ニュル24時間完走のGRヤリスがS耐へ参戦! “ミッドシップのGRヤリス”の開発で苦戦している2つのポイント
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ニュルブルクリンク24時間レースに参戦したGRヤリスが「TGRR GR Yaris DAT」としてS耐に参戦
2025年7月26日から27日に、大分県のオートポリスで開催されるENEOSスーパー耐久シリーズ2025の第5戦『スーパー耐久レース in オートポリス』。このレースに、先日のニュルブルクリンク24時間で見事完走を果たしたGRヤリスが参戦している。
今年からTOYOTA GAZOO RacingとROOKIE Racingが一体となり『TOYOTA GAZOO ROOKIE Racing(以下TGRR)』としてスーパー耐久のST-Qクラスに参戦している。これは、「モータースポーツ起点のクルマづくりを行うTOYOTA GAZOO Racingと、その車両をカスタマーとして鍛えていくROOKIE Racingを、いずれにも役割を持っている“モリゾウ”を中心として融合させた新しいチーム」だという。
これまで別々の組織として「車両の開発」と「レースで車両を鍛える」というそれぞれの役割を担っていた両者だが、よりクルマづくりのスピードを早めるために一体の組織として生まれ変わったのだ。
そして、この新チームにはもう一つ大切な想いが込められている。「もっといいクルマづくりの原点に立ち返る」というものだ。
それは、2007年にニュルブルクリンク24時間への挑戦を開始した当時の想いに立ち返ることであり、先日実際に、実に6年ぶりとなるニュルブルクリンク24時間への参戦を果たした。
そこに投入したのは、「モータースポーツを起点にしたもっといいクルマづくり」の象徴ともいえる量産スポーツモデルのGRヤリスだ。
スーパー耐久というサーキットレース、そしてWRCや全日本ラリーという過酷な路面で鍛えられてきたGRヤリスが、果たして世界一過酷なレースで通用するのか注目が集まっていた。
結果として、GRヤリスはほぼノートラブルで走行を続け総合52位(134台出走88台完走)で無事に完走を果たしている。
そのニュルブルクリンク24時間で見事に完走を果たしたGRヤリスが、今度はスーパー耐久に参戦することとなった。
予選日に行われたTGRRによるラウンドテーブルで語られたその意図をご紹介していこう。
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TGRR GR Yaris DAT
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GR Yaris DAT Racing Concept
今回のレースには、ニュルブルクリンクを走ったマシンが32号車TGRR GR Yaris DATとして、さらに、104号車のGR Yaris DAT Racing Conceptも参戦しており、ST-Qクラスに2台のGRヤリスがエントリーしている。
両車ともパワートレインは基本的に市販車と同じものを使用し、「MTよりも速いAT」としてすでに搭載されたGRヤリスも販売されている、DAT(ダイレクト・オートマチック・トランスミッション)も同じく搭載している。
それでは、ぞれぞれどのような意図があるのだろうか?
GRヤリスのニュルブルクリンクでの走行は2024年から行われているが、激しいコースの起伏のため最初は普通に走らせるだけでも壊れる箇所もあったという。そこからテストやニュルブルクリンクで開催される耐久レースなどへの参戦を通じて、強度や耐久性を鍛えてきている。
そしてそのニュルブルクリンクで鍛えたGRヤリスをスーパー耐久で走らせる意図の一つは、こうした開発が日本のサーキットでも通用するのかを確認するためだという。実際に乗ったドライバーからはそのままの仕様でも「通用する」というフィードバックを得ることができたそうだ。
一方で、104号車のスーパー耐久で鍛えているGRヤリスに関しても、引き続き日本のサーキットで強い横Gがかかる環境でも気持ちよくハンドリングできるように開発を進めていく。
さらにGAZOO Racingカンパニーの高橋智也プレジデントは、「(こうした仕様違いのGRヤリスを走らせることは)トヨタのマルチパスウェイの考え方と同じだと思っています。GRヤリスという1つのクルマでも、お客様によりいろいろな使われ方、いろいろな道で楽しまれている方がたくさんいらっしゃいます。どの道でも100点のクルマっていう風にはならないので、いろいろなセッティングを試すことで、ニュルのような道や国内のサーキットを走る方それぞれにセッティングやパーツを提案ができると思っています。同じGRヤリスでも走るシーンの選択肢を僕らが広げて、それをお客様にチョイスしていただくっていうことがやりたいことなんです」と、その意図を語っている。
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TGRR GR86 Future FR concept
また、TGRRはもう1台28号車 TGRR GR86 Future FR conceptも走らせている。この車両は第3戦の富士24時間から使用を開始したENEOS製の低炭素ガソリンの開発実証を引き続き行っている。
この低炭素ガソリン(E20)は、化石燃料のガソリンにバイオエタノールを20%混ぜた燃料で、そのエタノールの原料の一部である草本系植物が大気中の二酸化炭素を吸収することから、単に二酸化炭素を排出するだけのガソリンよりも、サイクルとして炭素の排出量が少なくなる燃料だ。
実際に2戦使用しエンジンをバラして確認したうえで、以前のカーボンニュートラル燃料のように、燃焼しきれなかった燃料によるエンジンオイルの希釈などといったトラブルにつながるような要素やエンジン内の異常はないという。
ただし、市販のガソリンよりも発生するエネルギー量が少し劣るため、燃料の使用量が多少多くなることで燃費が悪化するなど、今後の開発の課題もあるという。
いずれは市販化を考えているというが、やはりガソリンと同程度の価格にするにはハードルが高いようで、引き続きENEOSへのフィードバックや共挑の取り組みとしてメーカー間で協力をしながら開発実証を行っていくという。
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GAZOO Racingカンパニーの高橋智也プレジデント
また、このオートポリス戦から走らせると発表され、その後延期となってしまった「GRヤリスMコンセプト」の現状についても高橋プレジデントから説明があった。
「今の状況は、大きく2つ困っている課題があって、一つはやっぱり熱です。エンジンが後ろにあるので、エンジンルームが熱い、風が入らない、冷えないため、エンジンのパワーがなかなか出せていません。熱い空気を吸うとエンジンが出力セーブするモードに入っちゃうんですけど、冷たい風をどうやって取り込んでいくのか、どうやって冷やすのかというようなことに非常に苦戦しています。
あともう一つは、運動性能のところで、もちろん重心がクルマの真ん中にくるので旋回はしやすくなっています。ただそれを、4駆の特色を生かして、前輪、後輪にそれぞれどう動力を与えるのかみたいなところが非常に今苦戦しています。ミッドシップを20年ぶりぐらいにつくるっていうことと、今までトヨタでやったことのないミッドシップかつ4駆っていうところのコントロールが非常に難しいという壁にぶち当たっています」
現状ではどのレースから参戦が可能になるのかなどの言及はなかったが、また一つトヨタらしい挑戦の成果を見られるのを楽しみにしたい。
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GRヤリスMコンセプト
カーボンニュートラルや車両の開発も、すべては「選択肢を広げる」ためであり、お客様が自分の好みによって選ぶことができる環境を用意することが、トヨタが目指していることだとこのラウンドテーブルを通じ終始感じ取ることができた。
それも、スーパー耐久という市販車ベースのレースに、ST-Qクラスという開発車両が参戦できるクラスがあることで、新たな挑戦や技術開発が可能だからに他ならない。
そして、トヨタを始め、スバル、マツダ、ホンダ、日産と各自動車メーカーが、毎戦のように新たな挑戦を繰り広げている。もちろん、その成果が市販車に反映されることは望ましいが、こうした新たな技術開発がどのように新たなクルマの楽しみ方につながるのか、想像するだけでもすでに十分エンターテインメントな気がしてならない。
(文:GAZOO編集部 山崎 写真:トヨタ自動車、GAZOO編集部)
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