新型アクアは走りが進化。快感ペダル、バイポーラ型ニッケル水素電池を島下泰久がチェック
初代アクアが目指したのは、ハイブリッド車をより広く普及させることだった。そのために当時の「プリウス」よりも安価で、しかもコンパクトさを生かして燃費にも優れたクルマとされていたのである。
その方針は徹底していて、独特の上すぼまりなキャビン形状などは、明らかに前面投影面積を減らすことが意図されていた。後席、荷室なども広いとはいえなかったし、いわゆる見た目品質なども、そこそこというレベルにとどめられていた。いずれもコストや燃費のために割り切られていたのだ。
その明快な存在感も、おそらくは多くの人がアクアに一目置くようになった要因だろう。潔さが、いわばスタイルとなったのである。
対する新型は、ハイブリッド専用車だという点では先代と同様だが、しかしそれをどう生かすかという部分では、まったく違ったコンセプトを土台としている。ハイブリッドのうま味をまったく新しいドライビング体験に用い、そしてハイブリッドならではの静粛性、快適性を強調する、そんなクルマに仕立てられたのだ。
世界初となるバイポーラ型ニッケル水素バッテリーを用いることで、大容量によるEV走行距離、EV走行速度域の拡大を実現した新型アクアは、従来のアクアやそのほかのトヨタの多くのハイブリッド車とは異なり、発進後すぐにはエンジンが始動せず、しばらくのあいだ、電気モーターだけで走り続ける。いわゆる電動車らしさをさらにしっかり、たっぷり味わわせてくれるのである。
また、いわゆるワンペダルドライブに近い運転感覚を実現した「快感ペダル」も、やはりハイブリッド車のうま味を燃費以外にうまく活用したものだといえるだろう。実際、電気モーターで走る領域が拡大していることと相まって、非常に電動車らしいテイスト、濃度が高められているのが、新型アクアの走りなのだ。
これもハイブリッドの美点を強調した高い静粛性、試乗した「Z」グレードのように「スウィングバルブショックアブソーバー」を採用するなどして格段に滑らかになった乗り心地、さらには上質な仕立てとされたインテリア等々によって、新型アクアはプレミアム性すら意識させるコンパクトカーになった。それには、「ヤリス」にハイブリッドが追加され、燃費はそちらに託すことができるようになったということも背景にあるのは間違いない。
新型は、初代アクアを買った人が10年を経てまた乗り換えたくなる、そして燃費が良いだけでは飽き足らないという人が選びたくなる、そんな存在感を備えたハイブリッド専用車に仕立てられている。もちろん、最優先じゃなくたって、依然、燃費はライバルを凌駕(りょうが)するレベルにある。まさに今の時代にふさわしいプレミアムなハイブリッドコンパクトカーの登場だと、感心させられる存在が新型アクアなのだ。
(文:モータージャーナリスト・島下泰久)
[ガズー編集部]
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