【ホンダ N-BOX 4200km試乗】いよいよ高価格がネックになる? 圧倒的な強さの理由と、新型への課題[後編]
◆全面刷新したエンジンはかなりのハイチューン
ホンダは2011年の第1世代N-BOXで新型の軽自動車用エンジン「S07A」をデビューさせたが、2017年の第2世代では「S07B」に載せ換えた。シリンダーのディメンションを見るとA型が内径64.0×行程68.2mmに対してB型は内径60×行程77.6mm。内径行程比が実に1.29に達するという超ロングストローク型エンジンである。軽自動車用エンジンを6年でほぼ全面更新するというのはわりと珍しい。
ロードテスト車のエンジンはS07Bの自然吸気。大きな特徴はライバルメーカー製エンジンに比べて出力、トルクとも1割ほど高いこと。スズキ、ダイハツ、日産/三菱連合がいずれも最高出力38kW(52ps)、最大トルク60Nm(6.1kgm)であるのに対し、S07Bはそれぞれ43kW(58ps)、65Nm(6.6kgm)。排気量1リットルあたりの比出力は88psと、かなりのハイチューンだ。
筆者が初めてS07B搭載車の長距離試乗をやってみたのは2020年、第2世代N-BOXの前期型だった。実際に遠乗りをしてみるまでは他社が6000rpm台で最高出力を発生するのに対してS07Bは7300rpmで発生するためで、実用上の差はそれほど大きくないのではないかと想像していたのだが、実際に乗ってみると力感に歴然とした違いがあった。
今回のロードテストでは高精度GPSロガーを用いて0-80km/h(メーター読み84km/h)加速を一発勝負で計測してみた。果たして1名乗車、Dレンジ、エアコンOFF、アイドリングスタートという条件での実測値が11秒フラットと、軽スーパーハイトワゴンの自然吸気モデルとしては突出した速さを見せた。
S07Bのアドバンテージは全快加速だけではなく、普段の発進加速やクルーズ時に緩加速するときのエンジン回転数の跳ね上がりが競合モデルに比べて明らかに小さいという点も見逃せない。これもトルク値の大きさが素直に現れた部分である。エンジンと車室の隔壁の遮音が優秀であるためか、一般道を流している時のエンジンノイズは非常に静かだった。
もっとも軽スーパーハイトワゴンの宿命で車両重量が910kgもあるので、パワーウェイトレシオは15.68kg/psと絶対的には出力不足。急勾配の登坂や高速道路における加速など、ちょっと負荷が高まると途端にエンジン回転数は跳ね上がることになる。
救いはエンジンがぶん回ってもフィール的にあまりストレスにならないこと。高回転までエンジンのノイズや微振動が少なく、サウンドも澄んだものであるため、新東名では安定性の高さともあいまって、軽自動車では機構的に出せない速度で迫ってくるクルマさえやり過ごせば最も速い流れに乗って走るのも造作ないことだった。平地の高速道路の100km/hクルーズにおける回転数は2000rpm後半~3000rpm前半を行ったりきたり。90km/hでは2500rpm弱で安定するという感じであった。経済性を重視するなら100km/hアンダーが無難である。
◆ホンダもそろそろ小規模なハイブリッドを入れるべき?
動力性能や質感については上々だったS07Bエンジンだが、経済性については肩透かしを食った。本来、S07Bは非常に効率の良いエンジンで、前期型N-BOXを700kmドライブした時は区間燃費リッター26kmを記録していたし、本サイトで800km試乗記をお届けした『N-VAN』もS07Bターボを搭載しながらロングラン燃費はリッター22.4kmだった。S07Bの本来の実力はこんなものではないはずなのだがと訝しく思われたが、事実としてロードテスト車の燃費は伸びなかった。区間燃費を概況を添えて列記してみよう。
【往路】
1. 東京~静岡・浜松 19.9km/リットル(282.6km走行、給油量14.20リットル)
東名高速厚木ICから新東名長泉沼津までは高速。その他は一般道。交通量多め。
2. 浜松~岡山・相生 20.9km/リットル(400.1km走行、給油量19.14リットル)
伊勢湾岸道東海ICから新名神京都東ICまでは高速。その他は一般道。交通量少なめ。
3. 相生~福岡・田川 21.9km/リットル(483.3km走行、給油量22.08リットル)
オール一般道。平均車速やや低。
4. 田川~鹿児島市 20.3km/リットル(312.6km走行、給油量15.37リットル)
九州自動車道、南九州自動車道が約160km。その他は一般道。若干の山岳路含む。
5. 南九州エリア1 15.5km/リットル(386.3km走行、給油量24.86リットル)
混雑の激しい鹿児島市街地中心。プラス九州自動車道約120km。
6. 南九州エリア2 17.9km/リットル(399.9km走行、給油量22.38リットル)
鹿児島市街地3:郊外・高速走行7の比率。
【帰路】
7. 鹿児島市~福岡・田川 19.9km/リットル (323.7km走行、給油量16.23リットル)
九州自動車道人吉ICから大分自動車道甘木ICまで高速170km含む。平均車速高。
8. 田川・兵庫・豊岡 22.1km/リットル (571.1km走行、給油量25.89リットル)
山陰道経由。平均車速やや高。
9. 豊岡~愛知・幸田 21.4km/リットル (327.1km走行、給油量15.26リットル)
天橋立、琵琶湖経由。オール一般道。
10. 幸田~東京・葛飾 18.5km/リットル (333.4km、給油量18.05リットル)
行程の約9割が高速。新東名~東名高速区間は平均車速100km/h超。
往路瀬戸内、復路山陰道のロングラン区間3033.9kmの平均燃費は20.7km/リットルと、20km/リットルのラインは辛うじて超えた。が、筆者が過去に3000km超ツーリングを行ったモデルと比較すると車重1トン、ターボエンジン搭載の日産自動車『ルークスハイウェイスター』を若干上回る程度。同じくターボエンジンを積んだスズキ『スペーシアカスタム』、自然吸気エンジンのダイハツ『タント』には敗北を喫した。市街地燃費は混雑が常態化しているうえ標高差100~200mのアップダウンを次々に乗り越える必要があるという鹿児島の特殊環境において14km/リットル前後、平坦な首都圏では19km/リットル前後と推定された。
燃費の悪さがロードテスト車の偶発的な不調によるものなのか製造公差によるものなのかは不明だが、もし製造公差のせいだとしたらちょっと見逃せないくらい影響が大きいので、公差の許容度を再検証すべきだろう。
唯一気を吐いたのは最終レグ。愛知県南部の幸田で満タン給油後、新東名岡崎ICから高速道路経由で一気に東京・葛飾に達するというドライブだったが、新東名120km/h区間では常時最速の流れに乗り、首都高速手前までの平均車速が107km/hというハイスピードクルーズだったが、そこまでの推定燃費値は17km/リットル台中盤と、その他の区間での燃費の振るわなさのわりには落ち込みが少なかった。おそらくライバル中最良であろう。流れの落ちる首都高で燃費を回復した結果が18.5km/リットルというリザルトである。
先日発表された第3世代は第2世代のパワートレインをほぼキャリーオーバーの形で継承している。本来の実力が発揮されることを前提にすれば、それでも十分に戦えるという判断なのであろうが、ひとつ下のトールワゴンクラスにスズキが投入した『ワゴンRスマイル』が豪雨で冠水しているようなコンディションでもリッター23km台、区間最良値が33km/リットル台という驚異的な燃費性能を示したことを考えると、トップランナーの貫録を見せるためにはホンダもそろそろ小規模なハイブリッドを入れてもよかったのではないかなどと思ったりもした。
◆ストレッチリムジンばりの後席空間の広さは強烈
第2世代N-BOXのセールスポイントの中でもとりわけ強烈なのがストレッチリムジンばりの後席空間の広さ。軽スーパーハイトワゴンはもともと後席が広大なものだが、N-BOXが他のモデルと異なるのは燃料タンクを車体中央に配置するセンタータンクレイアウトの恩恵か、後席の床に段差がなく、フラットフロアとして使える前後の幅が突出して広いこと。後席を一番後方に寄せたときのレッグスペースも同様だった。
ホンダはルーフの高さとあいまって小学生くらいの子供であれば車内で立って着替えができるということをアピールしていたが、前席の背もたれや後席下の段差に邪魔されず簡単に直立できるという特質は唯一無二。後席の座面は軽スーパーハイトワゴンの常でチップアップさせることができるが、それで生まれる有効床面積もライバルを圧倒していた。クルマは本来、万が一の事故のときに危なくないよう荷物は荷室に積むのがセオリーとはいえ、荷室より床面が低いキャビンを積載空間として広々と使えるという特性は背丈のあるものを倒さず運びたいときなどに有り難く感じられることだろう。
ただ、後席空間がライバルに比してすべての面で勝っているというわけではない。足元空間を限界まで広げたこととのトレードオフか、後席の座面高が低いのはちょっとしたマイナスポイント。室内は広い窓面積のおかげで大変にルーミーだが、ドライブ時の後席からの眺めは前後席の座面高に大きな差をつけるシアターレイアウトを取るルークスハイウェイスターやスペーシアカスタムに負けているという感があった。また後席を最後端に寄せているとカーブで体にかかる遠心力が強くなるうえ、路面からの衝撃も後アクスルから直接入ってくるような感じになるので、純粋に快適性を求めるなら少し前に出したほうがいい。
軽スーパーハイトワゴンにとって重要な後席の乗降性は大変優れていた。リアドア開口部の長さの実寸は64cmと、ルークスハイウェイスターに1cm及ばなかったが、スペーシア、前ドアを開けない状態でのタント、さらに普通車のダイハツ『トール』、スズキ『ソリオ』よりも広い。後席にほぼ歩くように乗り込めるのはファミリーユースでは高得点だ。
◆ロングドライブにも耐える前席、車内の質感、使い勝手も十分
シート設計は少なくとも前席については超ロングドライブにも耐えられるだけのものにはなっていた。ルークスハイウェイスターのように体圧の変化を柔らかく受け止めるような感じではないが、長時間ドライブ時のウレタンの潰れはライバル中最小。遠乗りをしたいというユーザーの要求にも十分に応えられる。後席は南九州エリアで50kmほど試したのみだったのでロングドライブ耐性は不明だが、行動半径100km程度の近距離ドライブでは何の問題もなさそうに思われた。
車内の質感はトップランナーこそルークスハイウェイスターに譲るものの、十分満足できるもの。みすぼらしさを感じさせる要素が少なく、満足感が長続きするのではないかと思われた。ダッシュボードのテカリが少なく、外部から光がどのような角度で入ってきてもフロントガラスへの映り込みがほとんどないのも美点だった。
第2世代カスタムは8スピーカーシステムを搭載していたが、これも軽自動車の標準装備オーディオとしてはかなり良いサラウンド効果を発揮していた。第3世代は6スピーカーに減じられているが、実物がどのようなパフォーマンスを発揮するか興味深い。
室内の整理整頓のやりやすさを左右する小物収納スペースはスペーシア、ルークスハイウェイスターに負けるが、絶対的には十分便利に使える水準をクリアしていた。特徴はステアリングとメーターパネルの間に比較的容量の大きなフタつきボックスが設けられていること。すぐに手が届くところに大型収納スペースがあるのは結構便利なもので、長距離移動中、手が離せない時には取りあえず何でもここに放り込んでおくという使い方をしていた。
ADAS(先進運転支援システム)については他のホンダ車と同様、「ホンダセンシング」が標準装備。『シビック』などに展開されはじめている複数車線監視タイプではなく同一車線のみを見る古典的なものだが、軽自動車の使われ方を考えればしっかり機能しさえすればこれで十分という感があった。普段よく使うのは前車追従クルーズコントロールと車線維持アシストだが、クルーズコントロールは先行車の速度の揺れに過敏に反応せず、滑らかにドライブできるというレベルには達していた。車線維持もそこそこしっかりと機能したが、動きは糸を引くように車線をトレースするルークスハイウェイスターに比べるとやや多角形になる傾向があった。第3世代でのファインチューンは要注目である。
◆N-BOXはマーケットリーダーであり続けられるか
居住空間の広さ、荷物の収容力、快適性、走行性能、安全装置等々、まさに“全部入り”を体現していた第2世代N-BOX。軽自動車規格という制約はあるが、一般道の制限速度が先進国の中でブッチギリに低い日本においては乗車定員4名であること以外ネックとなるポイントが見当たらず、ファミリーカーとしての街乗り主体のライトユーザーから積極ドライブ派まで誰にでも適合するというのが販売における圧倒的な強さの秘密だったとあらためて感じた。
第3世代は車体、パワートレインをはじめ多くの部分を第2世代から引き継ぐ形で作られた。装備品はともかく基本性能で第2世代から落ちる部分が多くては評判をみすみす落とすだけというのはホンダの開発陣も重々承知だろうから、あからさまな取りこぼしはあまりないものと推察される。
が、他銘柄に対する優位性を維持できるかどうかということになると話は別だ。第2世代が軽スーパーハイトワゴンで最も高価な値付けであったにもかかわらず、その後にフルモデルチェンジを受けたライバルの挑戦をことごとく退けられたのは、第1世代が大人気を博したのに飽き足らず、乗り心地や燃費など多くの部分を大幅に進化させたからだ。
今後、各メーカーはN-BOXを追い落とさんとして順次フルモデルチェンジを行うことになるのだが、激しい切磋琢磨をみるに、それぞれ相当のレベルアップを果たすことになる可能性が高く、第3世代の進化幅次第では第2世代ではあまり問題とならなかった高価格がネックとなってライバルに凌駕される可能性も十分にある。果たしてN-BOXがマーケットリーダーであり続けられるかどうか、要注目だ。
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