【スーパー耐久第5戦もてぎ】目指せ!まるでMTを操作しているようなAT。新開発「DAT」を搭載したGRヤリスが登場
モビリティリゾートもてぎで行われているスーパー耐久第5戦に、新たな注目のマシンが参戦する。それはメーカーの開発車両が参戦できるST-Qクラスにエントリーした32号車 ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptだ。
32号車は液体水素エンジンを搭載するGRカローラが背負っているゼッケンだが今回はお休み。液体水素エンジンの開発を進めるとともに、トヨタの中でそのレースごとに開発するべき車両や機構が検討されているとのことで、今回は車名にもあるDAT(ダイレクト・オートマチック・トランスミッション)を搭載するGRヤリスがエントリーすることとなった。
このDATは新開発の8速ATで、パドルシフトはついているものの、基本的にはDレンジのままでスピードやエンジン回転数、アクセル開度などいろいろなファクターから、ドライバーがMTであれば選ぶであろうギアに変速してくれるトランスミッションだという。
この開発にあたっては、トヨタ自動車の会長でありモリゾウ選手としてスーパー耐久にも参戦する豊田章男氏の発案から始まり、モータースポーツの楽しさをさらに多くの人に届けたい、ATの免許しか持っていない人やATを好む人にももっと走ることの楽しさを体感してほしいといったコンセプトがあるという。
2020年の後半から構想がスタートし、2022年からTGRラリーチャレンジにこのDATを搭載したGRヤリスを走らせて、本格的にモータースポーツを通じての開発をスタートしている。そのテストドライバーは、なんとトヨタ自動車の早川茂副会長が務めている。
このDATは、誰でもMTと同じ操作感をATのDレンジのままで味わえるトランスミッションとして開発が進められている。実際に早川副社長が乗ることで、モリゾウ選手やプロドライバーがドライブするのとは違う不具合や課題も出てきているという。まさに人がクルマを鍛えるということが実践されているようだ。
ラリーチャレンジではSS(スペシャルステージ)という競技区間はもちろん、リエゾンという一般道を走る移動区間についてもその制御向上のためのテストケースとして活かされている。
そして今回はそこからステップアップし、よりグリップや速度域が高く、マシンにとって高熱の状態が続くスーパー耐久が開発の場として選ばれることとなった。
実際に走らせてみると、想像以上のグリップによる負荷がDATにかかり、MTを走らせていた経験測から想定していた1.5倍ほどの負荷による熱の発生が見られているという。そのため、予選日のフリー走行では最後にコース脇にマシンを止めたり、Aドライバーの予選の際もオーバーヒート寸前の高温となったことで電気系統にトラブルが発生しマシンを止めてしまうシーンもあった。
開発にあたり富士スピードウェイで繰り返し走らせて合わせ込むテストを行ってるが、その際はオイルクーラーを使っての冷却状態を確認できていたという。
しかしモビリティリゾートもてぎで走らせてみると、まったく冷却性能が足りないという事態に。エンジンルームに隙間がないことも冷却の妨げとなっているとはいうが、急遽冷却用の穴を開けるとともに、取り外していたクーリングファンを再度装着するといった対策を施している。
ただ、実際にマシンを走らせたモリゾウ選手やジェントルマンドライバーの小倉康宏選手からは、「楽しいね」という開発コンセプト通りのコメントも聞かれているという。
具体的に小倉選手からは「シフト操作に気を取られず、ステアリングとアクセルとブレーキに集中できるのが楽しい。MTでシフト操作が必要な時にできなかった、『あのコーナーでタイヤ一つずらしてみようか』とか、周回ごとに修正することができるのがいい」といったコメントもあったそうだ。
まだまだ開発の途中であり、コースや路面状況、ドライビングの違いによって、テストを行えば行うほどますます課題も出てきているという。しかし、すでに街中での走行ではまるでレーシングドライバーが運転しているような走りや音を楽しめるようになってきているという。
AT限定の免許の人がヒール・アンド・トゥの感覚を楽しめる、初めてモータースポーツに参戦する人でも安心して楽しめる、そうしたクルマがあることが運転することを楽しむ、そしてクルマを好きになる人を増やすための一つの解決策として、このDATの開発が進められている。
もともとDATは、GRヤリスの上位グレードであるRZにはMTしかなく、そのGRヤリスの楽しさをもっと広めたいということがきっかけだという。ただ、そうしたハイパワーなクルマではなく、たとえコンパクトカーだとしても、自分の意のままに操れるDATが搭載されたクルマに乗れば、運転することの楽しさを改めて感じることができるだろう。
スポーツATやDCTなどスポーツ走行が可能なATは他にもある。だがモータースポーツの場で開発され、まるでMTのような走りが味わえるというATがあれば、乗ってみたいというクルマ好きの方も多いのではないだろうか。ぜひともさまざまな車種に採用されていくことも期待したい。
(文:GAZOO編集部 山崎 写真:GAZOO編集部)
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