国内最大規模! 新城ラリーの成り立ちと、歴史的背景とは?

現在、JAF全日本ラリー選手権で指折りの大規模イベントとなった新城ラリー(愛知県の東端、静岡県との県境に位置する新城市にて開催)。近年ではシーズンを締めくくる最終戦として行われており、毎年多くの観客を集めています。
(写真は、まだ地方選手権として開催されていた2006年のメイン会場「ふれあいパークほうらい」のスタートの様子)

15年をかけて着実に成長してきたラリーイベント

そのスタートは今から15年前、2004年にまで遡ります。JAF全日本ラリー選手権直下のクラスである地方選手権──JAF中部・近畿ラリー選手権の一戦として始まったラリーは、07年に全日本ラリー選手権に昇格、11年にはTOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジ(当時の名称はTRDヴィッツチャレンジ)との併催が実現し、合計エントラント(参加チーム)が100台を超えるという国内トップクラスの規模を誇る大会へと成長を遂げました。

また、多彩なイベントと数々のゲスト、有名ドライバーによる同乗走行やデモンストレーションランで入場者数は年々増加の一途をたどり、それに伴ってラリーのメイン会場を『桜淵公園』から愛知県の施設である『県営新城総合公園』に変更(11年)、さらなる観客の増加に対応しています。加えて新東名高速道路の新城インターチェンジ開通(16年)によって首都圏および名古屋方面からのアクセスも容易となり、ラリーの経済効果は約12億円とも言われます。

写真で振り返る新城ラリーの歴史-1

  • 2007年:全日本ラリー選手権として初めての開催。会場から歩いていくことの出来る観戦エリアには多くの観客が集まり、林道コースを駆け抜けるラリーカーの迫力を楽しんだ。このほうらいせんSSは桜淵公園から歩いて観戦に行くことの出来る人気スポットでした(現在は使用されていません)。
    2007年:全日本ラリー選手権として初めての開催。会場から歩いていくことの出来る観戦エリアには多くの観客が集まり、林道コースを駆け抜けるラリーカーの迫力を楽しんだ。このほうらいせんSSは桜淵公園から歩いて観戦に行くことの出来る人気スポットでした(現在は使用されていません)。
  • 2011年:国内屈指の人気ワンメイクラリーシリーズ「TRDヴィッツチャレンジ」との併催がスタート。全日本ラリー選手権などのエントラントを足して合計100台を超えるイベントに。スタートゲートから1台ずつMCの紹介を受けてスタート@桜淵公園。
    2011年:国内屈指の人気ワンメイクラリーシリーズ「TRDヴィッツチャレンジ」との併催がスタート。全日本ラリー選手権などのエントラントを足して合計100台を超えるイベントに。スタートゲートから1台ずつMCの紹介を受けてスタート@桜淵公園。
  • 2012年:モリゾウこと豊田章男トヨタ自動車社長がTRDラリーチャレンジに初参戦、完走を果たした。ゴール後、「自分で考えているのと実際にやるのとでは違うし、見える世界が広がりました」とコメント。
    2012年:モリゾウこと豊田章男トヨタ自動車社長がTRDラリーチャレンジに初参戦、完走を果たした。ゴール後、「自分で考えているのと実際にやるのとでは違うし、見える世界が広がりました」とコメント。
  • 2012年:FIA世界ラリー選手権(WRC)のチャンピオン、ビヨルン・ワルデガルドがゲストとして来日。かつての愛車であるセリカ・ツインカムターボで、華麗なデモランを披露した。
    2012年:FIA世界ラリー選手権(WRC)のチャンピオン、ビヨルン・ワルデガルドがゲストとして来日。かつての愛車であるセリカ・ツインカムターボで、華麗なデモランを披露した。

ラリーは新城市の地域再生プランからスタート

豊かな自然に恵まれた新城市は、アウトドアスポーツが盛んな地域であり、それを町おこしの核にしようと、04年に「DOS(Do Outdoor Sports)地域再生プラン」を政府に提出、地域再生法第1号の認定を受けることとなったのです。パラグライダーや自転車などと並ぶアウトドアスポーツのなかにモータースポーツが含まれていたことから、日本自動車連盟(JAF)を通じてモンテカルロ・オート・スポーツ・クラブ(MASC)代表の勝田照夫氏に打診が行き、中部地域で歴史と実績をもつラリー主催者である勝田氏がオーガナイザーとして加わったことで、ラリー開催に向けた機運が一気に増していくこととなります。新城市は、かつて開催されていた日本で最も大規模なラリーである「日本アルペンラリー」の第11回大会(1969年)で、市内にある横浜ゴムの工場がサービスポイント(車両を整備などを行う場所)として使用されたこともあるなど、少なからずラリーに縁のある土地でもありました。

ラリー競技は非常に広範囲にわたって行われるモータースポーツです。開催にあたっては近隣住民への周知と理解はもちろんのこと、道路使用の許可など行政・警察の協力が必要不可欠。説明会を開いてラリーの楽しさを強調しても、その意図はなかなか伝わらないと考えた勝田氏は、ラリー開催前に体験型の交通安全講習会を実施し、社会貢献を行いながら、地域にモータースポーツを浸透させていきました。こうして、新城ラリーは社会貢献とラリーによる地域活性というふたつの軸を得ることとなったのです。この安全運転講習会は現在でも継続して開催されており、地域の交通安全に大きな役目を果たしています。

勝田氏が代表を務めるMASCは、1977年に岐阜県の瑞浪・恵那地域を舞台として、その名を冠した「MASCラリー」の開催をスタートしました。当時としては日中に走行する“デイラリー”は珍しく(多くのラリー競技は夜間走行でした)、ドライバー、ナビゲーター、そして観客も楽しめる設定がなされたラリーとして好評を博し、当時のトップドライバーたちもこぞって参戦しました。また、瑞浪警察署の協力を得て警察署をスタート地点としたり、署内の会議室でミーティングを行うなど当時としては画期的な試みを行ったほか、ラリーカーには春の交通安全運動に合わせて「シートベルトをしめよう」というステッカーを貼るなど、当時から交通安全に対する意識の高さをもった大会だったのです。

その後MASCラリーは、JAF登録クラブ地域協議会(JMRC)の設立に伴って1983年からJAF中部ラリー選手権のひとつに名を連ねます。この年のスタート地点は岐阜県瑞浪市で、総参加台数60台のうち、地元中部地区以外の出場車が33台。国内最高峰の全日本選手権でも上位を狙えるレベルのドライバーが顔をそろえる華やかさは、開催初期から変わらない人気の証拠と言えるでしょう。やがて愛知県の稲武町(現豊田市)に移すなどいくつかの変遷を経て、中部地区を代表するラリーの座を確固たるものとしてきました。

初開催以来の長年にわたる実績と、主催クラブとして積み重ねてきたノウハウが、後の新城ラリー開催へと結びついていくことになったのです。また、85年に開催された全国オールスターラリーフェスティバル(各地域のJMRCが持ち回りで主催する、地方選手権の年末イベント。MASCも主催者の一員)では、ヘリコプターを使った空撮映像も交えて1時間番組を中京テレビで放映するなど、次々に新しいことを採り入れる柔軟な発想も、後の新城ラリーに活かされた点と言えるでしょう。

MASCラリーの名称・開催地を変更して第1回を開催

2004年に開催予定だったMASCラリーの名称・開催地を変更することによって行われた第1回大会では、新城市の企画課が中心となってラリーの運営に協力。警察への各種申請のほか、ラリー当日には沿道管理などのスタッフを務めるなど、まさに縁の下の力持ちとして活躍しています。ラリー当日はあいにくの雨に見舞われてしまったものの、想定以上の観客を集めておおむね成功裏に終わりました。

当時のJAF全日本ラリー選手権は、2001年からインターナショナルラリーイン北海道(WRCラリージャパンの前身)など国際格式ラリーの開催がスタートしたことで、変革の時期を迎えていました。それまでのアベレージラリー(所要時間の正確さを競う)形式から、現在と同じスペシャルステージラリー(SSラリー/閉鎖されたタイムアタック区間を使用し、スピードを競う)形式の大会が増え、デイラリーの開催も増加していきました。そして2006年からのJAF全日本ラリー選手権は、全戦がSSラリーへとスタイルを変え、純粋に速さを競うスポーツ性の高いものへと変化していったのです。

また、ラリー競技の頂点である世界ラリー選手権(WRC)が日本で開催されたことの意義は非常に大きかったと言えます。2004年9月に開催されたラリージャパン(北海道帯広市)は盛大なセレモニアルスタート、安全管理の行き届いた観戦エリアなど、ファンへの強力なアピールやラリー競技そのものの認知向上だけでなく、ラリーに携わる関係者の意識を大きく変えるきっかけとなりました。そうしたタイミングで、自治体が推進するラリーとしてスタートした新城ラリーも大きな注目を集め、ラリー界の盛り上がりと時機を同じくして2007年には全日本ラリー選手権の1戦として開催、現在の全日本ラリー選手権の隆盛の基礎を築くに至ったのです。また、MASCラリーは2015年に新城市を舞台としてその名称を復活させ、現在もMASCラリーin新城としてJAF中部・近畿ラリー選手権のひとつとして開催されています。

新城ラリーの発展の秘訣は絶え間ない改善にあり

新城ラリーは初回開催時以来、前年度の課題に対して細かな改善を続けることで、市を挙げての行事へと成長を続けてきました。スペシャルステージ(タイム計測区間)観戦エリアへの観客導線、駐車場への誘導、タイムスケジュールの見直しなど様々な改善を行ったほか、飲食ブースは地元の店舗による出店を中心とすることで、県外からの来場者に向けて愛知県および中部地域のグルメや特産物を楽しんでもらう工夫などを行っています。こうした地道な努力と試行錯誤の積み重ねによって地域の理解も深まり、信頼を得ることで円滑な運営が実現できるようになったのです。

また、イベント運営の改善のためにトヨタグループ各社内の改善方式を採用し、ラリー終了後早い時期にクラブ内反省会を実施し、改善点を翌年のラリーに活かすなどの工夫がされています。また、新城市役所がアンケートを実施し、来場者の声からも直接改善案を採用しています。例えば授乳場、トイレの数および内容、案内看板の数、ゴミステーションの設置、イベント内容、タイムスケジュール、観客の導線など、主催者側からだけでは見えてこない反省点をアンケートから改善しています。

現在では、新城市役所産業振興部スポーツツーリズム推進課が主体となって地域活性化に向けた様々な準備を行っているほか、開催当初から運営をサポートしている新城ラリー支援委員会では、近隣地域のイベントにも積極的に出展し、新城ラリーのPRを行い認知向上に務めています。もちろん他の全日本ラリー選手権も自治体等のバックアップを受けて開催していますが、新城ラリーほど行政と市民が一体となって盛り上げを行うラリーはほかに類を見ないと言っていいでしょう。

加えて愛知県側も新城ラリーのPR活動として予算を組み、議会を通した予算で広告代理店などに提案・コンペをし、今年はテレビ局がコンペを勝ち抜いています。愛知県庁をスタートし、名古屋市内をラリーカーが走行するパレード、名古屋駅コンコースでのラリー告知、などPR活動を強力にバックアップしています。

写真で振り返る新城ラリーの歴史-2

  • 2013年:この年からメイン会場を県営施設である新城総合公園へと移動。キャパシティと観客の安全性は大きく向上。また、この年は陸上トラックに特設コースを作りデモランを行った。ドライバーはモンスター田嶋こと、田嶋伸博。車両はヒルクライムなどに出場するスーパー86。
    2013年:この年からメイン会場を県営施設である新城総合公園へと移動。キャパシティと観客の安全性は大きく向上。また、この年は陸上トラックに特設コースを作りデモランを行った。ドライバーはモンスター田嶋こと、田嶋伸博。車両はヒルクライムなどに出場するスーパー86。
  • 2014年:現在TOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチームの監督を務めるトミ・マキネンがゲストとして来日。特別に4WDに仕立てたGR 86x(クロス)をドライブし観客を沸かせた。新城総合公園内のスペシャルステージ(タイム計測区間)でのデモランの様子。
    2014年:現在TOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチームの監督を務めるトミ・マキネンがゲストとして来日。特別に4WDに仕立てたGR 86x(クロス)をドライブし観客を沸かせた。新城総合公園内のスペシャルステージ(タイム計測区間)でのデモランの様子。
  • 2016年:燃料電池車MIRAIのラリー仕様車(2014年)、ニュルブルクリンク24時間のLFA(2015年)、発売前の新型車C-HR(2016年)など、多彩なデモラン車種も新城ラリーの魅力のひとつ。C-HRのドライバーはモリゾウ(助手席はC-HRの開発責任者を務めた古場博之氏)。
    2016年:燃料電池車MIRAIのラリー仕様車(2014年)、ニュルブルクリンク24時間のLFA(2015年)、発売前の新型車C-HR(2016年)など、多彩なデモラン車種も新城ラリーの魅力のひとつ。C-HRのドライバーはモリゾウ(助手席はC-HRの開発責任者を務めた古場博之氏)。
  • 2017年:発売前のヴィッツGRMNもデモラン。ステアリングを握ったのは現在TOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジプログラムで海外修行を続ける勝田貴元。助手席に全日本ダートトライアル選手権に出場する炭山義昭(彼自身も、同選手権に出場する三菱ミラージュでデモランを披露)を乗せてその走りを披露した。
    2017年:発売前のヴィッツGRMNもデモラン。ステアリングを握ったのは現在TOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジプログラムで海外修行を続ける勝田貴元。助手席に全日本ダートトライアル選手権に出場する炭山義昭(彼自身も、同選手権に出場する三菱ミラージュでデモランを披露)を乗せてその走りを披露した。

地元企業とも連携し、さらに強固な結びつきを

そして地元企業の協力という点も大きなポイントです。その一例が、初開催時から課題となっていたシャトルバスによる観客の輸送です。会場内に観客用駐車場をもたない新城ラリーは『パーク&ライド』方式を採用し、離れた駐車場から会場までシャトルバスによるピストン輸送を行っていますが、多くの来場者をスムーズに移動させるためには大型バスの台数確保とスケジュール管理が重要です。現在では新城市から3台のバスを出しているほか、地元愛知県に本拠を置くトヨタグループ17社と、隣接する岡崎市に製作所をもつ三菱自動車から計32台の通勤用大型バスの提供を受けるなど、地元企業からの力強いバックアップも受けています。また、計35台にものぼるシャトルバスの運行管理には、専門のスタッフを充てるなど体制面も充実させています。さらに、JR東海の協力によって、JR飯田線豊橋駅から県営新城総合公園の最寄駅である大海駅をつなぐ臨時列車が運行されるなど、地域を挙げての祭典になりつつあります。

2016年:07年の全日本ラリー初開催時には1万人を超えるほどだった来場者数も、16年大会では5万人を突破する東三河地域で最大級のイベントに成長。写真は、小さいお子さん連れの方なども良く見かけることが出来るほど、ファミリーで楽しめるメイン会場、新城総合公園内のイベント広場の様子。
2016年:07年の全日本ラリー初開催時には1万人を超えるほどだった来場者数も、16年大会では5万人を突破する東三河地域で最大級のイベントに成長。写真は、小さいお子さん連れの方なども良く見かけることが出来るほど、ファミリーで楽しめるメイン会場、新城総合公園内のイベント広場の様子。

もちろんこれらの協力体制は一朝一夕では作り上げることは出来ないものです。15年にわたって真摯にラリーを運営してきた主催者と、1年間を通じてラリー開催に向けて準備を進めている新城市役所、新城ラリー支援委員会の継続的な努力の賜物と言えるでしょう。また、今年はトヨタ自動車の技術部から大勢のスタッフがボランティアとして駐車場や観客の管理などラリーの運営に加わる予定になっているとのこと。オフィシャル数は350人(経験者120人、ボランティア230人)ですが、ここに新城市役所のボランティアが120人、トヨタ自動車技術部のボランティアが170人加わります。この数だけでもいかに大きなイベントとなっているか容易に想像できるのではないでしょうか。

ファミリーで来場し、ラリーそのものに詳しくなくても1日中クルマとモータースポーツを楽しむことが出来る新城ラリーにぜひ観戦に訪れてみてください。

[ガズー編集部]

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