【現地取材】快適な都市生活と地球環境の持続、スマートシティ化は必然の選択―スマートシティ最先端都市バルセロナ編⑦

バルセロナ市民憩いの場、シウタデリャ公園の通路。ここでも統合システムセンティーロによって電力や水道の効率化、治安維持が人知れず実現されている
バルセロナ市民憩いの場、シウタデリャ公園の通路。ここでも統合システムセンティーロによって電力や水道の効率化、治安維持が人知れず実現されている

バルセロナ市がスマートシティの先駆者としてプロジェクトをスタートして20年。
本連載ではモビリティ分野では交通局が渋滞緩和と事故防止に取り組む様子、公共交通とマイカーを上手に使い分けるライフスタイル、そのノウハウを世界に発信する取り組みなどを取材し紹介してきた。解決すべき課題は多々あるが、バルセロナ市にとって今最も深刻な課題が大気汚染であり、現在も解決されていない。

密集する市街地に大量のクルマとバイクが流入すれば当然渋滞が発生し、排気ガスも増える。
「行きたい場所に自由に移動できる」マイカーのメリットは非常に大きいが、課題解決に向けて市民のバス利用を促進したい、そのための大胆な取り組みが2013年のスマートシティエキスポで発表された。

碁盤の目の街、バスのルートを「縦と横」だけにする大規模プロジェクト

サグラダファミリア前を通るバス。市内のバス停は400メートル間隔で設置され、乗り放題チケットなども整備することで利便性と利用率を向上させている
サグラダファミリア前を通るバス。市内のバス停は400メートル間隔で設置され、乗り放題チケットなども整備することで利便性と利用率を向上させている

バルセロナ新市街が「碁盤の目」状であることは以前にも紹介したが、複雑に入り組んだバスルートを全部リセットし、縦と横の分かりやすいルートに置き換える、その名も「バルセロナ市バス路線変更プロジェクト」。

バルセロナ市の山側(地図の上側)から海側へ真っ直ぐ走る「縦ルート」を数十本並べ、さらに左側と右側を繋ぐ「横ルート」を数十本並べる。もちろん地形に合わせた調整はされているが、大胆に縦(V=バーティカル)と横(H=ホリゾンタル)に整理した。

電光表示で、このバスはH16路線のバスだと分かりやすい
電光表示で、このバスはH16路線のバスだと分かりやすい

交通局(TMB)のバス路線マップ
https://www.tmb.cat/en/barcelona-transport/map/bus

マップのサグラダ・ファミリア周辺を見てみると、海側から「V21」縦の21番路線、右側から「H10」横の10番路線などが走っていることが分かる。
これならマップさえあれば市民はもちろん観光客でも簡単に「安心して」利用することができ、結果として市内のバス利用は毎年2~3%のペースで増えているという。

さらにバス停を400メートル間隔=歩いて約5分間隔で設置することで、乗りたいと思ったときに直ぐ乗れる、バスは面倒だからやっぱりクルマで行こうと思わせない工夫もされている。

2020年1月に改訂されたバス料金は、市内一律距離に関わらず1回乗車 2.4ユーロ、10回券なら11.35ユーロ、30日乗り放題で40ユーロなど利用しやすい価格設定になっている。

こちらは交通局が運営するトラム(路面電車)のマップ。旧市街など中心部は密集しすぎているためトラムを通すことが物理的にも予算的にも難しく、空白地帯となっている
https://www.tram.cat/

一朝一夕には解決できない大気汚染という課題、量と質両面での対策

統合システム センティーロによって駐車違反やおかしなスピードで走る人もいなくなり、バスがとっても便利になり、市民向けBicing(シェアサイクル)も整備され、ここまでモビリティが便利に進化したのなら大気汚染も相当改善されるのではと期待できる。

だが、気候と地形的な問題もあり残念ながらこと大気汚染に関してはスマートシティ20年で劇的な改善はできておらず、バルセロナ市はEUから是正勧告も受けている。

市民の利便性を損なうことなく効率的なモビリティの組み合わせが相当実現され、全体の交通「量」は改善されたにも関わらず、排気ガス問題がなかなか解決しない。
次の一手として「質」の課題、2020年1月からバルセロナ市内全域をZBE(低排出ゾーン)に指定し、一定年数以上経過したガソリン車・ディーゼル車は平日日中の走行が規制される。

ZBE(低排出ゾーン)のホームページ
https://www.zbe.barcelona/en/index.html

市内と市街を毎日大量のクルマやバイクが行き交う中、全台数をチェックして違反車両に罰金を科すのは膨大な作業に思えるが、こちらも統合システム「センティーロ」に接続された各種カメラ/センサーによって全て自動的に処理される。
(現在は試験段階 / 目視でも確認できるよう車両にエコグレードステッカーの貼り付けが義務化される)

ZBEのサイトに車両ナンバーを入力すると、エコグレードが表示される。規制地区入り口で見かけたタクシーは「Blue Green ECO」だった

エコなタクシー、プリウスくん。バルセロナのタクシー会社で多く採用されている
エコなタクシー、プリウスくん。バルセロナのタクシー会社で多く採用されている

最新のエコカーが走る一方で、比較的古いディーゼル車の割合も高いバルセロナ。市内に乗り入れる車の「質」が今後劇的に変わることで、課題解決へ前進できることだろう。次回のスマートシティエキスポで良い結果が発表されることを期待したい。

日本国内でもスマートシティ実証実験が続々と始まっている。日本の都市が抱える課題とは何なのか、どう解決しようとしているのか。本稿を読んで頂いたみなさんは、これまでよりもちょっとだけ「スマートシティ」という言葉のアンテナが伸びたことと思う。バルセロナはもちろん、各地での取り組みから目が離せない。

トヨタ自動車は、あらゆるモノやサービスがつながる実証都市「ウーブンシティ」を東富士に設置する
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/31170943.html

最先端都市バルセロナ。さぞかしキラキラした最新テクノロジー機器が街中に並んでいるのかと想像したが、実際には行政、企業、そして市民も参加して「課題を見つけ、解決方法を探し、その手段として最適なテクノロジーを活用する」、極めて愚直な努力の積み重ねがスマートシティを成立させているのだと実感した。

次回は最終回。バルセロナ市民のみなさんにトヨタやマイカーのイメージを聞いて見た。

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road