トヨタ エスクァイア VS 日産 セレナ ハイウェイスター 比較レポート
Mクラスミニバンに第3の波現る
2014年1月20日に6年半ぶりとなる待望のフルモデルチェンジを行い、その後はヒット街道まっしぐらのMクラスミニバンであるトヨタ ヴォクシー/ノア。そしてコンポーネントを共用しつつも、さらなる高級感と上質さをまとった“第3の波”と期待されるのが2014年10月29日に登場したエスクァイアである。
発売後、約1カ月で月販目標の5倍以上となる約2万2000台を受注するなど絶好調のエスクァイアだが、ライバルたちもそのまま手をこまねいているわけではない。今回あらためて、ライバルとなるホンダ ステップワゴンと日産 セレナを持ち出し、エスクァイアとの比較を行ってみた。
ミニバンといえば、やはり多人数乗車によるライフスタイルに合わせたフレキシブルな使い方が魅力だ。昨今では“ゆったりと乗りたい派”のための2列目キャプテンシート仕様が注目を集めているが、多彩なシートアレンジを持ち8人乗車が可能なモデルも根強い人気をキープしている。
今回は、エスクァイアのガソリンエンジン仕様とこのクラスで2011年から3年連続ミニバン販売台数No.1の日産 セレナ、それぞれの8人乗り仕様を取り上げ比較した。
ともに独自の上質感を演出
「人形は顔が命」は某有名人形店のキャッチコピーだが、クルマだって同様である。まず、いやでも目に飛び込んでくるのはエクステリア、もっと言えばフロントまわりの造形だ。
エスクァイアが、先行して販売されているヴォクシー/ノアをベースに生まれたことは今さら説明不要だろうが、何よりも、それまでこのクラスのモデルをラインアップできなかったトヨタ店とトヨペット店への強力な販売援護車種としても注目されている。クラウンやランドクルーザーなど同社の中でも高級車を扱うトヨタ店とマークXやアルファードを持つトヨペット店にとってこのクラスはいわば“空席”。単純にその部分を補うというだけではなく、両チャンネルの上級志向の顧客にしっかりと対応できなければならないわけだ。
遠目から見て大きな「T字」の面構えは迫力も十分。トヨペット店などの場合は「アルファードまではいかなくても使い勝手にも優れ、価格もリーズナブル、でも所有している喜びは得たい」というカスタマーにもドンズバでハマっているという声も聞く。
一方のセレナだが、ヴォクシー/ノアがフルモデルチェンジすることを(当然)事前に察知し、2013年12月25日にマイナーチェンジを実施している。それもバンパー/ボンネットフード/フェンダー/ヘッドランプのデザインまで変更するというまさに「ビッグマイナーチェンジ」。さらに言えば人気のハイウェイスターはアルミホイールやサイドシルプロテクター、LEDリヤコンビネーションまで変更するという気合の入れようだ。
それだけトヨタのMクラスミニバンのフルモデルチェンジに脅威を感じていたわけだが、さすがに開発費をかけただけの仕上がりにはなっている。わかりやすく言えば、セレナも上位車種にあたるエルグランドに近いテイストに仕上げることで全体の高級感をアップすることに成功しているのだ。
商売として考えるとトヨタが3種類の“個性”で勝負してきているのに対し、セレナはハイウェイスターとベースモデルのみで対抗しなければならないのは少々分が悪い。それでもエスクァイアほどではないが上質感の向上という点ではまずまずうまくまとめている。
色あせないセレナのメーター
洗練さと上質感をテーマに開発したエスクァイアのインテリアまわりは確かに狙い通りの仕上がりである。それでも、セレナが古くなったかというとそうでもない。その大きな理由はマルチグラフィックアッパーメーターと呼ばれるデジタルスピードメーターを中心とした表示部による部分が大きい。
エスクァイアの場合はインパネ中央、ナビスペース上部に4.2インチのTFT液晶を使ったマルチインフォメーションディスプレイを搭載しているが、セレナの場合はそれらの機能、特にECO状態などもこのメーター内で確認することができる。使用上は何の問題もないエスクァイアのメーターだが、それでも左方向への視線移動は発生する。その点でも機能を1カ所に集約したセレナのメーターはまだまだ新鮮だ。
一方、乗降性に関しては低床化を行ったエスクァイアに軍配が上がる。地面から720mmのヒップポイントを持つエスクァイアに対し、セレナは760mm。この40mmの差は、体形にもよるが、スッと乗り込める感覚のエスクァイアに対し「よっこらしょ」と斜め上に乗り込む感覚のセレナとはだいぶ異なる。また前方側面を確認する三角窓も、セレナの場合は縦に長く横に狭いので死角は多めである。このあたり、ビッグマイナーチェンジの限界なのかもしれない。
要望したいサードシートのヘッドレスト
8人乗りが可能な両車だが、どちらも多彩なシートアレンジが可能である。7人乗りのフレキシブルなシートが注目されがちなエスクァイアだが、8人乗り仕様の2列目シートのスライド量は580mm、さらにシート自体がチップアップするのでこの状態でサードシートを跳ね上げれば後席すべてを荷室として利用可能。自転車も前輪を外さずに2台積むことができる。
セレナも負けてはいない。特に、スマートマルチセンターシートと呼ばれる2列目の中央部分がアイデアものだ。この部分は1列目から2列目までの間を移動することができ、1列目に移動させれば大型のアームレストになり、同時に2列目の開いたスペースは3列目にウォークスルーするための通路となる。またこの状態であれば2列目シートの左側を横方向にスライドさせることができるので、たとえば2列目にチャイルドシートを取り付けたままでも3列目へのアクセスが可能になる。
さらに上位系グレードには2列目のヘッドレストレイントの両端を前に倒すことで頭部をサポートしてくれるリラックスヘッドレストも搭載している。
こう書くと8人乗り仕様ではセレナのユニークな機能が目立つのだが、それでもセレナには満点をあげることができない点がひとつだけある。それがサードシート中央にヘッドレストレイントの設定がないことだ。8人乗りとはいっても、3列目の真ん中に座るケースは正直少ないだろう。しかし安全は何よりも優先させるべきだ。その点でもエスクァイアにはあってセレナにないものを比較した場合、これだけは改善してほしいのである。
ガソリンエンジン車でも十分静か
エスクァイアの場合、ヴォクシー/ノアのようなエアログレードがラインアップされていないこともあり、外観上の違いは比較的少ない。ハイブリッド車の場合はこれに「静粛性の高さと低燃費」という要素が加わるわけだが、ガソリン仕様車も侮れない実力の持ち主だった。
従来から搭載されているバルブマチック機構の改良や圧縮比の向上、さらにCVTのワイドレンジ化なども手伝って、出だしから非常になめらかな加速が味わえる。低中速域のトルクもフラットとまではいえないが、特に高回転まで回さなくても十分な加速が得られる。また高速道路を走っていても1列目と3列目で普通に会話ができるほど静粛性が高いことには驚かされる。
サードシートに座ってわかったのは、高速道路などでのレーンチェンジ時にも不快な揺れが少ないこと。全長&ホイールベースの長いミニバンの場合、レーンチェンジを行った際にワンテンポ遅れたようなボディの揺れを感じることがある。それが結果として不快に繋がるのだが、エスクァイアの場合、サスペンションのセッティングや新プラットフォームの効果なのだろう、この応答遅れが少ない。前述した静粛性の高さとも相まってどのシートでも快適な空間が堪能できるのである。
一方のセレナも実力は高い。エスクァイアには及ばないが、特に静粛性の面では高速走行時も快適である。ハンドリングに関しても、ステアリングまわりの剛性がかなり高いのでしっかりとした操舵(そうだ)感が得られる。
期待したい先進安全技術の早期搭載
結果として「うわさ」で終わってしまったのだが、今回のエスクァイアには発売時に「追突被害軽減ブレーキ」などに代表される先進安全装備が搭載されるという情報があった。すでにトヨタはこの先進安全技術に関して2014年11月26日に「Toyota Safety Sense」と呼ばれる予防安全パッケージを発表しているが、2種類用意されるこの安全装備がどのクルマにいつ搭載されるかはこの原稿の執筆段階では未定である。
ゆえにエスクァイアにもどちらが搭載されるか適当な予想は避けたいところだが、いずれにせよすでにセレナには「エマージェンシーブレーキ」と「LDW(車線逸脱警報)」を20Sを除く全グレードに標準装備しているし、フルモデルチェンジされるであろうステップワゴンにもホンダがすでに発表済みの「Honda SENSING」が搭載されるはずだ。いいものは最後まで出し惜しみ、というわけではないだろうが、一刻も早くこの手の安全技術は標準装備してくれることを期待したい。
またハイブリッド車に関しても、4WD車の設定がないことが他社が製品化している点からも後手に回っている。トヨタの場合、現状でハイブリッドの4WD車となれば「E-Four」という独立型リヤモーター式になるが、これはコスト面で高くつく。既存のドライブシャフトを介した4WD機構にハイブリッドを組み合わせたものがラインアップされれば、エスクァイアをはじめとするトヨタのMクラスミニバンのビジネスは完璧なものになるはずだ。
(text:高山正寛/photo:田村 弥)
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