異次元の室内空間 レクサスLMのさりげないおもてなし
今回乗ったレクサスのミニバン「LM500h“エグゼクティブ”」は、2列シート4人乗りであるうえに、前席と後席の間にはガラスが入ったパーティションまでしつらえています。しかもガラスは電動で上下するだけでなく、瞬時にスモークもかけられるという、マジックを見るような仕掛けが盛り込まれています。
個人的にはこのつくりを見て、かつて何回か取材で乗ったことがあるリムジンを思い出しました。セダンをベースに後部空間を広げるとともに、パーティションを設けてプライバシーが保てるようにしたクルマです。
ただし取材のなかでは、リムジンのつくり方が国によって異なっていることも教えられました。アメリカは量産セダンのボディーをストレッチするという成り立ちで、ドイツは専用のデザインを与えるものの、速度無制限のアウトバーンがあるためか、やはり背が低めでした。
これに対してイギリスでは、長いだけでなく背も高い、特製のボディーが与えられてきました。日本の皇室向けに製作された「日産プリンス ロイヤル」や、現在の「トヨタ・センチュリー ロイヤル」のルーツといえる成り立ちです。
個人的に最も印象に残っているのは、1960年代の「ロールス・ロイス・ファントム」です。かのジョン・レノンが所有していた、サイケデリックなペイントのロールスのリムジンを覚えている人がいるかもしれませんが、あれと同じ世代です。
ルーフの高さは自分の身長より高く、観音開きのドアを開けての後席へのアクセスがとにかくしやすいうえに、リアドアの後方には大きなウィンドウと太いピラーがあり、中は前後、左右、上下の全方向に余裕があって、そこに邸宅のリビングに置いてあるソファのような後席が置かれていました。
もちろん前席との間にはパーティションがあって、折り畳み式のテーブルだけでなく、カクテルグラスなどを収めるキャビネットを用意した仕様もありました。まさに極上という言葉がふさわしい空間でした。
ただし仕立ては豪華絢爛(けんらん)というわけではなく、すっきりしていました。だからこそウッドやレザーといった個々の素材、小さなスイッチの丁寧なつくりなどが際立っていたという印象が残っています。
このファントムは短時間ですが、自分でドライブしたうえに、後席での移動もしました。そのとき思い浮かんだのは、自分が知らない馬車の時代でした。キャビンはオーナーとゲストのためにあり、御者は外側にいて馬の面倒を見るというシーンです。
レクサスLM500h“エグゼクティブ”に触れて、あのときの経験を思い出しました。アクセスがしやすく、パーティションで仕切られた広大な空間はもちろん、シンプルだけれど上質な仕立てにも共通するものを感じました。
試乗車はシックなチタニウムカラーでしたが、そのうちにアジアのクリエイターが、かつてのジョン・レノンのファントムのようにボディーを彩る日がくるかもしれない。それに、そういうシーンがあってこそ、真に認められた存在といえるのではないでしょうか。
(文:モータージャーナリスト・森口将之)
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森口将之さんが解説するレクサスLMの注目ポイント
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