【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#11

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

2nd ミキ、2000GTで走る。
#11 花見ドライブ

わたしは真由子と2人、2000GTで皇居の周りをドライブしていた。
​ 満開の時期は少しだけ過ぎてしまったけど、わたしは散り桜もいいと思う。ここは毎年春になると必ず通るルートだ。真由子とも何度も来たことがある。
「正直、わたしは遊ばれた感じだったし、ミキが告白されたって聞いて、悔しい思いもちょっとあって、複雑だった」
わたしは何も知らずに、真由子に河口純の話をしていたのだ。
「そりゃあ、そうだよね。ごめん」
「しょうがないけどね。あんたは知らなかったんだから」
「まったく、あいつめ……」
純も純だ。なにか言ってくれてもいいのに。
「でもさ、向こうから告白してきて、なんでふられたの? おかしくない?」
そうだよねと、同意する。
「実はね、父親の方に別れてくれって言われたの」
「え、なにそれ?」
真由子は意味がわからないという様子だ。わたしだってあまりよくわかっていない。
「交際相手の親から断られるって、いまどき、あまり聞かない話だよね」
竹橋からお濠の中に入って、いったんエンジンを切った。
「もう早くあいつのことは忘れたいけど、我が家と深い関わりのある家だから、そうもいかなくて、嫌になっちゃうよ」
「ミキは子どもの頃から、あの家の人にかわいがってもらっていたから、親心で息子とは一緒にさせられないってことなのかな……」
それはわたしも考えた。
少しドキドキしながら、真由子に呼びかけた。
「どうでもいいけどね。でも、わたしたちは、ずっと友達だよね?」
「当たり前でしょ、なに言っているのよ」
いつもの真由子の笑顔だったので、わたしは胸をなでおろした。
「あ、じゃあさじゃあさ、ちょっと相談なんだけど」
「なあに?」
「もしさ、フィリピン旅行に付き合ってと言ったら、一緒に行ってくれる?」
「いいよ! なに、セブ島?」
「マニラと、エルニド」
少し間が空いた。
「エルニドって、ミキのお父さんがいなくなったところだよね」
真由子の顔が曇った。
「あ、もしかしたらって話ね」
「次の夏休みとか? 日程次第で行けるから、また相談して」
「わかった」
相談してみたものの、真由子に付き添ってもらうのは、よくないような気もした。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]