「ホンダNSXタイプS」。最終バージョン、その注目すべき装備とメカニズムは?

今回取り上げるのは、「ホンダNSX」のファイナルバージョンとなる「タイプS」。国内限定30台というスーパースポーツカーの特徴を、モータージャーナリスト山田弘樹が解説する。

2代目のホンダNSXは、失敗作だ。

それはプロダクトそのものの失敗というよりも、出す時期の失敗だったのだと思う。本当に、もう少しあと。まさに今くらいの時期に登場していたら……。それでもメインマーケットとなる北米で支持が得られたかどうかはわからないけれど、少なくとも開発陣がこのスポーツカーに込めた電動化への挑戦は、もっとポジティブに理解されたと思う。

なにせ、このNSXが登場した2016年は、まだまだスーパースポーツカーがバッテリーとモーターを積むことに、みんなピンときていなかった。「ホンダのスーパースポーツが重たくなって、どうするの?」という雰囲気があったと思う。翻って昨年(2021年)デビューした「フェラーリ296GTB」が「プラグインハイブリッドでござい!」とすました顔をしているのを見ると、その完成度の高さに感じ入るとともに、悲しくなる。

「ホンダが時代の空気を読まない」のは、別に、いまに始まったことじゃない。3代目「プレリュード」で採用した4WS(4輪操舵)だって、当時はお初の技術として盛り上がったけれど、いまのホンダにはなくなってしまった。

そしてこともあろうか、ライバルであるルノーの「メガーヌR.S.」が4WSを「4コントロール」として採用し、FF車でもヨーコントロールを楽しめるデバイスにまで成長させた。またドイツ勢が大型のセダンやSUVを続々と4WS化、街なかでは小回りを利かせながら、高速道路での操縦安定性も高めている。

先日テスラが開催した「Tesla AI Day 2022」ではイーロン・マスクCEOが人間型ロボット「Tesla Bot」のプロトタイプを発表したけれど、僕らには、世界初の二足歩行ロボット「ASIMO」がいたじゃないか。そのASIMOは、2022年の3月にホンダは開発を終了している。

まったくもう! ホンダは世界初にこだわり過ぎなのだ。すごい技術を開発しても出す時期を見誤っていて、珍しがられるだけであとが続かない。その技術があれば僕たちの未来は楽しくなりそうだなとか、便利になるなと思わせてくれないのだ。その点、テスラや日産からも学んでほしいと思う。

初代NSXだって、いまでこそ英雄扱いだが、決して成功したスポーツカーだとはいえない。16年間の歴史でわずか1万9000台ほど(うち国内向けは7300台ほど)生産されたにすぎない。いま高額取引されているのはその台数が少なく希少性が高いからで、その走りが再び大きく評価されたからではない。

かのゴードン・マレー氏がいくらそのコンセプトに感激してくれても、売れなければ意味がない。そして高性能と快適性の両立というアイデアはフェラーリが見事にモノにして、その後のスーパースポーツにも波及した。「ポルシェ911 GT3(タイプ996)」が「911カレラRS」の軽量スパルタンさを捨て去って、エアコンやパワステ、パワーウィンドウを付けたのだって、NSXが切り開いた道を走ったということだと思う。

あれれ。
このコラム、文句だけで終わっちゃうの?
そんなことはない。後編に続く!

(文:モータージャーナリスト・山田弘樹)

[GAZOO編集部]

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