実は世界共通の問題! 野生動物との交通事故を世界規模で考える会議について聞いてみた

2018年9月、オランダでInfra Eco Network Europe (以下、IENE・アイイーナ)の国際会議が行われました。IENEとは交通と自然の調和を目指す世界的な専門家のネットワーク。世界中のさまざまな立場の人たちが交通と自然にまつわる情報を共有、地球規模での現在・未来の在り方を考える場でもあります。

IENEの成り立ちから、オランダでの会議の様子について、2010年より日本からIENEの国際会議に参加している一般社団法人 北海道開発技術センター 野呂美紗子さんに聞きました。

日本だけじゃない。野生動物と交通の問題は世界共通!

――IENEはどのようないきさつから設立されたのでしょうか?

ヨーロッパでは、国土の徹底した開発により動物・自然環境と人間のインフラとの不具合が起きていました。中でも問題となったのは、動物たちが生息する場所を道路や列車などが大きく横切り、行き来をできなくしてしまう分断化です。

日本でも、道路や鉄道を横切る動物のロードキルなど、野生生物と交通の問題はよく話題になっていますよね。それは、ヨーロッパをはじめとする世界各国でも同じように問題となっているのです。

そのため、分断化による自然への影響と対策を話し合い、情報の積極的な交換が行われる世界規模のネットワークを形成することを目的として、IENEは1996年オランダ運輸公共事業水道省の道路・水理工学部門の呼びかけで発足しました。日本は2010年のハンガリーで開催された国際会議から参加しています。

動物が大きな自動車道を横断するための橋や脱出ダクトを見学!

――IENEの国際会議ではどのようなことが行われるのですか?

昨年2018年の国際会議は、オランダのアイントホーフェン市の国際会議場Evoluon(エフォリュオン)をメインの会場として、9月10日から14日までの5日間で行われました。参加者数は38ヶ国から323名。集まったエコインフラに関わる人たちの所属先は政府機関やNGO組織、研究機関、大学、土木などをはじめとする各企業とさまざまです。

日本から参加のメンバー。会議場内で竹馬のパフォーマーとともに
日本から参加のメンバー。会議場内で竹馬のパフォーマーとともに

会期のうち3日間は基調講演、口頭発表、ポスター発表、ワークショップなどが行われ、1日フィールドツアーの日があります。

会議で発表されたオランダの全国分断化解消プログラムの資料の一部。動物用横断施設の模式図
会議で発表されたオランダの全国分断化解消プログラムの資料の一部。動物用横断施設の模式図

私たちは「Why do the deer jump out suddenly?(なぜ、シカは突然飛び出すのか)」というテーマでポスター発表を行いました。

ポスター発表で掲示されたポスター
ポスター発表で掲示されたポスター

IENEは、情報を共有したり、人と人とのつながりをつくったりすることが目的。そのため発表のポスターが貼ってある場所のそばに、気軽に話し合いをはじめられるような談話コーナーもありました。

ポスター会場の様子
ポスター会場の様子

また、初対面であっても、気軽にアポイントを取りやすいようネットワークアプリの用意もありました。

ネットワークアプリの画面。多数の参加者の中から、興味のあるテーマを持つ人と効率よくコンタクトを取ることができる
ネットワークアプリの画面。多数の参加者の中から、興味のあるテーマを持つ人と効率よくコンタクトを取ることができる

――フィールドツアーとはどのようなものですか?

生物を守るために設置されている施設を実際に現地に行って視察をするというもので、私たちも参加しました。

フィールドツアーではエコダクトの周辺を歩いて見学
フィールドツアーではエコダクトの周辺を歩いて見学

オランダとベルギーの国境付近には、エコダクトという、さまざまな生物が大きな自動車道路を渡るための橋があり、そこを渡る動物たちの生態に合わせて工夫されています。ここのエコダクトは、長さが58m頂点の部分の幅は60mもある巨大なものでした。建設費用や設置・維持管理に関して両国で協議を重ね、しっかり連携しているところも評価されています。

また、オランダ国内に多く整備されている運河にある、動物が脱出するための施設も見学しました。運河を横断しようとしたノロジカやイノシシが溺れてしまうのを防ぐためのスロープで、63㎞の区間に98ヶ所も設置されているとのことでした。

運河を進む貨物船
運河を進む貨物船
動物たちが登ってこられるよう運河に設置されたスロープ
動物たちが登ってこられるよう運河に設置されたスロープ

生活がままならないほどの危機感!? 日本と世界各国の意外な違い

――国際会議に参加する中で、日本と世界各国で、問題に対して捉え方の違いは感じますか?

基本的に人間の道路や鉄道や運河などのインフラによって、野生生物に及ぼす影響や起きている問題はほぼ同じだと思います。ただ、対する姿勢がヨーロッパと日本では根本から違っているように感じました。

ヨーロッパでは国土のほぼすべてを開発しつくして、それによって自然環境や動物との不具合が起き、その対策としてヨーロッパ全体でエコインフラの取り組みを進めてきた、という背景があります。環境を守らなければ、人間の生活もままならなくなるという危機感があったのですね。

それに比べると、日本は開発が進んでいるといっても、国土の約7割が森林(そのうち5割は天然林)であり、開発自体、都市部に集中しています。それもあり、エコインフラを考える出発点が、動物との交通事故問題の解決のためであったり、生物の保全対策にしても特定の対象とする種の保全が中心であったりします。ですから、生物全体の分断化対策を行うという視点は少ないと思います。例えば、この辺りではシカがクルマにぶつかるから何か対策をしよう……というようにピンポイントで考えていくといった具合です。

北米の考え方は、日本に近いと思います。

また、最近ではアジア各国で急激に開発が進み、道路の建設が急ピッチで進められています。そのため、ヨーロッパやアメリカの専門家が訪れて、エコインフラの指導も行われています。ただ、ヨーロッパとアジアでは自然環境が違うので、やり方をそのまま導入してもしっくりこないところもあるようです。そこで今後は、私たち日本の知見も共有していけたらいいなと思っています。

どうつながるか、どう広げるか……エコインフラのこれから

――今後どのようにIENEで得たものを活かしていくのでしょうか。

ヨーロッパでの取り組みで素晴らしいと思うのは、それぞれの国で国土の全体の状況を把握したうえで対策を考えていくところ。また、その計画を進めていくために、国の省庁、州の管理者、NGO、研究機関、大学など、さまざまな立場や分野の人たちがひとつのチームを作っていきます。今の日本ではなかなか難しいところですが、専門性が違う人同士で進めることで、いろいろな考え方を合わせていくことができるのです。そういう進め方を取り入れていけたらいいと思っています。

一方で、施設などの技術面では日本が上回っているところも多々あるので、世界に紹介していきたいですね。考え方と技術が融合すればさらによいシステムが生まれていくのではないでしょうか。

今後もそのために、いろいろな人とのネットワークを広げていきたいです。人間の生活と動物たちの生活。そのどちらも大切にしながら、折り合いをつけて、ともに同じ大地に暮らすイキモノとして、幸せな未来に近づけたらいいなと思っています。

 

人間と野生動物との問題は世界共通のものだということがわかりました。今後も世界中とつながり、人間と動物や環境とがバランスよく共存していくための活発な活動を続けていってほしいと思うとともに、クルマを運転する私たち1人1人ができることも考えていきたいですね。

(取材・文:わたなべひろみ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)

<取材協力>
「野生生物と交通」研究発表会 事務局
http://www.wildlife-traffic.jp/

<参考URL>
IENE2018
https://www.iene2018.info/

[ガズー編集部]

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