70万円のオプションパーツも!? センチュリーに脈々と受け継がれる匠の技とおもてなしの心

  • トヨタ・センチュリー

2023年9月6日に、トヨタが新たなセンチュリーを発表し大きな話題となっている。これまでの伝統的なセダンスタイルである3代目も引き続き生産、併売されていくが、この新たなセンチュリーは「『The Chauffeur』というコンセプトのもと、お客様のご期待を超えたおもてなしをお届けしていくため」に誕生した、最上級ショーファーカーだ。

一見するとSUVのようにも見受けられるが、「ショーファーカーに対するニーズが多様化」してきていることに対して、培ってきた品格や静粛性、乗り心地は継承しながら、新たな時代のお客様の期待に応えていくための“新しいタイプ”のスタイルを纏うこととなった。

この新たなセンチュリーは全高が1,805mmで、セダンの1,505mmよりも300mmも高くなっている。しかし、セダンと同等レベルの静粛性や乗り心地となるよう、あらゆる面が見直され、リヤサスペンション取り付け部に結合する「ラゲージルームセパレーター骨格」をはじめとする新たなボディ構造を採用している。

しかし、1967年から受け継がれるセンチュリーとしての品格はしっかりと受け継がれている。そこには通常の自動車の生産ラインでは考えられないような、匠たちによるきめ細やかな作業の数々と情熱が注ぎ込まれている。
その匠の技術の一部がセンチュリーの発表会場で展示され垣間見ることができたのでお届けしよう。

制作期間1か月半! 肉眼では見えない模様が刻まれるエンブレムの金型

  • トヨタ・センチュリーのフロントグリルの鳳凰のエンブレム

    トヨタ・センチュリーのフロントグリルの鳳凰のエンブレム

センチュリーのエンブレムは、伝統的に匠の手作業による金型により作られている。その金型の成形期間は実に1か月半で、目に見えない細かな模様が無数に刻まれている。

その表面を顕微鏡を使って見せていただいたが、ものすごく細かい模様が刻まれている。実際に匠も顕微鏡をのぞきながら作業を進めていくというが、その刻むための工具もさまざまなものが用意され、その先の細さにも驚かされる。
さらに、羽の外側や尾の部分も紙やすりで研磨され、隅々まで丁寧に仕上げられるという。

その金型により成型されるエンブレムは、表面はポリカーボネート、裏面はABSと、いわゆるプラスチックで作られている。特にフロントグリルのエンブレムにはミリ波レーダーが埋め込まれており、センチュリーのシンボルであるとともに、安心安全のための重要な役割を果たしているのだ。

前後4か所でなんと70万円也! 匠による柾目のスカッフプレート

  • センチュリー鳳凰の柾目のスカッフプレート

    センチュリーしかできない匠の技術が存分に生かされたスカッフプレート。4枚1セットで70万円!

ドアを開けると見えるサイドシルを保護するためのスカッフプレート。このスカッフプレートはクルマの乗降りの際に目に入ることで、ロゴ付きのオプションパーツが用意されている車種も多い。
このスカッフプレートにも、センチュリーらしい特別仕様がオプションで用意されている。

そのオプションのスカッフプレートは、「柾目(まさめ)」という木を縦に切った時の模様のような跡が無数につけられている。こちらの跡は前席用で5,000打、後席用で7.000打も打たれているという。
この跡は特別な工具で一つ一つ打っていくわけだが、ただ打てばいいというものではないという。鉄板はハンマーで叩くたびに歪んでいってしまうため平面を保たせながら、かつ光の乱反射できれいに見えるような深さに叩いて跡をつけていく必要がある。
さらに工具の先にはミクロのギザギザがついていて、それをこの細さで打ち付けていくことは、機械にはできない、匠の技というわけだ。

非常に集中力を必要とする作業とのことで、一人の匠が1日2枚まで、1台分を制作するのに2日間もかかるという。
そしてそのお値段が、前後左右4枚で、なんと70万円! まさにおもてなしを極めたオプションパーツだ。

ちなみにこのスカッフプレートは、鉄板を叩いて試作車を作ることを代々受け継ぐ部署で造られる。下の写真の鉄板でできたグローブは技術の伝承をするために、先輩と後輩が組んで制作された作品だという。
こうした技術の伝承がセンチュリーの生産には欠かせないものであり、その受継がれる技術こそがセンチュリーの品格を作り出しているのだろう。

研磨に懸ける情熱! 鏡のような究極のボディやバンパーを目指して

  • トヨタ・センチュリー

センチュリーのボディカラーには「白鶴」「黎明」「麟鳳」などと和名が与えられ、それは単に色を表すだけでなく、塗装における品格と技術力の高さを内包している。

通常、自動車の塗装は3層、高級車になると4層のベースやクリアの塗装が施されている。一方でセンチュリーは実に7層もの塗装が施されている。
実はその塗装に加えて、途中で水研磨を3回挟むことで、通常の塗装ではありえないほどの表面のスムーズさを出すことが可能になっているという。

水研磨というはその名の通り水をかけながら研磨をすることだが、水の力を借りることで普通に研磨をするよりも粗い番手のサンドペーパーを使うこともでき、研磨の効率もいいという。
そして最終的に鏡面磨きを合わせると計11工程が塗装にかけられ、これほどまでに手の込んだ塗装は他にはほぼ例がないだろうとうことだ。

表面上は同じように見えても実際に光を当ててみるとその違いがよく分かる。ご覧のように線状の光を当てるとほぼきれいに光が直線状に映っているが、通常の塗装であれば光のふちが「ゆず肌」と呼ばれる凸凹と波打っているように見えるという。

これはセダンのセンチュリーでも行われている工程ではあるが、特に新たなセンチュリーはボディサイズが大きくなったことで映り込む範囲も大きくなるため、それを見越した仕上げが行われているという。

そして、パンパ―などの樹脂パーツについても、こだわり抜いた鏡面仕上げが行われている。
通常の出荷品質で造られたバンパーを、あえて3ステップで削り鏡面仕上げをすることで表面をよりスムーズにしていくという。
またセダンとは異なりパンバーに面があるため、その面の折り目をあえて避けながら削り仕上げるという手間をかけている。

前後のバンパーを合わせて1台当たり9時間ほどをかけて仕上げられているという。

ボディではネクタイを締めたり身だしなみのチェックをすることもできるし、バンパーでは足元のチェックもできるようにという、おもてなしや細やかな気遣いがそこにあるのだ。

お届けしたのは、発表会の会場で説明いただけた内容のみであり、その他にも多数の匠によるこだわりと魂が込められてセンチュリーは造られている。

ボディのタイプは大きく変わったが、唯一無二の「おもてなしの心」を備えた日本を代表するショーファーカーの伝統は確実に受け継がれているのを感じていただけただろうか。

この新たなセンチュリーは海外展開もされ、国内外問わずさまざまなフルオーダーを受け付けていくとのことで、日本のおもてなしの心が海外のエグゼクティブたちの心を掴むことを期待したい。

(文:GAZOO編集部 山崎 写真:GAZOO編集部)

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