「1週間で半年分の経験」。神戸トヨペットがレースで育むメカニックの技術力とKTMSのブランド力
クルマやバイクを走らせ、その速さを競うモータースポーツ。その中には純粋に勝ち負けを競うプロのレースもあれば、自らステアリングを握り走ることやチームメンバーとして楽しむ参加型のレースというものもある。
その参加型レースの最高峰であり、ここ数年自動車メーカーが未来に向けた開発車両を走らせることで注目を集めるスーパー耐久シリーズ。このレースにはハイレベルな熱き戦いを繰り広げるほぼプロのチームと、仲間が集まり真剣にレースを楽しむアマチュアチームが混在する。
そして参戦するチームの結成の経緯や参戦意図もさまざまであることも魅力で、その中の一つとして自動車販売ディーラーも多く関わっていることも面白いところだ。
自らチームを結成したり、既存のチームにメカニックを派遣するなど参戦の形態は異なるが、メカニックの技術力や社員の士気、自社の認知度の向上などレースに関わる意図に共通点は多い。
そこで、スーパー耐久第3戦が行われたオートポリスで、ディーラーが母体で自らチームを結成し参戦する2チームに、その参戦の意図を取材させていただいた。まず1チーム目は、神戸トヨペット株式会社が運営するチームで、ST-2クラスにGRヤリスで参戦する「KTMS」。
社内のモータースポーツを“社長直轄”で取り仕切る上田昌宏課長にお話を伺った。
レース参戦の目的はメカニックと若手ドライバーの育成
上田課長は、営業本部 技術グループに所属し、普段の業務は店舗では対応できない技術的な事案を解決するスペシャリストとして活躍している。
その一方で、神戸トヨペットとして参戦するスーパー耐久、全日本ラリー選手権、TOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジ、GR86/BRZ Cup、KYOJO CUPと5レースの運営を取り仕切きっている。自ら現地に赴くレースでは、社内メカニックとプロのメカニックの橋渡し役を務めながら、レースエンジニアとしてマシンのセットアップやレース戦略を決める重要な役割も果たしているという。
KTMSと言えば、谷口信輝選手を擁し86/BRZ Raceでチャンピオンを4度も獲得したことを覚えているレースファンも多いかもしれない。その谷口選手との参戦は2022年シーズンをもって終了することとなったが、現在のKTMSのモータースポーツ活動は「若手ドライバーの育成」という方針があり、スーパー耐久やGR86/BRZ Cup、KYOJO CUPでは若手ドライバーを起用している。
そもそも神戸トヨペットがモータースポーツに取り組み始めたのは、自社メカニックの育成の場として活用するためだという。限られた時間とレース特有の緊張感の中でマシンの整備を行い、レース中のトラブル対応など臨機応変な作業と知識が必要となる環境で得られる経験や、プロのメカニックやドライバーとコミュニケーションを取り作業を効果的に進めていくプロセスなどを学ぶ機会と考えているという。
実際にサーキットでマシンをメンテナンスする社員メカニックの方にお話を伺ってみると、その育成の効果をしっかりと感じているようだ。
「普段の店舗にいると勝ち負けという概念がなくて、店舗間の競争はあるもののみんなで協力してお客様にいいサービスを提供しようという感覚です。でもこうした勝ち負けのはっきりする場に来ると、もう一段意識や集中力が上がって結果を残したいという想いが強くなります。自分の意識や作業が洗練されていくような感覚もあります。レースメカニックとして活動するのは1週間という短い期間ですが、店舗で半年~1年間位メカニックとして働くのと同じくらい気持ち的な成長はあるのかなと感じます」
(c)スーパー耐久未来機構
KTMSのメカニックを指名してもらえるようになりたい
こうしたメカニックの育成という面では成果を上げつつあるモータースポーツ活動だが、今後に向けた課題や展望についても上田課長に伺った。
KTMSのモータースポーツ活動は神戸トヨペットが運営するGR Garage宝塚で行うクルマ好きのお客様に向けた取り組みの一つとして、GR Garageのインスタグラム(@grgarage_takarazuka)と公式サイト(https://www.ktms.onl/)にて情報発信を行っている
今後に向けては、そのGR Garage宝塚に来店するお客様に対して「KTMSでレースを経験したメカニックに担当してもらいたいと思ってもらえるような、ファンづくりの活動もしていきたい」という。
「例えば、86であれば86/BRZ Cupの経験を生かして、合法の範囲内でレースを戦えるようなマシンをつくれるということは、お客様をワクワクさせることができると思います。自分のクルマの限界がまだまだ先にあるんだということを実感してもらえるはずです」
またそうした愛車をカスタマイズするお客様以外に向けても、GR Garage宝塚では神戸トヨペットが参戦するレースのパブリックビューイングを実施している。
そしていずれは「一緒にレースを観戦して、みんなで応援するような企画も考えていけたらと思います」とも意気込みを語ってくれた。
神戸トヨペットは、「子どもたちの未来のために走り出そうプロジェクト」と題し、燃料電池車のMIRAIを活用した「MIRAIデザインコンテスト」や、店舗近隣の小学校を訪問して水素に関する出張授業などを行っている。
また地元のプロスポーツチームへのスポンサードをはじめ、神戸マラソンでの車両提供や自治体の主催する防災やエコイベントへのブース出展など、地域に根差した活動を行っている。
いずれはこうした企業としての社会貢献活動の一つとしてもモータースポーツが活用されていくこともあるだろう。
「大変だけどやりがいのある仕事」
KTMSのレース活動に派遣するメカニックの声掛けなどの社内調整、レース団体や協力してもらうレーシングガレージなどとの対外的な調整などは、現状では上田課長が一手に担っているそうだ。
話だけ聞くととても大変に思えることも、上田課長は「大変ですけどやりがいのある仕事ですよね」と笑顔を見せる。
一方でレースモードになるとひと際厳しい表情でチーム全体を見渡し、チームをけん引するリーダーとしての風格がひしひしと感じられる。
神戸トヨペットのモータースポーツ活動に携わり8年が経過しているというが、個人的な夢としては「GT3やGT4のマシンを走らせてみたいですね」と語ってくれた。
GR Garage宝塚、そしてレースを体験したメカニックたちが活躍し、社内におけるモータースポーツ活動の存在感が大きくなっていくことにつれ、自ずと新たな展開が切り開かれていくのではないか、そうお話を伺いながら感じられた。
(文:GAZOO編集部 山崎 写真、スーパー耐久未来機構、TOYOTA GAZOO Racing、GAZOO編集部)
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