【ホンダ N-BOX 新型試乗】アイデアの詰まった使い勝手はまさに「ニッポンの国民車」だ…中村孝仁
それにしても全長3400×全幅1480×全高2000mm。排気量660ccという枠の中で安全性を担保したクルマ作りをすることの大変さは想像を絶する。かつてホンダのデザイナーに聞いた話だが、ほとんどの主要なメカニズムの位置が決まっているから、デザインで頑張れるところはほんの僅かしかないと。
今流行りのスーパーハイトワゴンという型式のモデルは、決められた空間の中でいかに最大のスペースを与えられるかの勝負になるから、そのスタイルはどれもこれもほぼ似通ったものになってしまう。稼げるスペースは上方向のみだから必然的に限度いっぱい……と言いたいところだが、それはやり過ぎだったようで、過去最高の車高を誇ったダイハツ『ウェイク』は2022年で生産を終了したから、現在は全高1800mmを下回るところでの攻防となっている。その中でも一番背が高いのがホンダN-BOXで、その車高は1790mmある。
◆ダッシュボードの作りに感心
というわけで、デザインに大きな特徴があるかと言えば、これははっきり言ってNoである。しかし、インテリアに関して言えば色々とアイデアやノウハウを詰め込んでデザインの面で独自性を出すことができる。今回のN-BOXで感心したのはダッシュボードの作りであった。それはメータークラスターを極端なまでにコンパクト化させ必要最小限の表示とし、さらにドライバーに対し、ステアリングホイールの内側で視認するインホイールメーターのレイアウトとしたことだ。
先代はステアリングリムの上からメーターを視認した。これだと当然ながらダッシュボードが盛り上がり、前方視界を狭めることになる。確かに天地方向には十分なスペースがあるから問題がないと言えば問題はないのだが、ホンダに言わせると 運転者が車幅や車両の動きを把握しやすくしたということだそうだ。確かにダッシュの上面は完全にフラットで非常にすっきりしている。
それに今どきの実用車でメーターで表示すべき情報がそれほど多いとは思えず、自分なりに考えてもスピードメーターと燃料の残量さえわかれば、後はワーニングランプがあればそれでよいし、距離を知りたければその都度呼び出せばよい程度で、まあほとんど必要はないからこれでいい。だから先代のダッシュボードと今回のダッシュボードを見比べてみると、新しいN-BOXのそれはまるで家具を搬入していない新居のアパートのようだ。まさにすっきり広々である。
◆アイデアの詰まった使い勝手はまさに「ニッポンの国民車」
もう一つ、個人的にN-BOXの一つの美点だと思えるのはチップ&ダイブダウン機構付きスライドリアシートというやつ。普通にスライドしたり、あるいは折り畳めるのは常識だろうが、N-BOXの場合は座面を背もたれ側に跳ね上げることができる。これで広々とした床面と天地方向の高さを稼げるから、かなり背の高いものを運ぶことができる。子供が立ったまま着替えができるそうだが、こんな発想は恐らく海外のクルマではまずない。まさしく日本流で日本ならでは…である。
国民車と呼ばれたクルマとしてはそのものズバリが車名となっているフォルクスワーゲンだったり、イタリアならフィアット『500』(昔のやつ)。イギリスなら『ミニ』等々、爆発的に売れて街の景色を変えるようなクルマがかつては多かった。今は外観上それほど個性的なクルマが少なくなって、街の景色を変えるには至らないが、そのアイデアの詰まった使い勝手の良さはまさに「ニッポンの国民車」なのである。
◆重箱の隅をつついて、ネガを潰す
ターボの付かない660ccエンジンは、日常的に使う場合はそれほどの痛痒は感じないが、やはり高速でここ一番のパワーを使いたい場合や、街中で一足前に出て先を急ぎたい場合などでは少しばかり物足りない。加速やスピードを求めるとどうしてもアクセルの踏み込み量は多くなり、必然的にメカニカルノイズも大きく、無理をしている印象に苛まれる。これを除けば通常は至って静かだし、1790mmの車高を考えればそれなりにワインディングロードなどはロールを伴って不安感も出るかと思いきや、無理をしなければどうということもない。
結局、すべては必要にして十分という発想でのクルマ作りだから、使う側もその範囲で使えば何の不満もないどころか、非常に良くできたクルマとして映るわけである。我々ジャーナリストは日頃重箱の隅をつついて原稿にしたためるケースが多いが、軽自動車のエンジニアたちは重箱の隅をつついて、ネガを潰すクルマ作りをしているのである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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