トヨタ エスクァイア VS ホンダ ステップワゴン スパーダ 比較レポート

Mクラスミニバンに第3の波現る

2014年1月20日に6年半ぶりとなる待望のフルモデルチェンジを行い、その後はヒット街道まっしぐらのMクラスミニバンであるトヨタ ヴォクシー/ノア。そしてコンポーネントを共用しつつも、さらなる高級感と上質さをまとった“第3の波”と期待されるのが2014年10月29日に登場したエスクァイアである。

発売後、約1カ月で月販目標の5倍以上となる約2万2000台を受注するなど絶好調のエスクァイアだが、ライバルたちもそのまま手をこまねいているわけではない。今回あらためて、ライバルとなるホンダ ステップワゴンと日産 セレナを持ち出し、エスクァイアとの比較を行ってみた。

新たに登場したエスクァイアだが、実は姉妹車となるヴォクシー/ノアに設定されているエアログレードがない。より高級路線を狙ったこともあり、全グレード全幅1695mmの5ナンバーサイズ、さらにハイブリッドモデルは全グレード7人乗りとなる。ここでは、同じ7人乗り仕様を設定するホンダのステップワゴンスパーダと比較した。

インパクト十分のフロントマスク

ヴォクシー/ノアが発売された時、その中でもエアログレードの迫力あるフロントマスクが瞬く間に支持されたのは記憶に新しい。一方、エスクァイアは、前2台とはまったく異なる路線で勝負してきた点が新鮮だ。それを最も顕著に表しているのがフロントグリルだろう。

エスクァイアが狙う“高い車格感”を実現するには、押し出しの強いグリルが絶対に必要となる。しかしエスクァイアは5ナンバーという全幅の寸法制限があることから、ただ大きくすればいいというわけにはいかない。そこで行ったのが縦型のグリルの幅とその間隔を微妙に変えるという手法だ。

パッと見ではわかりづらい部分だが、少しクルマから離れて見ると中央部は太く、サイド部に向かって細くなっていることがわかる。これによって視覚的に中央部が前にせり出したような、独特の力強い造形を生み出すことに成功したわけだ。実際、ルームミラー越しに後方から迫るエスクァイアの姿は、とても5ナンバー車に見えない迫力がある。また車両サイドに回ると横一線に配置されたステンレス製のベルトモールが上質感の演出に一役買っていることもわかる。

一方のステップワゴンだが、2012年に全体の意匠を大きく変更。スパーダの個性をさらに強調するフロントグリルやバンパーの形状なども今もって新鮮である。グリルの中にLEDのアクセサリーランプを組み込んだ手法は昨今では軽自動車でも採用されているが、ステップワゴンは比較的早く導入しており、その点では“先見の明(めい)”があったといえるだろう。

スポーティな雰囲気が欲しければステップワゴンという選択は十分にあるが、エスクァイアのMクラスミニバンとは思えない押し出しの強さはまさに新潮流。最終的には好みの問題とはいえ、比べるならエスクァイアに軍配を上げたくなる。

  • トヨタ エスクァイア HYBRID Gi
    T字型の迫力ある巨大なフロントグリルが特徴。縦ピッチを微妙に変化させ、立体的に見せる工夫がなされている。
  • ホンダ ステップワゴン スパーダZ
    マイナーチェンジを機に、グリルやバンパーの形状が新たなものに。メッキパーツの占める割合もアップした。
  • トヨタ エスクァイア HYBRID Gi
    ガーニッシュの下の部分まで黒くしたことにより、窓の比率がヴォクシー/ノアよりも大きく見える。
  • ホンダ ステップワゴン スパーダZ
    リヤのコンビネーションランプやハイマウントストップランプには、LEDが採用されている。
  • トヨタ エスクァイア HYBRID Gi
    ベルトモールにステンレス素材を使い、ドアハンドルにメッキ加飾を施して高級感を表現した。
  • ホンダ ステップワゴン スパーダZ
    全長は、エスクァイア(4695mm)とほぼ変わらない4690mm。ホイールベースも5mm違いの2855mm(エスクァイアは2850mm)となっている。

前席の乗降性はいい勝負

両車とも全幅1695mmの5ナンバーサイズとはいえ、多人数乗車を可能にするため全長は4700mmを少し切る程度で、ボディ自体は結構大きい。主婦の買い物の足から、家族のドライブまで多様に使われるがゆえに普段使いの性能、言い換えれば取り回し性能や乗降性などは特に重要なのである。

すでにヴォクシー/ノアでも高い評価を受けているが、エスクァイアも最新の低床プラットフォームを採用。これによって低くて平らなフロアを実現した点が大きな特徴である。前席への乗降性に関しては地上からのヒップポイントが重要となるが、エスクァイアは720mm、ステップワゴンも730mmといずれも優秀である。

一方2列目に関しては、エスクァイアは360mmとステップワゴンの390mm(いずれも2WD車)と30mmも差がある。たかが30mmと思うかもしれないが、この差は実はかなり大きい。大人ならば問題はなくても子供や高齢者などは足自体を上げる可動域が小さい。ゆえにこの差は乗降性に大きく影響する。さらに乗降性をサポートする、大型のアシストグリップのほかに子供用のチャイルドグリップを採用するなど、この部分では後発となるエスクァイアが大きなアドバンテージを有していると言っていいだろう。

ベルトラインとウインドゥ下端を大きく下げたことや三角窓のピラーを細く仕上げたこと、さらに助手席側のドラミラーに工夫を加えたことなどにより、後方視界もエスクァイアが優れている。ステップワゴンも同様に取り回しに関しては問題はないのだが、ウインドゥの下方向への長さが若干短いこともあり、側面の様子はエスクァイアに比べるとややつかみにくい部分はある。

インストルメントパネルまわりに関しても、エスクァイアは圧倒的ともいえる上質感を有する。インパネからドアトリムにかけて表皮部に合成皮革を使用したり、エアコンクラスター部にピアノブラック塗装を施したりするなど、そもそもヴォクシー/ノアにもない仕様でさらなる差別化にも成功。ステップワゴンは発売時期がかなり前ということもあり、古さを感じてしまう点は否めない。

  • トヨタ エスクァイア HYBRID Gi
    インパネからドアトリムの表皮に合成皮革を採用し、ステップを施した。バーガンディ&ブラックを選ぶと、ドット穴から赤がのぞく繊細な色調が楽しめる。
  • ホンダ ステップワゴン スパーダZ
    インパネまわりは、水平基調のデザインが採用されている。シフトパドルや本革巻きのステアリングホイールなどが与えられる。
  • トヨタ エスクァイア HYBRID Gi
    オプティトロンメーターはメーター照度コントロール付きで、昼間でも見やすい。左側にはハイブリッドシステムインジケーターがある。
  • ホンダ ステップワゴン スパーダZ
    大きなスピードメーターを中央にすえる計器盤。中央に見える葉っぱのマークは、燃費を優先した「ECONモード」選択時に表示される。

2列目シートに秘密あり

エスクァイアは7人および8人乗り仕様をグレードに応じて設定、一方のステップワゴンは基本が8人乗り仕様で、2列目シートがキャプテンシートとなる7人仕様はメーカーオプション設定となる。

エスクァイアの2列目シートは、現状このクラスの7人乗りミニバンとしては最も高い点数をつけることができる。最大810mmの超ロングスライド機構に加え、簡単なレバー操作で前後左右にシートを動かすことができる。この機構を使うことにより、3列目への移動もセンターウォークスルーだけでなく、2列目シートをセンター側に寄せることで開口部の後端から乗り込むことも可能になる。

一方のステップワゴンは、前述のようにキャプテンシートがメーカーオプション扱い。スライド量は少ないがタンブル(跳ね上げ)機構を持つことでシートをさらに前進させ3列目シートを床下に格納すれば広大なラゲージスペースを作ることができる。

また意外と知られていないのだが、このタンブル状態で3列目シートを起こせばエスクァイア同様に“リムジンモード”で乗ることもできる。シートアレンジは16通りと多彩なので、人数や使い方などに応じてフレキシブルに対応できる。

  • トヨタ エスクァイア HYBRID Gi
    運転席と助手席にはセンターアームレストを装備。シートの表皮には、昇温降温抑制機能付きの合成皮革が使われている。
  • ホンダ ステップワゴン スパーダZ
    カラーは「クールブラック」に限られるが、グレードにより、上質な人工皮革とファブリックのコンビシートも選ぶことができる。
  • トヨタ エスクァイア HYBRID Gi
    ハイブリッド車はすべて7人乗り仕様で、セカンドシートは左右独立したセパレートタイプを採用。中央に人が通れるスペースがあるため、シートを折りたたまなくても3列目にアクセスできる。
  • ホンダ ステップワゴン スパーダZ
    セパレートタイプのキャプテンシート(写真)はオプションとして選択できる。
  • トヨタ エスクァイア HYBRID Gi
    超ロングスライド機構の採用で、キャプテンシートは最大810mm前後に動かすことができる。
  • ホンダ ステップワゴン スパーダZ
    7人乗り仕様のセカンドシートは座面のチップアップが可能。この状態で前方にスライドさせることで、後方に大きなラゲージスペースを生み出すことができる。
  • トヨタ エスクァイア HYBRID Gi
    サードシートは全車3人掛けが可能。中央のヘッドレストは、使用しない時には荷室に格納できる。
  • ホンダ ステップワゴン スパーダZ
    サードシートの定員は3人。座面は一体型だが、シートバックは6:4の割合で左右別々に倒すことができ、さまざまな荷物の積載に対応する。
  • トヨタ エスクァイア HYBRID Gi
    ハイブリッド車の床下収納スペースは補機バッテリー(写真奥)の分だけガソリン車より小さいが、111リットルを確保。ハイブリッドは6:4分割式になっているため、片側だけを開けることもできる。
  • ホンダ ステップワゴン スパーダZ
    サードシート使用時のラゲージスペース。写真手前、キャビンの後端部にサードシートが収納できる。
  • トヨタ エスクァイア HYBRID Gi
    収納時のサードシートの張り出しが抑えられており、セカンドシートの超ロングスライドが可能となった。
  • ホンダ ステップワゴン スパーダZ
    “消える3列シート”格納の様子。シートバックを前方に倒してから、シート全体を後方に回転させて床下にしまい込む。

クラス唯一のフルハイブリッド

他車にはない“フル”ハイブリッドシステムであるTHS IIの圧倒的なアドバンテージが光る。基本システムはプリウスα(アルファ)の5人乗り仕様をベースに改良を加えたものだが、乗車定員の変化が大きく、さらにラゲージ下に大容量のサブトランクを設置することを可能にするためにニッケル水素電池をフロントシート下に設置。低床プラットフォームによる技術的なアドバンテージはもちろんだが、ミニバンとしての実用度の高さに貢献している。

試乗しての印象は、「普段使いでは十分な動力性能」というものだ。THS IIのウィークポイントといわれている、スロットルを大きく開いた際に発生するうなるような音質に関しては、遮音はかなり利いている。とはいえ、高級車をうたうのであればもうひと声頑張ってほしいところである。

ステップワゴンに関しては、正直設計の古さを感じる部分は多い。エンジンのピックアップもこのクラスとしてはよく、思ったより元気に走る。ただアクセル操作に対してやや加減速のGが大きくなってしまう点は少し気になる部分だ。エコ性能に関してもエスクァイアとは比較にならないが、街中を走るレベルならばホンダお得意の「ECON(イーコン)」を常時オンにしておいても十分な動力性能が得られる。

ステップワゴンに関しては、2015年3月には待望のフルモデルチェンジが予定されているという。これにはハイブリッドではなく、1.5リットルの直噴ターボが搭載されるといううわさもある。これまで走行性能に関して後塵(こうじん)を拝してきたゆえに、エスクァイアとは違うアプローチで挑戦してくるはずだ。

  • トヨタ エスクァイア HYBRID Gi
    1.8リットルエンジンを用いたハイブリッドシステムは、プリウスと同じ。99PSのエンジンと82PSのモーターを組み合わせ、JC08モード燃費は23.8km/L。
  • ホンダ ステップワゴン スパーダZ
    エンジンは、2.0リットルの直列4気筒。150PS/6200r.p.m.と19.7kgf・m/4200r.p.m.を発生する。燃費は14.8km/L。

期待したい先進安全技術の早期搭載

結果として「うわさ」で終わってしまったのだが、今回のエスクァイアには発売時に「追突被害軽減ブレーキ」などに代表される先進安全装備が搭載されるという情報があった。すでにトヨタはこの先進安全技術に関して2014年11月26日に「Toyota Safety Sense」と呼ばれる予防安全パッケージを発表しているが、2種類用意されるこの安全装備がどのクルマにいつ搭載されるかはこの原稿の執筆段階では未定である。

ゆえにエスクァイアにもどちらが搭載されるか適当な予想は避けたいところだが、いずれにせよすでにセレナには「エマージェンシーブレーキ」と「LDW(車線逸脱警報)」を20Sを除く全グレードに標準装備しているし、フルモデルチェンジされるであろうステップワゴンにもホンダがすでに発表済みの「Honda SENSING」が搭載されるはずだ。いいものは最後まで出し惜しみ、というわけではないだろうが、一刻も早くこの手の安全技術は標準装備してくれることを期待したい。

またハイブリッド車に関しても、4WD車の設定がないことが他社が製品化している点からも後手に回っている。トヨタの場合、現状でハイブリッドの4WD車となれば「E-Four」という独立型リヤモーター式になるが、これはコスト面で高くつく。既存のドライブシャフトを介した4WD機構にハイブリッドを組み合わせたものがラインアップされれば、エスクァイアをはじめとするトヨタのMクラスミニバンのビジネスは完璧なものになるはずだ。

(text:高山正寛/photo:田村 弥)