GRヤリス ラリーカーのエボリューションが息づく
“本物のラリーカー”たる「GRヤリス」を走らせると、ビシッとした乗り味にすごみを感じる。進化型はフロントアッパーマウントの締結ボルトを1本から3本に増やしたことをはじめ、スポット溶接の数や接着剤の塗布量を増すなど、“メーカーにしかできない改良”によって(ココが重要なのだ)、そのボディー剛性が一段と増している。
だからハードな足まわりを組んでも、乗り心地に安っぽさがない。路面からの入力は強いけれど、それが一発で収まる。
確かにその剛直なハンドリングとロケットのような加速を、日常で解き放つのは乱暴だ。でもそのポテンシャルの数%を感じながら走らせているだけでも、気分はアガる。「すごいクルマに乗っているんだな」とうれしくなる。
そしてこの性能を、しかるべき場所で解き放てば、その魅力がドバッと一気にあふれ出す。
オープンロードでは硬めに感じた足まわりはしなやかに動きだし、大きな荷重のかかる領域でも、クルマは素直に向きを変えていく。
サーキットで筆者がテストできたのは土砂降りのコンディションだったから、ドライ路面での走りについては厳密に言及できない。しかし、そんな緊張感あふれる状況でドライブしても、GRヤリスは抜群に楽しいと感じた。
改良により25mm低められた着座位置。そこから決まるドライビングポジションのおかげで、前期型とは比べものにならないほど運転しやすい。ガッチリとしたペダルタッチを通して正確なブレーキコントロールができるようになり、ターンインがすこぶる楽しい。
ブレーキの踏力を抜きながらハンドルを切っていくと、フロントがコーナーの内側に入りながらリアがスーッと穏やかにスライドしていく。ちょっとチャレンジングだな。うほほほほ……こわっ! なんて思いながらステアをバランスさせてアクセルを踏み足すと、4輪が微妙に滑りながらも前へ、前へと進んでいく。アマチュアにはオーバーステアすぎる感もあるけれど、ドライ路面での曲がりやすさも向上しているのだろう。
この達成感の大きさといったら、並じゃない。気分はWRCドライバー。こりゃまさに“オラがWRカー”だ。
スポーツカーにとって速さは魅力のひとつだが、絶対条件ではない。一番大切なのは、運転して、どれだけ高揚感や充実感を得られるかだ。
「ポルシェ911 GT3/911 GT3 RS」で高く評価されるのは、スペックよりもドライビングプレジャーを徹底追求していること。ノーマルのままサーキットを走らせてもへこたれないブレーキとボディー、そして高い冷却性能を備えていて、アマチュアドライバーが911というスポーツカーに本気でチャレンジできることだ。そしてGRヤリスは、これと同じ志を持っている。
さらにいえばバンパーの分割化や、インタークーラーの破損を防ぐグリルのメッシュ化など、クラッシュ時のコスト低減がトヨタならではの細かい配慮で実現されている。そのぶんだけ911 GT3よりも上手(うわて)だ。
それがおよそ500万円で手に入るのだから……決して安くはないけれど、やっぱり大バーゲンなのである。
(文:モータージャーナリスト・山田弘樹)
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