【三菱 トライトン 新型試乗】乗り心地はSUV!新設計のラダーフレームあってこその全方位進化…諸星陽一
昨年、タイでワールドプレミアされた三菱の主力ピックアップトラック『トライトン』の国内試乗会が開催された。オンロード&オフロードでの試乗インプレッションをお届けする。
トライトンはメインマーケットであるASEAN諸国への出荷への対応などもあり、三菱自動車タイランドで製造されるモデル。このため正式には輸入車となるが、日本ブランドのクルマであることはもちろん、その開発などは国内中心で行われている。非常に数多くのボディタイプ、パワーユニット、駆動系などがあるモデルだが、日本へ輸入されるのはダブルキャブと呼ばれる2列シート5名定員のボディのみで、パワーユニットは2.4リットルのツインターボディーゼル、ミッションは6速ATのみという設定。
◆空荷でも遜色のないコーナリング性能とハンドリング
トライトンには『パジェロ』譲りの4WDシステムである「スーパーセレクト4WD-II」が搭載される。スーパーセレクト4WD-IIは2H(後輪駆動)、4H(4WDでセンターデフフリー)、4HLc(4WDでセンターデフロック)、4LLc(4WDでセンターデフロック、副変速機はローギア)の4つの4輪駆動モードを選択できる。まずはデフォルトのポジションとされている4Hにて、舗装路を試乗した。
ベースとなったオフロードコースから一般道に抜ける道はタイトなため、ゆっくりとした速度で走る。1930mmの全幅はさすがにワイドだが、フラットで見切りのいいボンネットのおかげでさほどストレスなく運転できる。一般道へと出て、アクセルペダルを踏み込むと、トルクがグッと盛り上がり2トンを超える車重をものともせずに加速していく。エンジンの最大トルクは470Nm、最高出力は204馬力と十分である。
コーナリングも素直だ。ステアリングを切ったなりにクルマは向きを変える。乗車位置が高いが不安感を感じることはない。トライトンは最大積載量が500kgという設定。こうしたトラックの場合、荷台に何も積んでいないとハンドリングが安定しないこともあるが、トライトンは空荷でもまったく遜色のないコーナリング性能とハンドリングを披露する。
加えてトライトンにはコーナリングをサポートするAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)やASTC(アクティブ・スタビリティ&トラクション・コントロール)が装備される。AYCは積極的にスムーズな走りを実現、ASTCは限界領域を超えたコーナリング時に限界領域まで引き下げる能力を発揮してくれるのでより高い安心感をもってのドライブが可能だ。
◆乗り心地はトラックというよりもSUVライク
また乗り心地についてもトラックという印象は薄く、SUVライクなものである。トラックとSUVの大きな違いは何かと言えば、リヤサスペンションの構造にある。
トラックのサスペンションはリーフスプリングと呼ばれる方式が使われることが多い。トライトンもこのリーフスプリング方式が採られる。リーフスプリング方式はホーシングという車軸とデフを収めたパーツをクルマから板バネ(リーフスプリング)で吊り下げる方式で、バネそのものがサスペンションアームの役目も兼ねる。構造がシンプルで板バネの枚数を調整することで耐荷重を調整しやすいなど、メリットが多い。
一方で板バネ同士の接触面で発生する摩擦が乗り心地を悪化させるなどのデメリットもあるが、トライトンでは板バネの枚数を3枚と少なくし、板バネ同士の摩擦にも注目したチューンニングを与えることで、SUV並みの乗り心地のよさを実現している。しっかりと動くリヤサスは、突っ張ってしまうセッティングとなっている一部の重量級SUVよりも好印象である。
唯一、気になったのは段差のきつい路面の乗り越えで、ある程度速度が上がっている際にこうした段差を乗り越えたときは、突き上げ感を感じることがあった。
デフォルトのポジションは4Hとのことだが、せっかくなので2Hのフィールもチェックする。基本的な乗り味という面では4Hと大差がないが、2Hを選ぶとステアリングフィールが若干変化する。4Hのほうがステアリングを切った状態でアクセルを踏んだ際にステアリングが戻ろうとする力が大きいのと、同じくアクセル操作時の微少な振動などが多い。いずれも気になるレベルではなく、なにか違いはないかと神経を研ぎ澄ますと感じられる部分である。
◆三菱車ならではのオフロード性能を試す
ステージをオフロードコースへと移す。まずは4WDでセンターデフがオープンとなる4Hのままで急勾配の砂利道を上っていく。センターデフがロックされていないことなどは意に介さず、十分なトラクションを持って前進していくが、ちょっとした勾配の変化や路面状況の悪さでグリップを失い前進が不可能になる。そこで次に選ぶのが4HLcというモードだ。
4HLcでは4WDの状態でセンターデフがロックされる。すると今まで接地していても駆動力を伝えていなかったタイヤが路面にトラクションを伝えて、トライトンが前に進み出す。デフがオープンの場合は接地していないタイヤにトラクションを伝えてしまうが、デフをロックすると接地しているタイヤにトラクションが伝わり前に進めるのである。もっともトライトンの場合はAYCの1つの機能であるトラクションコントロールや、アクティブLSD(ブレーキ制御LSD)もこうした脱出に寄与するので安心感はなおさら高い。
上ったら下らないとならないのが世の常だ。下りで役立つ機能がHDC(ヒル・ディセント・コントロール)という機能。HDCをオンにして坂を下っている際、ブレーキで速度を調整するとその速度(4~20km/h)を一定に保ちつつ、坂道を下っていくことが可能。勾配がきつくなり速度が上がるとブレーキが作動して速度を落とす。このブレーキングの際に路面が滑りやすいと一瞬滑って速度が上がるが、速度はすぐに落ちるので安心だ。速度を制御しているとハンドル操作に集中できるため、より正確にオフロード走行が可能。またHDCはリバースでも効くので、登り切れないシチュエーションや上ったはいいものの、その先の行き先がないときに後退せざるを得ない場合などにも使える。
スーパーセレクト4WD-IIを4LLcにセットするとさらに走破性が増す。最高速度は出させないが、トルクは強大となる。モーグルコースなどを走る際は、4LLcにセットすることでアクセル操作に気をつかうことなくトライトンを走らせることができる。今回の試乗では路面状況がよかったので4LLcとするだけで、モーグルを始めあらゆるコースを走破できたが、トライトンは最終兵器と呼べるリヤデフロックも備えている。スーパーセレクト4WDを4LLcにセットし、リヤデフをロックすればまさに無敵状態であらゆる路面を走ることができるだろう。
◆新設計のラダーフレームがあってこその全面進化
全体を通してトライトンは非常に進化した印象がある。その大きなポイントとなっているのが、ラダーフレームの進化。今回のフルモデルチェンジではラダーフレームそのものも新設計された。従来モデルに比べて曲げ、ねじりともに剛性は約1.5倍に高められたという。開発者の話を聞いていると、今回のフルモデルチェンジでいろいろなチャレンジができたのは、すべてはこのフレームの刷新があったからこそだという。フレームがしっかりしたから、いいサスペンションが生き、いいエンジン、いい駆動方式、いい各種デバイスが生きたというわけである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
諸星陽一|モータージャーナリスト
自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。
トライトンはメインマーケットであるASEAN諸国への出荷への対応などもあり、三菱自動車タイランドで製造されるモデル。このため正式には輸入車となるが、日本ブランドのクルマであることはもちろん、その開発などは国内中心で行われている。非常に数多くのボディタイプ、パワーユニット、駆動系などがあるモデルだが、日本へ輸入されるのはダブルキャブと呼ばれる2列シート5名定員のボディのみで、パワーユニットは2.4リットルのツインターボディーゼル、ミッションは6速ATのみという設定。
◆空荷でも遜色のないコーナリング性能とハンドリング
トライトンには『パジェロ』譲りの4WDシステムである「スーパーセレクト4WD-II」が搭載される。スーパーセレクト4WD-IIは2H(後輪駆動)、4H(4WDでセンターデフフリー)、4HLc(4WDでセンターデフロック)、4LLc(4WDでセンターデフロック、副変速機はローギア)の4つの4輪駆動モードを選択できる。まずはデフォルトのポジションとされている4Hにて、舗装路を試乗した。
ベースとなったオフロードコースから一般道に抜ける道はタイトなため、ゆっくりとした速度で走る。1930mmの全幅はさすがにワイドだが、フラットで見切りのいいボンネットのおかげでさほどストレスなく運転できる。一般道へと出て、アクセルペダルを踏み込むと、トルクがグッと盛り上がり2トンを超える車重をものともせずに加速していく。エンジンの最大トルクは470Nm、最高出力は204馬力と十分である。
コーナリングも素直だ。ステアリングを切ったなりにクルマは向きを変える。乗車位置が高いが不安感を感じることはない。トライトンは最大積載量が500kgという設定。こうしたトラックの場合、荷台に何も積んでいないとハンドリングが安定しないこともあるが、トライトンは空荷でもまったく遜色のないコーナリング性能とハンドリングを披露する。
加えてトライトンにはコーナリングをサポートするAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)やASTC(アクティブ・スタビリティ&トラクション・コントロール)が装備される。AYCは積極的にスムーズな走りを実現、ASTCは限界領域を超えたコーナリング時に限界領域まで引き下げる能力を発揮してくれるのでより高い安心感をもってのドライブが可能だ。
◆乗り心地はトラックというよりもSUVライク
また乗り心地についてもトラックという印象は薄く、SUVライクなものである。トラックとSUVの大きな違いは何かと言えば、リヤサスペンションの構造にある。
トラックのサスペンションはリーフスプリングと呼ばれる方式が使われることが多い。トライトンもこのリーフスプリング方式が採られる。リーフスプリング方式はホーシングという車軸とデフを収めたパーツをクルマから板バネ(リーフスプリング)で吊り下げる方式で、バネそのものがサスペンションアームの役目も兼ねる。構造がシンプルで板バネの枚数を調整することで耐荷重を調整しやすいなど、メリットが多い。
一方で板バネ同士の接触面で発生する摩擦が乗り心地を悪化させるなどのデメリットもあるが、トライトンでは板バネの枚数を3枚と少なくし、板バネ同士の摩擦にも注目したチューンニングを与えることで、SUV並みの乗り心地のよさを実現している。しっかりと動くリヤサスは、突っ張ってしまうセッティングとなっている一部の重量級SUVよりも好印象である。
唯一、気になったのは段差のきつい路面の乗り越えで、ある程度速度が上がっている際にこうした段差を乗り越えたときは、突き上げ感を感じることがあった。
デフォルトのポジションは4Hとのことだが、せっかくなので2Hのフィールもチェックする。基本的な乗り味という面では4Hと大差がないが、2Hを選ぶとステアリングフィールが若干変化する。4Hのほうがステアリングを切った状態でアクセルを踏んだ際にステアリングが戻ろうとする力が大きいのと、同じくアクセル操作時の微少な振動などが多い。いずれも気になるレベルではなく、なにか違いはないかと神経を研ぎ澄ますと感じられる部分である。
◆三菱車ならではのオフロード性能を試す
ステージをオフロードコースへと移す。まずは4WDでセンターデフがオープンとなる4Hのままで急勾配の砂利道を上っていく。センターデフがロックされていないことなどは意に介さず、十分なトラクションを持って前進していくが、ちょっとした勾配の変化や路面状況の悪さでグリップを失い前進が不可能になる。そこで次に選ぶのが4HLcというモードだ。
4HLcでは4WDの状態でセンターデフがロックされる。すると今まで接地していても駆動力を伝えていなかったタイヤが路面にトラクションを伝えて、トライトンが前に進み出す。デフがオープンの場合は接地していないタイヤにトラクションを伝えてしまうが、デフをロックすると接地しているタイヤにトラクションが伝わり前に進めるのである。もっともトライトンの場合はAYCの1つの機能であるトラクションコントロールや、アクティブLSD(ブレーキ制御LSD)もこうした脱出に寄与するので安心感はなおさら高い。
上ったら下らないとならないのが世の常だ。下りで役立つ機能がHDC(ヒル・ディセント・コントロール)という機能。HDCをオンにして坂を下っている際、ブレーキで速度を調整するとその速度(4~20km/h)を一定に保ちつつ、坂道を下っていくことが可能。勾配がきつくなり速度が上がるとブレーキが作動して速度を落とす。このブレーキングの際に路面が滑りやすいと一瞬滑って速度が上がるが、速度はすぐに落ちるので安心だ。速度を制御しているとハンドル操作に集中できるため、より正確にオフロード走行が可能。またHDCはリバースでも効くので、登り切れないシチュエーションや上ったはいいものの、その先の行き先がないときに後退せざるを得ない場合などにも使える。
スーパーセレクト4WD-IIを4LLcにセットするとさらに走破性が増す。最高速度は出させないが、トルクは強大となる。モーグルコースなどを走る際は、4LLcにセットすることでアクセル操作に気をつかうことなくトライトンを走らせることができる。今回の試乗では路面状況がよかったので4LLcとするだけで、モーグルを始めあらゆるコースを走破できたが、トライトンは最終兵器と呼べるリヤデフロックも備えている。スーパーセレクト4WDを4LLcにセットし、リヤデフをロックすればまさに無敵状態であらゆる路面を走ることができるだろう。
◆新設計のラダーフレームがあってこその全面進化
全体を通してトライトンは非常に進化した印象がある。その大きなポイントとなっているのが、ラダーフレームの進化。今回のフルモデルチェンジではラダーフレームそのものも新設計された。従来モデルに比べて曲げ、ねじりともに剛性は約1.5倍に高められたという。開発者の話を聞いていると、今回のフルモデルチェンジでいろいろなチャレンジができたのは、すべてはこのフレームの刷新があったからこそだという。フレームがしっかりしたから、いいサスペンションが生き、いいエンジン、いい駆動方式、いい各種デバイスが生きたというわけである。
■5つ星評価
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