときです。地図の使い方や運転を学ぶ4泊5日の合宿で、かなりハードな内容だったんですけど、3日目あたりから吹っ切れたというか。みんなを笑わせて、空気を明るくする側に回ろうという気持ちになりました。
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自動車部に在籍していた学生時代。右がmarcoさん
――合宿をきっかけにメンタルが変わっていったんですね。
はい。このチームで結果を出せるということは、社会に出てからの自分の財産になるんじゃないかと思ったんです。そこからは部室にいる時間も増えて部長も務めました。整備や段取り、チームづくりまで学んだ4年間でした。
――そんな学生時代を過ごしつつ、どんなクルマに乗ってきましたか?
19歳のとき、ネットオークションで落札したCA18i搭載のローレル(C33型) が、人生で初めての愛車です。「自分のクルマがある」ということがうれしかったですね。自分なりに手をかけながら楽しんでいました。
同じローレルを2台乗り継ぎ、2台目も格安で手に入れてコツコツとDIYで仕上げたんですよ。ようやくエンジンに火が入ったときは達成感がありましたが、その喜びも束の間で、故障によって手放すことになってしまいました。
21歳になったころ、1年間貯金して日産・シルビア(S13型)を入手。なけなしのお金で買ったクルマで、大学卒業後の1年間をともに過ごした思い出深い一台です。
――社会人になってからの愛車歴を教えてください。
25歳のとき、トヨタ・MR2(AW11型)に半年ほど乗りました。Tバールーフ車でスーパーチャージャー搭載。小気味良いシフトフィーリングが印象に残っています。その後、約10年間クルマから離れる前の、最後の愛車となりました。
――クルマから離れてしまった理由は?
東日本大震災を機とした仕事の関係で関東へ移ることになり、都市部で暮らし始めたことでクルマを持たない生活になったからです。
35歳になったころに現在の妻と出会い、引っ越しを伴う生活の変化もあったなかで、知り合いからスバル・サンバー(TT1型)を格安で譲っていただけるという話があり、半年ほど乗っていました。
――いよいよ86との出合いですが、どんな経緯で購入を?
入籍した2021年の年末に、妻に新しい命が宿ったことがわかったんです。軽トラだけでは乗車人数が足りないということで、家族で乗れるクルマが必要になったわけです。そのときにはもう子どもが将来助手席に座る姿まで思い描いていて、うれしさとワクワクが一気に膨らんでいました。
――ファミリーカーとして86を?
世の中には「ファミリーカー」と呼ばれるクルマがたくさんありますが、私が幼いころのクルマは2ドアのトゥデイでしたし、自分のなかでは初代カローラみたいな4人乗りのコンパクトなクルマにこそ、ファミリーカーの原型があると思っています。便利さだけよりも、家族との距離が近いクルマを持ちたかった。86は4人乗りですし、サイズもちょうどいいと思います。
妻とも話し合い「GAZOO」に掲載されていた、86を家族で使っている方が紹介されている記事も見せながら「こういうカーライフなら、自分たちにもできるかもしれない」とシミュレーションもしていたんです。翌年8月に、無事男の子が生まれました。
――大切な家族ができたからこそ、好きなクルマとの付き合い方を再考したということでしょうか。
そうですね。「クルマ趣味を過去の話にしたくない」という気持ちが強くなりました。生活を工夫しながら趣味を大事にしていく姿を、子どもにも見せていきたいと思ったんです。
――86を手に入れたことで、生活や心境にどんな変化がありましたか?
自分にとって、何にお金や時間を使いたいかがはっきりした気がします。私はお酒をやめ、なんとなく使っていたモノへの出費も減りました。そのぶん家族と過ごす時間が増え、自分のなかで本当に価値を感じるものにお金を使う感覚が強くなりました。
――生活が変わるほど、86も魅力的だったということですね。実際に乗ってみていかがですか?
納車の日は、2022年5月下旬の昼下がりだったんです。エンジンをかけて自宅まで走らせるまでの過程が、生活にカーライフが戻ってきたことを実感させてくれました。帰り道の景色もよく覚えています。
86のメーターに平均燃費12.7km/Lと表示されたのを見て、昔乗っていたクルマとの時代の違いも感じたし、クーペといえばもっと身構えるクルマだと思っていたので「こんなにも自然に路面になじんで素直に走るんだ!」という驚きがありました。
――ご家族のリアクションはいかがでしたか?
妻はもともとAT限定免許だったんですが、限定解除をしてくれました。妻も運転する側になってくれたことで、86も少しずつ家族になじんでいった感があります。
――これまでで、印象に残っている出来事はありますか?
86とBRZが集まる「86 BRZ アベンジャーズ」というドリフトのイベントに初参加しようと楽しみにしていたのですが、仕事上のトラブルで私だけ行けなくなってしまったんですよ。そこで、代わりに妻と彼女の両親、我が子の4人で参加してもらうことになりました。
イベントから帰ってきて、家族がいろいろ教えてくれた話がうれしかったんですよね。バイク好きの義父は、久しぶりにMTを運転して「最近のMTは気持ちよくシフトが入るんだね」と。「娘が86を運転する姿を見て、成長を感じたよ」とも話してくれました。
――素敵です! お子さんは喜んでいましたか?
義母から「孫が外の景色を指差して、あーとかうーとかいろいろ教えてくれたよ」と聞かせてもらいました。その場にいなくても、2ドアの少し距離が近い車内の空気が伝わってくるようで。まるで初代カローラの車内の日常(カーライフの原風景)を、令和のいまに教えてもらったような気がしました。
――愛車は、自動車誌の企画でデモカーになったとお聞きしています。どんな思いをもってモディファイされたのか教えてください。
テーマは「クルマに興味を持つ入口になりたい」です。クルマに興味をもった人……とくに子どもたちが目にしたとき「なんだこのクルマ?」と、少しでも心に引っかかってくれたらうれしいなという気持ちがこもっています。
興味をもってもらう上で、クルマ好きが反応しそうな迫力のある見た目には意味があると思っています。しかし、ただ目立てばいいわけではなく「車検に通る形で」が成立していることは大前提です。
――見た目のインパクトがあるいっぽうで、ワイドフェンダーを含めて「公認取得済み」なんですね。
はい。ワイドフェンダーを含む外装変更は公認取得済みで、車幅などの記載変更も入っています。当時の誌面でも、灯火類や外装まわりを含めて保安基準をチェックしながら製作された個体です。
――手を入れていくうえで、大事にしたことはどんなことですか?
手を入れるだけではなく、維持も含めてこの86との付き合い方を大事にしています。自分でできることは自分でやる。できないことには無理に手を出さないことです。
――愛車のもっとも気に入っているポイントはどこですか?
スポーツカーとして、尖りすぎていないところですね。設計から製造、販売まで86に関わった方たちが、それぞれの立場で折り合いをつけながらカタチにしてきたことが伝わってくるクルマだと思っています。
私の愛車は2012年式の初期型です。アフターパーツメーカーも含めて長年向き合われてきたモデルなので、このクルマに関わっている方々の積み重ねを含めて魅力を感じています。
――ドリフトの競技にも挑戦されているとお聞きしています。
「86 BRZ アベンジャーズ」に参加したことがきっかけで、ジャパンドリフトチャンピオンズ(JDC)に参戦しています。今年はD1GPの地方戦に挑戦予定です。
もともと自動車部にいたので、モータースポーツは身近な存在です。競技に取り組むことで運転技術の向上や良い結果だけでなく、クルマを通じて人とつながるおもしろさを強く感じています。
――「マシン」としての愛車をイメージする言葉があるとすれば、どんな言葉が浮かびますか?
「僕はアゴが弱い。彼はアゴが強い。彼は僕よりパンチがある。僕は彼ほどのパンチがない」という、元プロボクサー・畑山隆則さんの言葉に近いです。
圧倒的なパワーで押し切るクルマではない86の特性を理解し、過信しないという感覚が自分の中ではしっくりきます。ハンドルを握るときはいつも意識していますね。
――86を長く乗っていくために意識していることはありますか?
同じ車種を所有しているオーナーさんとの情報交換です。初期型が登場してからもう13年になりますし、これから先の10年、20年を見据えるうえで大切だと考えています。部品の問題はもちろん、オイル交換やタイヤのバランスも含めて一つひとつの積み重ねだと思います。
いつかはこの86と別れる日が来ると思っていますが、その日をあえて意識したり振り返って大げさに語ったりするよりも、一緒にいられる時間を大事に過ごしていきたいですね。
――この先86とやってみたいことはありますか?
親になったいま、子どもたちにクルマとふれあってほしいという思いが強くなりました。イベントなどに出られる機会があれば、86に触れてもらえる場をつくっていきたいですね。運転席に座ってもらったり、実際に近くで見てもらったりしながら「なんだこのクルマ?」と、少しでも興味を持ってもらえたらいいなと思っています。
クルマはいつも、経験や家族との思い出と結びついてきた存在です。母に運転してもらった記憶、自動車部の日々、家族との時間がクルマと結びついて、大人になった自分の財産になっています。子どもたちにもクルマって素敵だなと思ってもらえたらうれしいです。
――あらためて、marcoさんにとって愛車はどんな存在ですか?
多様な人のつながりを運んできてくれる愛車です。競技車でもありますが、家族でドライブ……イベント参加やいちご狩りにも出かけたりと、子どもの成長と一緒に思い出を重ねていけるのも、この86だからこそだと思います。
そういう意味でも自分にとって大切な「ファミリーカー」ですね。
幼い頃の記憶から、クルマ漬けの青春時代、父親となった現在の生活まで「クルマという存在の尊さ」とともに歩んできたmarcoさん。
86は、そんなmarcoさんの時間がカタチとなった一台なのかもしれません。
(文:野鶴美和 写真提供:marcoさん)
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