【現地取材】いつのまにか毎日が快適に。生活に溶け込むスマートシティのサービス―スマートシティ最先端都市バルセロナ編②

バルセロナの並木道「ランブラス通り」。行き交う人のほとんどは「スマートシティ」を意識していないことだろう
バルセロナの並木道「ランブラス通り」。行き交う人のほとんどは「スマートシティ」を意識していないことだろう

スマートシティ化を始めて20年目という最先端都市スペイン・バルセロナ。街中にセンサーを張り巡らし、あらゆる情報を統合システム「センティーロ」に集約、効率化を進めている。

しかし、ただでさえ過密なコンパクトシティに、増加し続ける観光客など、課題は山積みだ。連載第2回では、ゴミや街灯など社会インフラの取り組み事例を詳しく紹介する。

街がキレイになって渋滞も減ったゴミ収集システム

市民とともに多くの観光客が行き交うバルセロナの街。ちょっと歩いてすぐ気が付いたのは「道にゴミがあまり落ちていない」ということだ。
ランブラス通りをはじめ目抜き通りには食べ歩きに向いたお菓子やバナナなども売られていて、ともすればポイ捨ての原因になりそうだが、心配は要らない。路地には小さなゴミ箱が、道路沿いには大きなゴミ収集箱が、街の公共エリアの至るところにゴミ箱が設置され、必要なときにすぐ捨てることができる。

これだけ多くのゴミ箱があると、収集する作業も膨大になる。以前はすべてのゴミ箱を定期的に巡回していたためゴミ収集車による渋滞が起こっていたが、現在はセンサー付きゴミ箱が重量などを検出して「センティーロ」に送信、必要なゴミ箱にのみ収集車が向かう。
このスマートガベージシステムにより、必要最小限の収集回数で済み収集車の走行距離も減少、排気ガスとコストを削減することに成功している。

街並みと石畳が美しいバルセロナ、ゴミが落ちていないのでとても気持ちよい
街並みと石畳が美しいバルセロナ、ゴミが落ちていないのでとても気持ちよい
交差点にある店舗の右側に、黒い円筒型のゴミ箱が見える
交差点にある店舗の右側に、黒い円筒型のゴミ箱が見える
道路沿いには大きめのゴミ収集箱。満杯近くになると回収車が来る仕組み
道路沿いには大きめのゴミ収集箱。満杯近くになると回収車が来る仕組み

水と緑豊かな公園もスマート制御で節水25%

年間を通じて温暖な気候のバルセロナは降水量が日本の4割ほどと少なく、木々や芝生への散水が欠かせない。主要な公園のスプリンクラーには湿度センサーが取り付けられ、噴水の流量も気温や湿度を考慮して制御、もちろんデータはセンティーロに送られている。
この仕組みで年間およそ25%の節水を実現し、水道代だけでも6,000万円近いコストダウンを実現。自動化により人員も削減することができ、そのリソースを別の公園整備などに充てられるというメリットも生まれた。

市民の憩いの場、シウタデリャ公園の噴水。街路樹や芝生に設置された散水栓も同様に制御されている

街路灯はLEDスマートライティングシステム

バルセロナ市内に設置された街灯は約1,100基。さすがオシャレな街だけあって、四角い無機質なものやガス灯風デザインなど形状も多種多様。2000年のプロジェクト開始から20年、現在はほぼすべての街灯が省エネLEDに置き換えられている。
単純に白熱灯または水銀灯からLEDに置き換えるだけではなく、1灯ごとにセンサーを設置して照度、点灯時間を制御。さらに交通量や通行量、治安情報なども加味して最適化することにより、電力使用量をおよそ3割削減し、省エネだけでなく犯罪抑止にも効果を挙げているという。

ランブラス通りで見掛けた街灯。景観に溶け込むデザインのものにもセンサーが内蔵されている

2014年には情報革新推進都市「iCapital」に選定

モビリティ、交通管制、電力、水力、ごみ、治安維持など、多種多様なデータをセンティーロに集約するという取り組みは、コストダウン、環境負荷低減、渋滞の減少など毎年着実に効果を挙げ、2014年にはEC(欧州委員会)のiCapitalコンテストで優勝している。

ECが実施するiCapitalコンテストアワードは、欧州の各都市が「市民と企業の幸せを実現しつつ環境や生態系を保護するための取り組み」を競い発表。最も革新的と認められた年間最優秀都市「iCapital」には100万ユーロ(約1億2千万円)、優秀5都市には10ユーロの賞金が贈られる。
上位都市の各種取り組みは、概念・手法・実際の運用など詳細を発表する機会が与えられ、事例として他の都市が参考にすることができる。ECや各国政府とは独立した審査委員会により選定される「iCapical」に選ばれることは、都市として素晴らしい名誉と言えよう。

センティーロを運営するバルセロナ市のノウハウや、システムに関係する各企業のサービスは、世界各国の都市課題解決に向けたビジネスとしても成長を続けており、本稿でも今後紹介していく。

既に多くの社会インフラが「センティーロ」に接続されているバルセロナ。
重要なのは「近未来的な雰囲気の最新機器」ではなく、情報を伝え、集約し、適切なテクノロジーで課題に取り組むこと。同行した現地スタッフの「バルセロナがスマートシティだと言われても、正直ピンと来ない」という感想は、この取り組みが街に馴染んでいる証なのかも知れない。
次回はバルセロナ市交通局の管制センターに伺って、モビリティの課題解決への取り組みを担当者インタビューを交えてお届けしたい。

[ガズー編集部]