「ザ・センチュリー」という新たなショーファーカーの提案
9月6日、トヨタ自動車はセンチュリーの新モデルを発表しました。ご存知のとおり、SUV風の見た目から、発表前に世間ではセンチュリーSUVと呼ばれ、センチュリー○○のような名前が付くと思われていました。そんな中、発表された車名は「センチュリー」。
そのセンチュリーを初めて見た印象は“ど迫力”。センチュリーセダンの迫力を凌駕したものでした。
そんなVVIP向けのグローバル向けショーファーカー、「ザ・センチュリー」の開発をまとめてきたトヨタMS製品企画の田中義和主査に、この新たなショーファーカーにかける想いを伺いました。
――このセンチュリーはなんと呼べばよいのですか?
セダンのセンチュリーと今回のセンチュリーと合わせて鳳凰の両翼になります。呼称はあえて言うなら、従来のセンチュリーは「センチュリーセダン」、新型は「ザ・センチュリー」ですから、「センチュリー」と呼んでいただければと思います。
世間ではSUVセンチュリーと言われてきましたが、我々はお客様のニーズを形にしたらこの形になっただけです。SUVとして開発していませんし、荷室は狭く、荷室とキャビンをガラスのパーテーションで区切っていますのでSUVではありません。
昔の皇室の車にも、このような形の車があり、そのクルマも荷室とお客さまのスペースが分かれていました。
――田中主査といえばFCEVですが燃料電池車の予定はありますか?
VVIP向けに提供できる車は限られています。仮にパワートレーンが燃料電池だとしたら、水素ステーションがある地域、国の人しか選ぶことができません。そうなると、VVIPの方に移動の制約をあたえてしまうと考えております。
また、最近のBEVであれば十分な航続可能距離があるのではないか、と言われる方もいると思います。
しかしながら、VVIPが東京-大阪間を車で移動しなければならず、道中で急速充電が必要な状況になった場合に、EVステーションが埋まっていて1時間待ち、となる可能性もあります。私のような一般人であればそれもありなのかもしれませんが、VVIPの方にお待ち頂くことはできません。
そのため、ショーファーカーにおいてPHEVは理にかなっていて、カーボンニュートラルの観点でもHEVより優れています。ショーファーカーではPHEVが最適だと考えています。
――新モデル「ザ・センチュリー」開発のきっかけを教えてください
このクルマのターゲットである若い次世代を担うグローバルリーダーは、アルファードのような広い車のショーファーカーに既にお乗りになっています。そして、センチュリーセダンを、自分の親世代の社長さんが乗る車、と思われている若いリーダーの方が多くいらっしゃいます。
例えば豊田章男会長は、「センチュリーセダンは父の故・豊田章一郎名誉会長の車」というイメージがあるそうで、「本来、自分が乗る車でない」と言っております。
そのため、このような人にもセンチュリーを選んで欲しい、そのような人に最適なセンチュリーが必要だ、という問題意識がありました。また、章男社長(当時)には、「センチュリーを新しい形にして欲しい」とリクエストをいただいておりました。
――海外高級車メーカーのショーファーカーはどうですか?
実際そのようなショーファーカーにベンチマークで乗ったこともあります。でもその車は、後席をリクライニングすると座面が動くので足元が狭くなるんです。ロングホイールベースのショーファーカー、つまり大きなサイズのショーファーカーは殆どないと思います。
少し話が逸れますが、クルマの中が広いショーファーカーというのは、トヨタがアルファード、ヴェルファイアというミニバンで、大きなマーケットを開いたと思っています。ですから、このような車を持っているのは、このクルマを開発するうえでの大きな要素でした。
まず、レッグスペース、ヘッドクリアランスをミニバンのように確保できるか、というのが重要です。このクルマのヘッドクリアランスはトヨタのグランエース、レッグスペースはヴェルファイア Executive Loungeの2列目とほぼ同じです。これだけのスペースをもつショーファーカーは無いと思います。
また後席のシートバックは、左右とも座面は動かずに53度のリクライニングを実現しています。レクサスLSは48度です。ちなみに、このような車では、助手席側しかリラックスできないクルマが多いです。
――TNGAでは無いようですし、一からの開発はご苦労が多かったのでは?
これだけ大きい車はねじりに弱く、ボディー剛性も弱いので乗り心地が悪い。そして荷室とキャビンが分かれていないとNVも悪く、お客様が抱いているセンチュリーではなくなります。
SUVであれば良いのかもしれませんが、それをセンチュリーセダンと同じレベルに造り上げ、センチュリーという名に相応しい車を成立させるのに苦労しました。
GA-Kプラットフォームを利用してはいますが、このサイズのクルマを実現するためにボディーの骨格構造をこのクルマ専用に作りました。そのためセダンと同じボディー構造となっており、センチュリーセダンの静粛性、剛性と同等レベルになっています。
もちろんボディー接着材、スポット、その他にもパーテーションパネルの骨格構造化、補強のために横のブレースを通したりV字型ブレースを付けたり、サスペンションの取り付け剛性アップなど、ありとあらゆる手を尽くしました。
その結果、センチュリーに相応しい静粛性や乗り心地だけでなく、自分で運転してもリアの手ごたえなどをしっかり感じられるクルマに作り込みました。
(編集部員の所感)
超高級車のロールス・ロイス カリナンやベントレー ベンテイガは、ホームページにSUVと書かれています。そう考えるとVVIPのショーファーカーは、まだセダンが一般的なのでしょう。
そのような中、新センチュリーは次世代VVIP向けに新たな形のショーファーカーを提案したのだと思います。つまり、ライバルが存在しない唯一無二のクルマなのです。TPOが重要なVVIPに、この唯一無二のクルマはどのように映ったのか気になるところですが、私には知る由もありません。
(GAZOO編集部 岡本)
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