私は富下李央菜。目指す高き目標に向けてS耐で研鑽する、19歳の現在地と熱き想い

  • #225 KTMS 富下李央菜選手

    スーパー耐久 ST-2クラス 225号車 KTMS 富下李央菜選

参加型レースの最高峰と言われるスーパー耐久シリーズ。ここには10代から70代までの老若男女がドライバーとして集い、クラス分けがあるとはいえ、同じルールの下で200人前後の選手が競い合う稀に見るスポーツだ。
そこには、もちろんプロドライバーもいれば、「ジェントルマンドライバー」と呼ばれプロドライバーにも迫る速さを見せるアマチュアドライバーから、プロを目指すルーキードライバー、ワンメイクレースなどで経験を積んだ腕自慢など、まさに「人生いろいろ」なドライバーの坩堝だということも、このスーパー耐久の魅力の一つだ。

そんなスーパー耐久に今年から参戦を開始している19歳の女性ドライバーがいる。ST-2クラスのKTMSでAドライバーを務める富下李央菜選手だ。今年高校を卒業したばかりだがすでにレース歴9年で、全日本カートのFP-3クラスでのシリーズランキング2位や、今年3年目となるKYOJO CUPでも、エキシビジョンレースでの優勝や複数回の表彰台に上がるなどの速さも見せる。

ピットウォークなどでチームウェアを着てサインに応じる姿とレーシングスーツを纏いヘルメットの奥に覗く鋭い視線のギャップも魅力な富下選手に、レーシングドライバーを目指したきっかけやスーパー耐久の難しさ、そして将来の目標を伺った。

  • ピットウォークで笑顔を見せる富下李央菜選手
  • ヘルメット越しに真剣な眼差しを見せる富下李央菜選手

まず、レースを始めるきっかけとなったのは、弟さんがレーシングカートに乗っているのを見ていた時に、サーキットのスタッフから「お姉ちゃんも乗ってみない?」と声を掛けられたことからだという。

「お父さんは自分でレースをやっていたわけではなかったんですが、たぶん弟にレーシングドライバーになってほしかったんだと思います。弟がレーシングカートに乗っているのを見ていた時にサーキットのスタッフの方に声を掛けていただいて私も乗ってみたら楽しくて! そこからすぐに自分のカートを買ってもらい毎日のように乗っていました」

小学校4年生の時に人生の大きな分岐点となるカートとの出会いがあり、毎日のようにカートを乗る日々を続けた富下選手は、2019年から全日本カート(FP-Jrクラス)に参戦開始し「中学生の後半にはレーシングドライバーになりたいと思っていました」という。
友達と遊びたい時期でもあっただろうに、「ちょっと忙しいから」と誘いも断っていたというから、そのハマりっぷりが伺える。

そこから、2022年に全日本カートのFP-3クラスでシリーズランキング2位を獲得し、普通運転免許がなくても取得できる「限定Aライセンス」を取得、2023年からKYOJO CUPに参戦を開始した。
そのKYOJO CUPで乗っていたチームであるKTMSからスーパー耐久にも参戦することとなった。

  • #225 KTMS GR YARIS

    スーパー耐久 ST-2クラス 225号車 KTMS GR YARIS

KTMSはST-2クラスでGRヤリスを走らせるが、ST-2クラスは全9クラスある中でちょうど中間あたりの速度域のクラスであり、速いクラスに抜かれながら、遅いクラスのマシンを抜いていく必要がある難しいクラスだ。
富下選手も実際にそこが課題となっているようだ。

「肉体的にはマシンの速さについていけていると思いますが、いいタイムを出すためにはまだ走り方に足りない何かがあります。あとは他のクラスの車を抜きながら走らないといけないので、そこの上手い抜き方とかも、まだ詰められるかなっていうのはあります」

実際に、今回取材を行ったオートポリスは富下選手として初めての走行であり、トラフィックの混み合った周はタイムロスが大きかったという。それはチームメイトとマシンをシェアするスーパー耐久だからこそ、より浮き彫りになってしまうのだ。
それに対し、「悔しいのもあるし、迷惑かけたくないっていうのもあるし、チームメイトの斗輝哉くん(TGR-DCドライバーの鈴木斗輝哉選手。富下選手とは同じ歳)がすごく速いので、彼に追いつきたいなっていう気持ちがすごいあります」と、悔しさを滲ませながらも前を向く。

  • #225 KTMS 富下李央菜選手と上田昌宏エンジニア

    KTMS 富下李央菜選手と上田昌宏エンジニア

KTMSの母体である神戸トヨペットの社員で、チームを統括する上田昌宏エンジニアにも富下選手のお話を聞いてみた。

「最初はあいさつの声が小さかったりもしましたが、今はチームにも馴染んで、自分の言いたいことを伝えたり、積極的にデータを見たりして努力しています。トラフィックの処理とタイヤマネージメントはまだまだ経験を積まないといけないと思いますが、富下選手が目指すところに向けてしっかりとサポートしていきたいですね」

先ほども触れたように今回のオートポリスは富下選手にとって初めての走行だが、スタートドライバーに起用。タイヤにも厳しいコース特性のため、スタートドライバーとタイヤマネージメントという2つの課題を与えている。もちろん信頼がなければスタートドライバーは任せないだろうし、富下選手の成長にとって何が必要なのかを考えている環境が伺えた。

  • オートポリスの最終コーナーを走る#225 KTMS GR YARIS
  • スーパー耐久2025 第3戦オートポリスの表題台

    スーパー耐久2025 第3戦オートポリスの表題台

今シーズンのKTMSは、開幕戦でいきなり勝利を挙げた。第2戦はST-2クラスが参戦休止のクラスとなり、迎えた第3戦の富士24時間は「連続2スティントを走って、これまでのレースの中で一番キツかったですね」と耐久レースならではの経験をした。
第4戦SUGOは3位表彰台、そして第5戦オートポリスでは今シーズン2勝目を挙げ、ランキング2位につける。
今や若手ドライバーのSUPER GTへの登竜門ともなっているスーパー耐久で実績を残すことは、レーシングドライバーとして上を目指すには絶対に必要なことだろう。

最後に富下選手に今後の目標を伺ってみると、「スーパーフォーミュラとSUPER GT(しかもGT500!)に参戦して活躍することです」と明快に答えてくれた。
日本のみならず世界からもトップクラスのドライバーが集う両カテゴリーは、当然レーシングドライバーとしてトップレベルのスキルや体力、集中力、コミュニケーション能力に、狭き門をつかむ運も必要だろう。

ちょっと寡黙で笑顔もはにかみぎみな印象もある富下選手だが、その心の内には熱い想いが宿っている。まだ19歳だが、されど19歳。これから上り詰める頂は相当高く、まだ雲に覆われて見えないかもしれないが、その頂に上り詰めた時にどんな眼差しや笑顔を見せてくれるのか、心から楽しみに待ちたい。

  • 表彰台の上で笑顔を見せる富下李央菜選手
  • スタート直前の富下李央菜選手

(文:GAZOO編集部 山崎 写真:トヨタ自動車、GAZOO編集部)

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