TGRR GR Corolla H2 conceptが今年も富士24時間でさまざまな挑戦。液体水素×超電導の新技術も開発中!
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2025年シーズンのS耐初参戦となるTGRR GR Corolla H2 concept
2025年シーズンは5月31日~6月1日にかけて開催される国内随一のお祭りレース「ENEOSスーパー耐久シリーズ2025 Empowered by BRIDGESTONE 第3戦 NAPAC富士24時間レース」。レース観戦とキャンプやさまざまなイベントを楽しめることで年々注目度の高まるこの24時間レースに、今年も水素エンジンを搭載したGRカローラ(TGRR GR Corolla H2 concept)が新たなアップデートとともに参戦する。
2021年に始まった水素を燃料として直接燃焼させる内燃機関「水素エンジン」のプロジェクト。水素の燃焼の早さと応答性の良さを活かし、電動化が進む自動車業界においても『音や振動を含めたクルマを操る楽しさ』を実現するための技術として開発を進めている。
「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」の一環で、開催スケジュールに合わせた短い期間でのアジャイルな開発を進めている。
2021年、2022年は気体による水素が使われ、高圧水素対応の特注インジェクターへの変更、吸気マニホールド内部の流路や吸気バルブ周辺の形状の改良、水素燃焼制御のECUのプログラム刷新、水素燃焼によるNOx抑制のためのエキゾーストマニホールドの改良などを進め、レースでもさまざまなトラブルを乗り越えながら完走を果たしている。
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気体水素では充填するために多くのトラックや機器が必要だった
気体の水素を充填するためは大型の機材が必要となるためピットから離れた駐車場で給水素が行われていたが、2023年からは液体水素にすることでピット内での給水素を可能とするとともに、大幅な充填時間の短縮に取り組んでいる。
また、液体水素は気体に比べて体積エネルギー密度が約1.7倍あること、また真円タンクをスペース効率のいい楕円タンクに変更し容量を大きくすることで、航続距離も大幅に増えることとなった。
| 2021年~2022年 | 2023年 | 2024年 | |
|---|---|---|---|
| 水素 | 気体(2021~22年) | 液体 真円タンク |
液体 楕円タンク |
| 充填時間 | 5分→1分半まで改良 | 1分 | 1分半 |
| タンク容量 | 180 L | 150 L | 220 L |
| 水素量 | 7.3 kg | 10 kg | 15 kg |
| 充填スピード | 2倍 | ||
| 航続ラップ数 | 約12周 | 約20周 | 約30周 |
| 航続距離 | 約54km | 約90km | 約135km |
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水素エンジンのこれまでの開発
水素の燃焼についてはかなり手の内化できてきているというが、液体水素は-253度という超低温で液体状態を保持しなくてはならないことなど、各部品の耐久性の向上、液体を気体に変更して燃焼させるための機構の改善、水素漏れリスク低減のための自動検知・遮断システムの導入などの技術的な挑戦が続いている。
また高橋プレジデントも量産化に向けての課題として挙げているが、さまざまなシステムを搭載しているため非常に車体が重くなってしまっている。これはレースで戦う上でも不利となるために軽量化も課題となっている。
そうしたさまざまな課題に対し挑戦を続けるTOYOTA GAZOO Racingが、5月30日の予選日に今シーズンの技術的な挑戦についての説明会を開催したので、その内容をお届けしよう。
水素エンジンの高出力と低燃費の燃焼切り替え技術
レースでは常に高出力が必要とされるが、市販を前提とした場合は常に高出力である必要はなく、燃料を少なめに噴射することで燃費を良くするための技術に挑戦する。
高出力(=ストイキ燃料)と高燃費(=リーン燃焼)をアクセル操作に合わせて自動で切り替えることで、タイムを落とすことなく航続距離を延ばすための制御を追求していく。
実際に今回のレースにおいてこのリーン燃焼はブレーキング中やセーフティカーラン、FCYなど限られた場面での使用となり、燃費の向上につながることは想定していないという。
ただし、市販車両ではストイキ燃焼に対してリーン燃焼は約2割の燃費向上が見込めるいう
これは水素がガソリンよりも燃えやすいという特徴を生かした制御であり、乗用領域での活躍を目指して開発を進めていくことになる。
新充填バルブにより水素充填速度の向上と小型軽量化を実現
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液体水素の新充填バルブのイメージ
これまで水素充填のバルブ開閉はステーション側と車体側の2つのアクチュエーターにより行われてきていたが、特に車体側に密閉性の課題などがあったという。
そこで、車体側のアクチュエーターを廃止した新たな充填バルブを開発している。
ステーションから伸びるホース内にあり、ホースと車体が接続した際に車体内に入り込んで水素の通り道となる「コールドフィンガー」の動きを活用して車体側のバルブを開閉するように改善している。
新たな内部ピストン構造により流路面積が拡大し、充填スピードが約3割向上、アクチュエーターなどが無くなったことで2kgの軽量化と密閉性と安全性の向上が図られている。
車両軽量化に貢献するワイヤーハーネスの一部アルミ電線化
電力供給や信号伝達などのため車両に張り巡らせている複数の電線を束ねたワイヤーハーネスの一部を銅線からアルミへと変更し、従来の18%の軽量化を行っているという。
アルミ化は端子部などに水がかかることで腐食することが課題だったというが、古河電気工業の「ファイバーレーザー溶接技術」を用いた密閉構造端子を採用することで、量産性とコスト競争力を落とすことなく水の侵入を防ぐことができるようになったという。
レースに参戦するGRカローラでは市販車に比べてハーネスの使用量が少ないため、今回の変更で1.8kgの軽量化に留まるが、市販車両では数kgの軽量化につながる技術という。以前から一部のレクサス車などではアルミ化が採用されたことはあるということたが、より幅広い市販車での採用に向け実証実験が行われる。
超電導モーターのインタンク化で水素搭載量増加へ
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超電導を活用した新型タンクとポンプユニットの解説パネル
そして、富士スピードウェイで行われる最終戦にむけての楽しみな技術的な開発にも挑戦しているという。それは、超電導モーターの導入だ。
これまでタンクの上部にあったモーターとポンプユニットを、小型軽量化し液体水素の燃料タンクの中に入れることで、スペース効率を高めタンクの大きさを増やすことを目指している。
超電導は、金属(電気伝導性物質)などを超低温にすると電気抵抗がゼロになる現象だが、なぜ超電導がいいのか? それは電気抵抗による発熱がないからだという。
空気中にあるモーターは高回転になるほど発熱しそれがモーターの限界となるとともに、部品に対してダメージを与えてしまう。また熱となってエネルギーが逃げてしまうというロスも発生する。
それが超電導では熱の発生がないため、小型のモーターでも高い出力を維持することができるのだ。
超電導といえばリニアモーターカーを思い出す方も多いかもしれないが、超電導には超低温の環境が必要となり、それを作り出すために冷凍機のようなものを搭載している。いっぽうで、このGRカローラでは、-253度の液体水素がその役割を担うことができるため効率のいい技術というわけだ。
まだ開発段階で、これから実際に液体水素の中でモーターを作動させるテストを行うところだというが、2025年の最終戦(富士スピードウェイ)で投入することを目標にしており、
・タンク容量 220L → 300L
・水素搭載量 15kg → 20kg
・航続ラップ数 約30周 → 約40周
と、1充填での周回数の向上を想定している。この1充填で40周というのはガソリンエンジン車と同等、もしくはそれ以上の航続距離を実現する可能性もある。
ただし、超低温下での部品の信頼性など、まだまだ課題も多いという。
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ピットでメディアに解説するGR車両開発部 伊東直昭主査
このGRカローラが参戦するスーパー耐久のST-Qクラス(他のクラスに該当しない、STOが認めた開発車両)は、カーボンニュートラル燃料や次世代の技術に向けた実証が行われている。
ただ、そのどの車両ともに「市販化」もしくは車両に搭載することを前提に開発が進められている。
実際に市販化に向けては、液体水素を燃料として車両に搭載する法律自体がなかったり、液体水素を充填する設備もない。また車両も現状では2名乗車状態だったり重量が重かったりとまだまだ解決しないといけない課題が山積している。
ただ、誰かがやらないと環境も技術も整わないし、実際に量産に向けて一つ一つ課題を解決し続けている。開発者の方々の話を聞いていると、このTOYOTA GAZOO Racingの活動が、未来のクルマ文化の一部になる日が来ることは間違いないと感じられた。
バトルを繰り広げるマシンを観戦したり、それを操るトップクラスのドライバーを応援するのももちろん楽しいが、せっかくであればST-Qクラスに参戦する車両がどのような開発をしているのかを知ることで、未来のクルマについて想いを馳せてみるのも、特に耐久レース向きなのかもしれない。
(GAZOO編集部 山崎)
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