ワンオーナー車の貴重な個体を保護!FFエレガント・クーペ、トヨタ スプリンター トレノ GT APEX(AE92型)

昔は1日に何回も見掛けたのに、最近はあまり観ないな…。

よくよく考えてみると、案外、そういうクルマは多いのではないだろうか?クルマ好き同士がこの話題で議論をはじめたら、ネタが尽きないほど数多くのモデル名が挙がりそうだ。

今回、取材することになったクルマも、そのなかの1台として話題になるのではないだろうか?

「このクルマは、1987年式トヨタ スプリンター トレノ GT APEX(AE92型)です。縁あって、4万キロしか走っていないワンオーナー車を手に入れました。私が所有してからまだ2ヶ月弱しか経っていないんですが、弟もこのクルマを運転するので、すでに1800キロくらい走破しています」。

AE92型のスプリンター トレノ(以下、トレノ)は、兄弟車を含めたカローラ/スプリンター シリーズとともに、1987年5月にデビューを果たした。先代モデルは、通称「ハチロク」ことAE86型である。6代目となったこのモデルは、カタログにも「FFエレガント・クーペ」と銘打ってあるように、駆動方式がそれまでのFRからFFに改められた。そのため、スポーツ走行を重視するユーザーは「ハチロク」を好んだが、よりスマートに生まれ変わったこのモデルは、ユーザーたちに「キューニー」と呼ばれ、人気を博したことを記憶している人も多いだろう。

トレノのボディサイズは全長×全幅×全高:4255x1665x1300mm。オーナーの個体は「4A-GE型」と呼ばれる、排気量1587cc、直列4気筒DOHCエンジンが搭載され、最高出力は120馬力を誇る。先代同様、特徴的なリトラクタブルヘッドライトも採用された。ちなみに、車名のトレノはスペイン語で「雷鳴」という意味を持つ。

そんな6代目トレノだが、兄弟車であるレビンを含めて、見掛ける機会も激減したように思う。今となっては貴重な1台となりつつある、しかもワンオーナー車のトレノをどのようにして手に入れたのだろうか?

「以前、トヨタ系列のディーラーで働いていたことがあり、現在はトヨタ系列の中古車センターに在籍している当時の先輩に『面白いクルマが入ってきたら連絡してください』と頼んであったんです。あるとき『面白そうなクルマが入ったから観に来るか?』と連絡があり、行ってみたところ、このトレノが置いてありました。ほぼオリジナルで、ワンオーナー車。実走行4万キロ、車庫に保管されていたようで、コンディションもかなり良い個体でした。前オーナーさんが、このトレノを下取りに出して新車を購入したようです。マフラーに穴が開いてしまい、さまざまな事情で修理を断念し、泣く泣く手放した個体だそうです。先輩から『明日には、業者オークションに流すよ』と言われ、これほどの個体が、嫁ぎ先次第ではどうなってしまうか分からない。それならば、自分が保護して大切に乗ろうと決意し、購入することにしました。ディーラーの中古車なので、何と1年間の保証が付帯されるんです。まさに掘り出しモノですよね」。

かなりオリジナル度の高い個体のようだが、詳しい仕様を伺ってみた。

「前オーナーさんは、GT APEXのグレードをベースに、ムーンルーフ・デジタルメーター・パワーウィンドウ・オートエアコン・リアスポイラー・サイドマッドガード・イエローバルブのヘッドライト・フロアマット・車幅灯、カップホルダーに至るまで、さまざまなオプションが装着されています。装着されていない主なオプションは、アルミホイールとオートドライブ(クルーズコントロール)くらいでしょうか。個人的には、これだけオプションを装着していながら敢えてスチールホイールなのは、前オーナーさんが社外のアルミホイールに交換することを想定していたのかなと考えています。結果的に、このスチールホイール自体が貴重ですよね。それと、ウィンドウフィルムが貼られていない点も珍しいかなと思います」。

このトレノを探している人にとっては羨ましいまでのコンディションを誇るオーナーの愛車だが、購入後にモディファイしたところはあるのだろうか?

「ETCの取り付けやBluetooth接続を可能にしたり、弟がスモールライトをLED化しました。あとは当時のままです。まだ手に入れたばかりなので、大きなトラブルはありません。セルモーターが不調なのと、ディストリビューターの付け根から多少オイルが漏れているようです。私がやらなければならないのは、モディファイというより、アップデートしていく感覚です」。

オーナーが所有するトレノも、30年近く前に現役だったクルマだ。気になるのは、純正部品の確保だろう。

「他のモデルとの共有部品はまだ手に入りますが、外装部品はほぼ欠品です。よくあるケースですが、解体車や部品取り車から調達します。人づてに探したり、自分で調べていくうちに、意外とお金を掛けなくても何とかなりますよ!旧車や絶版車の購入を迷っている方にも『壊れたときは、仕方ない…くらいの気持ちで乗れると、案外何とかなります!』とお伝えしたいです。現在、私は40歳になります。今回、改めて運転して思いましたが、この時代のカローラ/スプリンターならではの『味』があります。程よい大きさのボディサイズも、取り回しが楽でいいですよね」。

最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「実はもうすでに『譲ってください!』という人が身近にいるんです。手に入れたばかりですし、まだしばらくは乗り続けますが、今後、手放す機会があったら、大切にしてくれるであろうその人に譲るかもしれません。いまだにTEMS(Toyota Electric Modulated Suspension)が使えますし、まずはこのクルマが本来持つコンディションに近づけ、整えていくことを優先します!」。

かつてはこのトレノも、日本各地で見掛けたはずだ。正直に言えば、現在はともかく、当時は決して珍しいクルマではなかったように思う。それがいつの間にか絶滅危惧種に近い存在となりつつある。今、当たり前のように街で見掛けるクルマの多くが、10年も経つと「最近はあまり観ないな…」と感じることになるだろう。事実、このトレノがイベントに参加すると人だかりができ、一様に「懐かしい」と連呼されるそうだ。

このトレノは、同時期に造られたたくさんの仲間たちのなかで、数少ない生き残りだ。今回のオーナーのように「保護する感覚」を理解しているところへ嫁いだこの個体は幸運だ。もし、次のオーナーへ引き継がれるとしても、現オーナー同様、このクルマを溺愛するマインドを持つ人であることを願うばかりだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]