新車から30年、30万キロをともにした大切な愛車。1989年式フェアレディZ 2by2ツインターボ(Z32型)

いうまでもなくクルマは工業製品であり、何万という部品の集合体だ。生産されてから時間が経過するほどに経年劣化が起こり、故障したり、部品交換や修理を余儀なくされる。機械なのだから、壊れたり、故障するのは当然のことだ。

しかし、そんなことを忘れてしまいそうになるほど、現代のクルマは壊れにくい。もちろん、皆無だとはいわないが、確率でいえばかなり低いことは間違いないだろう。

それゆえ、よほどの事情がない限り「壊れたら直す」よりも「壊れたら買い替える」方を選ぶことが珍しくないかもしれない。一般社団法人 自動車検査登録情報協会が発表している調査報告によると、平成30年3月末の乗用車の平均車齢(ナンバープレートを付けている自動車が初めて登録してからの経過年数の平均)は過去最長の8.60年だという。つまり、新車で手に入れた最初のオーナーが、9年近く、3回目の車検を迎える直前まで乗り続けているということだ。

今回、紹介するオーナーは、1989年(平成元年)に手に入れた愛車を、2019年(令和元年)の現在にいたるまで所有しているという。つまり、平均車齢をはるかにうわまわる時間を1台のクルマと過ごしていることになる。今回は、オーナーと愛車の出会いから現在にいたるまでの歴史をひもといてみることにした。

「このクルマは、1989年式フェアレディZ 2by2ツインターボ(Z32型/以下、フェアレディZ)です。新車で手に入れてから、今年でちょうど30年間所有していることになるんですね。オドメーター上は22万キロあたりを指していますが、一度、メーターを交換しているので、実際には30万キロくらい走ったと思います」

40代以上の人であれば、このフェアレディZがデビューしたときのことを鮮明に覚えているかもしれない。1989年、日本の経済がバブル絶頂期だったときにZ32型フェアレディZがデビューした。当時、歴代のモデルにシンパシーを抱いていた人は抵抗感を示したようだが、「貴婦人」の名に恥じることのない美しいフォルムを手に入れたこのフェアレディZが、人々から羨望の眼差しで見られ、高い人気を博したことはいまさら説明するまでもないだろう。

Z32型フェアレディZには、2シーター仕様とリアシートを備えた2by2仕様が用意され、2by2はTバールーフのみ。これらにターボまたはNAエンジン、5速MTまたは4速ATという組み合わせでグレードが構成されていた。オーナーの個体は「2by2 ツインターボ ATモデル」だ。

フェアレディZのボディサイズは、オーナーが所有する2by2モデルが全長×全幅×全高:4525x1800x1255mm。搭載される「VG30DETT型」と呼ばれる排気量2960cc、V型6気筒DOHCツインターボエンジンが搭載され、最高出力は280馬力を誇る。当時、各自動車メーカーは、エンジンの最高出力を280馬力に自主規制する動きが見られたが、その影響を受けたのもZ32型のフェアレディZであった。

30年ものあいだ、このフェアレディZとともに歩んできたオーナー。このクルマを手に入れようと思ったきっかけを伺ってみることにした。

「学生時代に日産・スカイライン(GC10型)を手に入れまして…。このクルマには4~5年乗りましたが、とても楽しかったですし、いろいろな思い出がありますね。その後も、スカイラインをはじめ日産車を中心に乗り継ぎましたが、当時の私にとっての憧れはフェアレディZでした。ようやく購入するチャンスが訪れたのが、今から30年前。単身赴任先で通勤用のクルマが必要になり、これはチャンスだと発売されたばかりのZ32型フェアレディZを手に入れてしまいました。当時のカタログにあったキャッチコピー「スポーツカーに乗ろうと思う。」にもグッときましたね」

憧れだったフェアレディZを実際に手に入れてから今年で30年。これまでにいろいろなことがあったと思うのだが…

「フェアレディZを手に入れたときは、エレガントなデザインにハイパワーのエンジン、タイヤの動きがダイレクトに体に伝わってくるので、スポーツカーを操っているという手応えを感じることができました。あと、高速道路を走っていると前車が自然と道を譲ってくれたり、ちょっとした優越感も味わいましたね(笑)。以来、現在にいたるまで、通勤のときにはこのクルマを使っています。何しろ30年・30万キロですから、それなりのトラブルも経験しましたし、あらゆる部品を交換してきました」

具体的には、どのようなことがあったのだろうか?

「大きなトラブルというと、高速道路を走行中に突然エンジンが止まってしまったことがありました。何とか路肩に停めましたが、パワーステアリングが効かなくなるし、焦りましたね。主治医に原因を究明してもらったところ、基板のハンダが剥がれ掛かっていたそうです。これまでの大まかな交換部品を挙げると、オートマチックトランスミッションは現在3基目、足まわりも3セット目です。ステアリングまわりの部品やシートも3回交換しました。ヘッドライトは後期型のキセノンライトに、ブレーキはR32型GT-R用のキャリパーに、ステアリングはNARDI製、アルミホイールはYOKOHAMA製のAVS VS5に交換しています。それと、ボディ剛性が低いので、フロントとリアにタワーバーを組み込み、強化しています。古いクルマなので常に予防整備を心掛けていますが、今後は電装系のトラブルが特に心配です。そんなわけで、これまであらゆる部品を交換したため、新車当時のものはほとんど残っていないかもしれません」

念願だったフェアレディZを手に入れ、30年、30万キロの付き合いを重ねてきたオーナー。実は数年前、長年憧れていたもう1台のクルマを手に入れたという。

「フェラーリです。モデルは612スカリエッティ。いつかは手に入れたいとの想いをずっと持ち続けて、ようやく夢が叶いました。乗りやすいだろうと思って612スカリエッティを選んだのですが、それが間違いだと気づいたのは納車してからでした。現行モデルのフェラーリ488の方がよほど乗りやすいのですが、オーナーズクラブのイベントに参加したり、楽しんでいます」

ついに念願だったフェラーリを手に入れても、このフェアレディZを手放さない理由とは?

「これまで1度も、もう手放そうと思ったことはありません。その理由のひとつに、安心してこのフェアレディZを託すことができる主治医の存在が大きいですね」

では、最後に今後このクルマとどう接していきたいのか?意気込みを伺ってみた。

「設計した方の意志を尊重してできるだけオリジナルの状態を保ちつつ、予防整備を心掛けながらいつまでもこのクルマと仲良く暮らしたいです」

インタビュー終了後、雑談のあいまにオーナーがぽつりと「自分は(クルマに対して)確たる信念がないなぁ」とつぶやいた。もし、本当に信念がないとしたら、2年ごとの車検や、過去のトラブルが発生したときにこのフェアレディZを手放す決断を下しているに違いない。もしかしたら、オーナー自身がそれほど力んでいなかったからこそ、ここまで維持できたのかもしれない。手に入れたときから「一生モノ」と思い定めていると、そのモチベーションを維持するのも並大抵のことではないのは、経験者であれば容易に想像できるだろう。

愛車との付き合い方は人それぞれだが、今回のオーナーのように、30年ものあいだ1台のクルマと向き合えることはそうそう真似できるものではない。オーナー自身のモチベーション、経済力、そして愛車を安心して任せられる主治医の存在、さらにクルマが原形を留めていなければ成立しないのだ。

1989年=平成元年に生産されたこのフェアレディZ、令和という時代を迎え、これからもオーナーとともに鮮やかに駆け抜けていくことだろう。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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