水素のピザ窯も!? CR-Vやハイエースからダカール参戦車両、カートまで、水素で動くクルマが大集合！･･･スーパー耐久第7戦富士

11月11日～12日に富士スピードウェイで開催された、2023年のスーパー耐久シリーズの最終戦「第7戦 S耐ファイナル 富士4時間レース with フジニックフェス」では、水素を使ったクルマや調理器具（？）が展示やデモンストレ―ションを行い、来場者の注目を集めていた。

スーパー耐久では、ST-Qクラスというメーカーの開発車両が参戦できるクラスがある。そのST-Qクラスに参戦するルーキーレーシングのGRカローラ（ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept）は水素を燃料とするエンジンを搭載している、世界で唯一のレーシングカーだ。

2021年からの2年間は気体水素、2023年シーズンからは液体水素を使い、レースという場で実証実験とアジャイルな開発を進めている。
そんな水素を燃料とするさまざまなクルマから調理器具までイベント広場に多数展示されていたので、その様子をお届けしよう。

こちらの車両は、ホンダがGMと共同開発した水素の次世代燃料電池システム「Honda Fuel Cell Module Prototype」を搭載したCR-Vだ。2023年2月に、ホンダはFCEV車両を2024年に発売することを公表しており、それがこのCR-Vとして初披露された。

この次世代燃料電池システムはクラリティ・フューエルセルの燃料電池システムに比べて、コストは1/3、耐久性は2倍以上、-30℃での低温開始時間を大幅に低減するなど、大きな進化を果たしている。
またこの燃料電池システムは自動車のみならず、商用車や設計機械、定置電源など多様な用途で活用することを想定しているという。

現在CR-Vは国内では販売されていないが、現状ではFCEV専用車両として国内で復活することになる。
ただこのCR-Vは水素で発電するだけでなく、プラグインハイブリッド車として充電することも可能ということで、水素充填のネガな面を補う仕様となっている。

こちらのオフロードスタイルの車両「HySE-X1」は、2024年のダカールラリーに参戦を予定している車両だ。しかもそのエンジンは水素を燃料とするという。

車名にもある「HySE」とは、水素小型モビリティ・エンジン研究組合（Hydrogen Small mobility & Engine technology）の略で、カワサキ、スズキ、ホンダ、ヤマハ、トヨタが脱炭素社会の実現に向け、水素小型エンジンの開発と普及に向けた研究開発を目的に立ち上げた組織だ。
実際にヤマハの水素エンジン用のベンチに、カワサキ、スズキの技術者が集まり技術の開発を進めるなど、メーカーの枠を超えての活動が行われているという。

このHySE-X1に搭載されている水素エンジンは、カワサキのバイクのH2に搭載されている1000ccエンジンをベースに開発している。
車体はベルギーのオーバードライブレーシング社のフレームをベースとして、水素燃料タンクや燃料供給系統の設置のためのレイアウト変更を行っている。

また、参戦するクラスは“Mission 1000”という、カーボンニュートラルに向けた次世代パワートレインの技術開発を目指す車両が参戦できるクラス。ダカールラリーは約8,000kmを走破するラリー競技だが、この“Mission 1000”クラスの車両は、100kmの10ステージの走行で争われるという。

気になる水素の充填だが、主催者側が各ビバーク（車両のサービスをする場所）に移動式の水素充填トラックを手配することとなっているそうだ。

こちらのレーシングカートも実は水素エンジンを搭載している。元はヤマハのモトクロッサーであるYZ250のエンジンで、水素を燃料とする仕様に、またカートに載せる用に下回りを少し改変している。

走行距離は、燃料をどれほどの濃度で噴くかによって変わるというが、最大の出力を出す設定の場合でカートレースの1回分（カートレース場で10周～15周程度）を走れるという。

そしてこちらのカートはカーボンニュートラル燃料仕様も用意されているが、もう一つの開発目的はモータースポーツの裾野を広げることだ。
そのために、フレームから新設計しなるべくコストを低減するような素材やフレームワークを採用、ミニバンで運ぶことができるように横幅を少し短くしたり、タイヤもよりサスティナブル比率を上げた専用のタイヤを装着するのなど、少しでもコストを下げ、モータースポーツを始める壁を下げたいという。

こちらはメディア向けに公開された水素を燃料とするエンジンを搭載したワールドモデルのハイエースだ。燃料タンクをフロア下に配置しているが、ガソリンエンジンのハイエースと同じ居住空間を確保することができているという。

この車両はオーストラリアにて実証実験が行われるというが、まだ後続距離が200km程度とのことで後続距離を伸ばすための開発も進められており、いずれは水素エンジンとハイブリッドの組み合わせなども検討していきたいという。

詳しくはこちらの記事もご覧いただきたい。

11月2日に正式に発表されたクラウンセダンが、第2戦富士24時間に続き展示された。全長×全幅×全高 5,030×1,890×1,475mmというボディサイズとフロントのデザインがあいまり、その存在感は抜群だ。

また、MIRAIスポーツコンセプトもクラウンセダン同様展示され、そのスタイルに「カッコいい」という声が多く聞かれた。

こちらはクルマではないが、「みんなでつくる身近な水素の使い道」というコンセプトで、水素の利用拡大を目指し開発されたというピザ窯だ。
水素を燃やすため、発生する水蒸気によって食材の水分蒸発を抑えたり、ガスを燃やした際などの匂いが出ないために素材本来の風味を楽しむことができるなど、メリットもあるという。

デモンストレーションとして、この水素のピザ窯で焼いたクロワッサンをいただいたが、バターの香りやサクサクの食感がとても楽しめた。


スーパー耐久では、これまでもレースで水素エンジン車両を走らせたり、水素についての特徴を知ってもらうための展示がイベント広場で行われてきた。
だが今回は実際に一般道を走る、調理することができるリアルの姿を見ることができたことで、水素を使用する社会のイメージが少し開けてきているように感じられた。
それは、スーパー耐久のST-Qクラスに参戦する水素エンジン車両で開発されていく技術を、より進化させていきたいという想いがあることは間違いない。

これからも「つかう」が増えることによって、「つくる」「はこぶ」、そして「いれる」がさらに拡大していくことを期待してきたい。

（GAZOO編集部 山崎）