【現地取材】特別潜入!バルセロナ交通局 後編 スマートシティの実例と成功の鍵とは―スマートシティ最先端都市バルセロナ編④
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- バルセロナ交通局管制センターで市街地道路の調整をしている様子
前回お届けしたバルセロナ交通局 アドリア氏へのインタビュー前編では、社会インフラから交通まで幅広い情報を管理する統合システム「センティーロ」を活用し、市内の交通の状況を把握し課題を発見、現地と協力して解決する現場を取材した。本稿ではモビリティ分野での具体的なデータ活用、市民や企業との連携をどのように実践しているのか、そしてスマートシティのこれからについて意見を伺った。
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- バルセロナ市役所 交通局 モビリティサービスディレクター アドリア・ゴミラ氏
カメラとセンサーによる自動交通取り締まり
さまざまなデータをカメラやセンサーで収集し共有する統合システム「センティーロ」を活用するバルセロナでは、交通取り締まりも高度に自動化されている。
速度違反については「一定区間ごとに車両のナンバープレートを読み取り平均速度を計算して」判断し、もし超過している場合は車両情報が警察に送られ罰金手続きなどが進められる。指定地点を通過する一瞬の速度超過ではなく平均速度で判断するため、市街地でも高速道路でも高い抑止効果を得られ、事故防止に役立っているという。
市街地でも高速道路でも、「区間平均速度」での取り締まりが行われている
バルセロナ市では2020年1月1日から排気ガス規制が強化され、一定の基準を満たさない古いクルマやディーゼル車について市内指定地域の走行が禁止された。この取り締まりにもカメラシステムが活用され、指定地域に入るクルマのナンバープレート情報をデータベースと照合、禁止車両が走行している場合は速度超過と同様警察に情報が送られる。
また、運送用車両が荷捌き専用駐車スペースを利用する際には、運送業者専用のアプリで「駐車開始」を登録すると30分間の駐車が許可される。カメラ監視と警察官の巡回により、渋滞抑止と治安維持を目指している。
抜き打ちでは無く自動的に取り締まりを行うテクノロジーを導入したことにより違反者が減り、スムーズなモビリティ環境が実現されているという。
大型車向けの後付けセンシングシステム実証実験も開始
バルセロナ交通局ではスペイン交通局と共同で大型車向けの実証実験も開始。2019年11月にバルセロナで開催されたスマートシティEXPOでも発表されたこの取り組みは、郵便局や配送業者などの大型トラックに(いわゆる衝突軽減ブレーキのような)レーダーを取り付けて車両周辺の情報を収集。極端な車間距離など異常を検知した場合はドライバーに対して事故防止を促すとともに位置情報を送信し、いわゆる「ヒヤリハット」地点をマップ上に共有できる。
現在は実験プロジェクトのためセンター(例えば輸送業者の本社など)にのみデータが送られるが、将来的には他のドライバーとの情報共有や自動車同士間での通信も行っていく。
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- 将来的には危険箇所の情報をリアルタイムで車同士が共有し、より一層の事故削減を目指す
テクノロジーは重要だが、テクノロジーの導入が目的ではない
2000年に始まり20年を迎えているバルセロナのスマートシティ化への取り組み。スマートシティの話題となると、最新のIT器機や通信システムなどハードウェア面がクローズアップされがちだが、重要なのはそこでは無いとアドリア氏は強調する。
アドリア氏:バルセロナがより効率的なモビリティを実現しスマートシティとして発展するためには、最新のIT技術を導入すれば良いのでは無く、まず市民と市が抱える課題をしっかりと分析して捉えることが重要です。それを解決するためにはどんな手段があるのかを考え、適応するテクノロジーを活用します。センティーロによる情報収集と一元化は高い効果を発揮していますが、それがスマートシティの全てという訳ではありません
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- あくまで課題を解決することが重要、データやテクノロジーはそのためのツールと語るアドリア氏
交通局に集まる膨大なデータは、リアルタイムでメディアやアプリを通じて市民に提供される。市内の渋滞情報をマップ上に表示する、地下鉄やトラムの運行情報を提供するといった個別のサービスだけでなく、その全ての情報を組み合わせて「効率的に移動する」ための案内までカバーできるのはセンティーロに情報を統合しているメリットと言えよう。
公式サイトとアプリで情報提供するほか、特に大規模な混雑などについてはメディアを通じて市民に情報発信
また、バルセロナ市内で多数見掛ける案内マップにはQRコードが書かれ、付近の観光情報や交通案内を見ることができ、交通局アプリを使えば目的地まで最適なルートが案内される。
センティーロに集められたデータを元に交通局管制センターが常に課題に対応し続け、できるだけ快適なルートでの移動を提供してくれる。
バルセロナ市民はもちろん、年間3,000万人が訪れる観光客も、特別にスマートシティやセンティーロを意識することなく文字通りスマートに利便性を享受できるのだ。
街灯などに取り付けられた案内マップ。「BCN SMART CITY」の文字とQRコードが見える
QRコードで開くバルセロナ市の案内ページ
最後に、アドリア氏が考えるスマートシティ成功の鍵を伺った。
アドリア氏:スマートシティの実現には、行政・企業。市民の3者が興味を持ち続けることが大切です。そしてスマートシティに関与する企業が利益を生み出し、市民はメリットを実感でき、そして行政のサポートが無ければスマートシティは成立しません。課題を一緒に解決し、皆が幸せに近づける、それがスマートシティ成功の鍵だと思います。
違法駐車を減らせば渋滞が減り、渋滞が減れば事故が減る。企業活動はよりスムーズになり、市民もより快適な移動を実感。文字で書くとじつに簡単なことではあるが、実際の都市でこれを実現することは容易ではない。愚直に課題と向き合い1つ1つ解決する、アドリア氏の力強い言葉が印象的だった。
次回は徹底した交通規制が導入されたバルセロナ旧市街地区をレポートする。
[ガズー編集部]
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