レクサスIS500 Fスポーツパフォーマンス 魅惑のNA V8 5.0Lエンジンを堪能する
前編では、レクサス IS500の魅力はエンジンであるという話をした。そしてこの5リッターV8をより一層価値あるものにしているのが、IS500のシャシーワークだ。
IS500は現状そのグレードに“F SPORT Performance”しか設定していない。つまりこれは「IS F」ではないわけだが、むしろそれがよかった。
IS500の乗り味は、とてもしなやかだ。V8エンジンのパワーと重量を見越して引き締められたはずのスプリングは、連続可変ダンパー「AVS」の制御によって、とても滑らかに伸縮する。またタイヤサイズを“攻め”すぎず19インチに抑えていることや、シャシーの前後にパフォーマンスダンパーを装備したことも、大人っぽい乗り味に一役買っている。
そしてこのしなやかな足まわりが、乗り心地の良さだけでなく操舵時の質感をも大いに高めている。
ブレーキングやアクセルオフでフロントタイヤに荷重を乗せてステアしていくと、ねっとりとした電動パワステの操舵フィールとともに高まった接地感が、手のひらへじわりと伝わってくる。V8エンジンの重さを感じさせない、回頭性の素直さも見事だ。
さらには4ドアセダンならではのロングホイールベースとトルセンLSDの採用でアクセルを踏み込んだ際の危うさを巧みに払拭しながら、後輪駆動ならではの、リアからグーッと押し出す旋回フィールを得ている。
モデル末期ともいえるそのボディーをシャシー全体でうまくバランスさせながら、剛性の不足など感じさせずにコーナリングを楽しませてくれる。そんなシャシーで5リッターV8を歌わせるのだから、これが楽しくないわけがない。
もちろんクローズドコースでその潜在能力をすべて解放させたら、話は少し変わってくるかもしれない。しかしオープンロードでは、この絶妙なバランスが最適解だ。もし今後、新型IS Fが出たとして、この絶妙さが失われてしまうなら、魅力は半減すると思う。もちろんその予想を鮮やかに裏切る進化をレクサスには期待するけれど。
このV8ユニットの官能性を味わう選択肢としては、ほかにも「RC F」と「LC500」というスポーツタイプもあるわけだが、個人的にはこのDセグメントセダンに載っているからこそ、魅力が際立つと感じた。
唯一時代を感じさせるのはそのインテリアで、インフォテインメントまみれの現代車を見慣れた立場としては、少しばかりそのたたずまいが古くさく感じられる。
ただ、たとえ見た目が古くさくても、その質感は上質だ。むしろ中途半端にデジタル化されてないこのくらいのインターフェイスのほうが、オールドスクールなスポーツセダンと長く連れ添うにはちょうどいいのかもしれない。
いや、そんな言い訳なんかしなくても、とにかくこのエンジンとシャシーが手に入るならば、それで十分だ。
ひとことで言えば、レクサス IS500は、ラップタイムを意識しなくていい快楽のスポーツセダンだ。まったくひねりの利いていないベタなインプレッションになってしまったけれど、いいものにはひねりなんていらないと思うのである。
(文:モータージャーナリスト・山田弘樹 編集:GAZOO編集部)
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