【試乗記】スズキ・ハスラー ハイブリッドXターボ(4WD/CVT)

スズキ・ハスラー ハイブリッドXターボ(4WD/CVT)
スズキ・ハスラー ハイブリッドXターボ(4WD/CVT)

のんびり行こうよ おれたちは

デビューからの6年間で48万台以上が世に出たという「スズキ・ハスラー」が2代目に進化。見た目はご覧の通りのキープコンセプトだが、肝心の走りの性能はどうなのか。一般道のみならず、高速道路や箱根の山道にも連れ出してみた。

規制があるからオモシロイ

2020年1月20日に発売された新型「スズキ・ハスラー」。テスト車はモデルラインナップの中で最も高価な「ハイブリッドXターボ」の4WD車で、オプションも含めた価格は206万3765円。
2020年1月20日に発売された新型「スズキ・ハスラー」。テスト車はモデルラインナップの中で最も高価な「ハイブリッドXターボ」の4WD車で、オプションも含めた価格は206万3765円。
丸目のヘッドランプなど「ハスラー」を特徴づけているデザイン要素は先代モデルからおおむね踏襲。「ハイブリッドXターボ」ではランプにLEDを採用している。
丸目のヘッドランプなど「ハスラー」を特徴づけているデザイン要素は先代モデルからおおむね踏襲。「ハイブリッドXターボ」ではランプにLEDを採用している。
パワーユニットは最高出力64PS、最大トルク98N・mの0.66リッター直3ターボエンジン。同3.1PS、同50N・mのモーターを使ったマイルドハイブリッド機構も備わる。
パワーユニットは最高出力64PS、最大トルク98N・mの0.66リッター直3ターボエンジン。同3.1PS、同50N・mのモーターを使ったマイルドハイブリッド機構も備わる。
タイヤサイズは全グレード共通で、165/65の15インチが標準。テスト車にはダンロップの低燃費タイヤ「エナセーブEC300+」が装着されていた。
タイヤサイズは全グレード共通で、165/65の15インチが標準。テスト車にはダンロップの低燃費タイヤ「エナセーブEC300+」が装着されていた。
東京・恵比寿の路上を走り始めた途端、こりゃぁ、いいクルマだと思った。驚くべき静粛性と、しなやかな乗り心地。サスペンションがちゃんと動いていて、ボディーのしっかり感があって、おまけによく走る。新型ハスラーの最上級モデル「ハイブリッドXターボ」(4WD/CVT)の第一印象はメチャクチャよかった。

2020年1月20日に発売となった2代目ハスラーは、プラットフォームからして一新。2014年発表の現行「アルト」から採用の始まったスズキの新世代プラットフォームの最新進化型で、軽量化と高剛性の両立を図っている。同じターボ&4WDモデルでも、ホンダの「N-WGN」は920kg、「ダイハツ・キャスト」は890kgあるのに対して、ハスラーは880kg。N-WGNがずぬけて重いのは、ホイールベースが2520mmと、ずぬけて長いことによるのかもしれないけれど、ともかく軽自動車の場合、排気量660cc以下という枠と最高出力64PSという自主規制があるから、軽いことの意味は大きい。ご存じのように、全長×全幅×全高=3.4×1.48×2.0m以下のサイズというフォーミュラのもとで競争が繰り広げられているから、軽自動車はオモシロイのである。

新型ハスラーのホイールベースが先代より35mm延びて、アルトと同じ2460mmになったのは、新世代プラットフォームの採用によるもので、延びた分、後席乗員の足元空間が広がっている。あとで座ってみたら、めちゃんこ広かった。

運転していて気持ちがいいのは、SUVとのクロスオーバーで最低地上高が180mmあって着座位置が高くて、見晴らしがいいからだ。おまけに、フロントガラスがガチンコに立っていて、遠くにある。天井はまるでハイルーフ車みたいに高くくりぬかれていて、頭上空間もたっぷりしている。窮屈感がみじんもない。いまどきの軽自動車はみんなそうだといえばそうだけれど、あらためてビックリである。

2020年1月20日に発売された新型「スズキ・ハスラー」。テスト車はモデルラインナップの中で最も高価な「ハイブリッドXターボ」の4WD車で、オプションも含めた価格は206万3765円。
2020年1月20日に発売された新型「スズキ・ハスラー」。テスト車はモデルラインナップの中で最も高価な「ハイブリッドXターボ」の4WD車で、オプションも含めた価格は206万3765円。
丸目のヘッドランプなど「ハスラー」を特徴づけているデザイン要素は先代モデルからおおむね踏襲。「ハイブリッドXターボ」ではランプにLEDを採用している。
丸目のヘッドランプなど「ハスラー」を特徴づけているデザイン要素は先代モデルからおおむね踏襲。「ハイブリッドXターボ」ではランプにLEDを採用している。
パワーユニットは最高出力64PS、最大トルク98N・mの0.66リッター直3ターボエンジン。同3.1PS、同50N・mのモーターを使ったマイルドハイブリッド機構も備わる。
パワーユニットは最高出力64PS、最大トルク98N・mの0.66リッター直3ターボエンジン。同3.1PS、同50N・mのモーターを使ったマイルドハイブリッド機構も備わる。
タイヤサイズは全グレード共通で、165/65の15インチが標準。テスト車にはダンロップの低燃費タイヤ「エナセーブEC300+」が装着されていた。
タイヤサイズは全グレード共通で、165/65の15インチが標準。テスト車にはダンロップの低燃費タイヤ「エナセーブEC300+」が装着されていた。

時間に余裕をもった行動を

外観は全体的に先代からキープコンセプトだが、ボディー全体を角張らせてよりタフ感を強調するフォルムに。先代モデルでは前傾していたリアピラーが垂直に立って、6ライトウィンドウになっている。
外観は全体的に先代からキープコンセプトだが、ボディー全体を角張らせてよりタフ感を強調するフォルムに。先代モデルでは前傾していたリアピラーが垂直に立って、6ライトウィンドウになっている。
インストゥルメントパネルに3つ並んだ多角形のガーニッシュが印象的なインテリア。テスト車のホワイトのほかに、ボディーカラーに合わせてブルーとオレンジも用意されている。
インストゥルメントパネルに3つ並んだ多角形のガーニッシュが印象的なインテリア。テスト車のホワイトのほかに、ボディーカラーに合わせてブルーとオレンジも用意されている。
助手席側のガーニッシュの内部は収納スペースになっている(グローブボックスは別にある)。ふたの部分の耐荷重は1.5kg。
助手席側のガーニッシュの内部は収納スペースになっている(グローブボックスは別にある)。ふたの部分の耐荷重は1.5kg。
中央のガーニッシュ内部にはカーナビゲーションが装着される。メーカーオプションとなるこの9インチナビは、画面が極めて高精細で表示が滑らかだ。
中央のガーニッシュ内部にはカーナビゲーションが装着される。メーカーオプションとなるこの9インチナビは、画面が極めて高精細で表示が滑らかだ。
運転席側のガーニッシュはメーターパネル。全体がスピードメーターという単眼レイアウトで、エンジン回転計は小さなマルチインフォメーションディスプレイに表示される。
運転席側のガーニッシュはメーターパネル。全体がスピードメーターという単眼レイアウトで、エンジン回転計は小さなマルチインフォメーションディスプレイに表示される。
ダッシュボードも、カシオの「G-SHOCK」のようにヘビーデューティーな雰囲気で、価格に見合ったデザインをガンバっている。ナビの画面がデカいのは、9インチの大型ディスプレイを装備しているからで、こちらは18万円ほどのメーカーオプションだけれど、おかげで車両価格200万円ぐらいしそうなオーラを放っている。実際、試乗車は200万円ちょっとするわけですけれど。

渋谷の入り口から首都高速に上がると、いきなり渋滞している。早速、スズキの軽では初採用のアダプティブクルーズコントロール(ACC)を使ってみる。これが意外と、といっては失礼だけれど、前走車についていく。「ISG」(モーター機能付き発電機)による加速時のアシストが効いているのかもしれない。ただし、渋滞が終わって前走車が加速し始めると、置き去りにされる。そこはたぶん、660ccではいかんともしがたい領域なのかもしれない。

渋滞を抜け出ると、横浜あたりで横風がびゅーびゅー吹き荒れていた。新型ハスラーは全高が1680mmある一方で、全幅は1475mmしかない。全高を上げることでスペースを確保しているわけだし、全幅は軽の規格がある以上、いかんともしがたい。そこはトレードオフと考えるしかない。であるにしても、横風がびゅーびゅー吹いているところではフラフラしてまっすぐ走らない。

スズキ・ハスラーは風に弱かとです。フルタイム4WDを名乗っているのだから、もうちょっと高速での直進安定性が欲しいところではある。機構的にはビスカスカップリングを用いた、いわゆるスタンバイ4WDなのだ。もっとも、では、ホントにフルタイム4WDだったらスタビリティーが高くなるのかといえば、このトレッドだと難しいかもしれない。

フラフラするのを解決する方法がひとつある。速度を落とす。狭いニッポン、そんなに急いでどこへ行く。のんびり行こうよ、おれたちは。なので、風が強い地方で高速道路を頻繁に使われる方には、時間に余裕をもっての行動をオススメしたい。

1680mmの全高に対してトレッドが狭すぎる……のだとすれば、軽自動車の規格が軽の存在をつくりだしていると同時に、その可能性を削り取っていることにも気づく。だからどう、ということではないのですけれど。

外観は全体的に先代からキープコンセプトだが、ボディー全体を角張らせてよりタフ感を強調するフォルムに。先代モデルでは前傾していたリアピラーが垂直に立って、6ライトウィンドウになっている。
外観は全体的に先代からキープコンセプトだが、ボディー全体を角張らせてよりタフ感を強調するフォルムに。先代モデルでは前傾していたリアピラーが垂直に立って、6ライトウィンドウになっている。
インストゥルメントパネルに3つ並んだ多角形のガーニッシュが印象的なインテリア。テスト車のホワイトのほかに、ボディーカラーに合わせてブルーとオレンジも用意されている。
インストゥルメントパネルに3つ並んだ多角形のガーニッシュが印象的なインテリア。テスト車のホワイトのほかに、ボディーカラーに合わせてブルーとオレンジも用意されている。
助手席側のガーニッシュの内部は収納スペースになっている(グローブボックスは別にある)。ふたの部分の耐荷重は1.5kg。
助手席側のガーニッシュの内部は収納スペースになっている(グローブボックスは別にある)。ふたの部分の耐荷重は1.5kg。
中央のガーニッシュ内部にはカーナビゲーションが装着される。メーカーオプションとなるこの9インチナビは、画面が極めて高精細で表示が滑らかだ。
中央のガーニッシュ内部にはカーナビゲーションが装着される。メーカーオプションとなるこの9インチナビは、画面が極めて高精細で表示が滑らかだ。
運転席側のガーニッシュはメーターパネル。全体がスピードメーターという単眼レイアウトで、エンジン回転計は小さなマルチインフォメーションディスプレイに表示される。
運転席側のガーニッシュはメーターパネル。全体がスピードメーターという単眼レイアウトで、エンジン回転計は小さなマルチインフォメーションディスプレイに表示される。

日常生活で生きるISG

スズキの軽自動車としては初となるアダプティブクルーズコントロールを採用。全車速に対応するが、パーキングブレーキが電動ではないため、停止して2秒後からはドライバーがブレーキペダルを踏む必要がある。
スズキの軽自動車としては初となるアダプティブクルーズコントロールを採用。全車速に対応するが、パーキングブレーキが電動ではないため、停止して2秒後からはドライバーがブレーキペダルを踏む必要がある。
フロントシートにはインパネガーニッシュと同じ色のアクセントが加えられる。沈み込みが大きくソフトな座り心地だ。
フロントシートにはインパネガーニッシュと同じ色のアクセントが加えられる。沈み込みが大きくソフトな座り心地だ。
ホイールベースの延長により、先代よりも後席の足元空間が広くなっている。シートには左右独立式の前後スライド機構が備わる。
ホイールベースの延長により、先代よりも後席の足元空間が広くなっている。シートには左右独立式の前後スライド機構が備わる。
トランスミッションは全車CVTを採用。ターボ車にはシフトパドルが備わる。
トランスミッションは全車CVTを採用。ターボ車にはシフトパドルが備わる。
走行車線を控えめに走っていると、乗り心地がちょっと硬めだと感じた。サスペンションはストロークがあって、実際、大きな荷重がかかる箱根の山道ではロールする。おそらくは、SUVっぽい雰囲気を出すために、そのような足のチューニングにしているのと、省エネ志向のタイヤを履いているためではあるまいか。

新型ハスラー ハイブリッドXターボ(4WD/CVT)が最良の面を見せるのは、一般道である。それも、ごくフツーに運転しているときだ。何げなく軽くアクセルを踏むと、電気モーターが加勢して、一瞬、半車身ほど音もなくスッと前に出るような感覚がある。ちょっと不思議な軽快感。

これぞ車重880kgという軽さのなせるわざだ。と最初はそう思った。けれど、どうも違う。最高出力64PS/6000rpm、最大トルク98N・m/3000rpmを発生する658㏄の3気筒ターボを、スズキのハイブリッド技術のISG(Integrated Starter Generator)がモーターとして働き、3.1PS/1000rpm、50N・m/100rpmの最高出力/最大トルクでもってハスラーの背中をそっと押しているのだ。100rpmで50N・mだから、ごく単純に考えると、自然吸気で500cc分ほどのトルクがいきなり得られる勘定になる。

あいにく、全開にするとこの感覚は味わえない。エンジンが完全に主役になって、モーターの存在感を消してしまうからだろう、と筆者は思う。スズキのハイブリッド、実際はマイルドハイブリッドは、日常、何げなく運転しているときにご利益がある。ありがたいシステムである。

スズキの軽自動車としては初となるアダプティブクルーズコントロールを採用。全車速に対応するが、パーキングブレーキが電動ではないため、停止して2秒後からはドライバーがブレーキペダルを踏む必要がある。
スズキの軽自動車としては初となるアダプティブクルーズコントロールを採用。全車速に対応するが、パーキングブレーキが電動ではないため、停止して2秒後からはドライバーがブレーキペダルを踏む必要がある。
フロントシートにはインパネガーニッシュと同じ色のアクセントが加えられる。沈み込みが大きくソフトな座り心地だ。
フロントシートにはインパネガーニッシュと同じ色のアクセントが加えられる。沈み込みが大きくソフトな座り心地だ。
ホイールベースの延長により、先代よりも後席の足元空間が広くなっている。シートには左右独立式の前後スライド機構が備わる。
ホイールベースの延長により、先代よりも後席の足元空間が広くなっている。シートには左右独立式の前後スライド機構が備わる。
トランスミッションは全車CVTを採用。ターボ車にはシフトパドルが備わる。
トランスミッションは全車CVTを採用。ターボ車にはシフトパドルが備わる。

例えるならば淡水魚

370km余りを走行した今回のテストでは、満タン法で14.6km/リッターの燃費を記録した。WLTCモードの燃費値は20.8km/リッターで、燃料タンクの容量は27リッター。
370km余りを走行した今回のテストでは、満タン法で14.6km/リッターの燃費を記録した。WLTCモードの燃費値は20.8km/リッターで、燃料タンクの容量は27リッター。
荷室の床面と後席背もたれの裏側には汚れてもふき取りやすい素材を採用。泥や水が付着したものでも気にせず積めるのがうれしい。
荷室の床面と後席背もたれの裏側には汚れてもふき取りやすい素材を採用。泥や水が付着したものでも気にせず積めるのがうれしい。
従来の「ヒルディセントコントロール」(写真右)と「グリップコントロール」(同中央)に加えて、雪道やアイスバーンでの発進をサポートする「スノーモード」(同左)を新たに搭載している(すべて4WD車のみ)。
従来の「ヒルディセントコントロール」(写真右)と「グリップコントロール」(同中央)に加えて、雪道やアイスバーンでの発進をサポートする「スノーモード」(同左)を新たに搭載している(すべて4WD車のみ)。
ISGのおかげで、アイドリングストップからの再始動も大変スムーズで、加速時にはエンジンを助太刀するから、静粛性に大いに貢献している。冒頭、恵比寿を走り始めたときの「いいクルマだなぁ」と思ったのは、ISGが最大限に活躍していたからなのだ。と箱根まで往復してようやく気づいた。

ハスラー ハイブリッドXターボは、いわば淡水魚なのである。一般道という名の川とか沼とかの日常空間に住むフナとかコイであって、海水の大海原をマグロとかカジキとかみたいに激流にのって高速で泳ぎまわるようにはできていない。

船にたとえると、もっと分かりやすい。ハスラーは河川専用の小さな舟で、海に出る大型船ではない、といっているだけですから。

とはいえ、川を行ったり来たりする小型の舟が世のなかに求められていることもまた当然で、時にはそういう小舟で大海に乗り出すのも冒険的であるかもしれない。

新型ハスラー、のんびり行くなら、日本における最高の実用車の一台である、と私は思った。

(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

370km余りを走行した今回のテストでは、満タン法で14.6km/リッターの燃費を記録した。WLTCモードの燃費値は20.8km/リッターで、燃料タンクの容量は27リッター。
370km余りを走行した今回のテストでは、満タン法で14.6km/リッターの燃費を記録した。WLTCモードの燃費値は20.8km/リッターで、燃料タンクの容量は27リッター。
荷室の床面と後席背もたれの裏側には汚れてもふき取りやすい素材を採用。泥や水が付着したものでも気にせず積めるのがうれしい。
荷室の床面と後席背もたれの裏側には汚れてもふき取りやすい素材を採用。泥や水が付着したものでも気にせず積めるのがうれしい。
従来の「ヒルディセントコントロール」(写真右)と「グリップコントロール」(同中央)に加えて、雪道やアイスバーンでの発進をサポートする「スノーモード」(同左)を新たに搭載している(すべて4WD車のみ)。
従来の「ヒルディセントコントロール」(写真右)と「グリップコントロール」(同中央)に加えて、雪道やアイスバーンでの発進をサポートする「スノーモード」(同左)を新たに搭載している(すべて4WD車のみ)。

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