【試乗記】三菱eKクロスT(4WD/CVT)

三菱eKクロスT(4WD/CVT)【試乗記】
三菱eKクロスT(4WD/CVT)

カスタム顔に飽きたなら

派手なフロントマスクにばかり目が行きがちだが、「三菱eKクロス」は中身にもそこかしこに配慮の行き届いた、使い勝手のいい軽乗用車だ。気になる走行性能や先進運転支援システムの出来栄えなどをリポートする。

「デリカD:5」と正反対の反応

今回テストしたのは最上級グレードの「三菱eKクロスT」。車両本体価格は176万5800円で、カーナビゲーションなどを含めた試乗車の価格は239万7166円に達していた。
今回テストしたのは最上級グレードの「三菱eKクロスT」。車両本体価格は176万5800円で、カーナビゲーションなどを含めた試乗車の価格は239万7166円に達していた。
三菱のフロントデザインコンセプト「ダイナミックシールド」を採用し、SUVのような力強さを表現している。
三菱のフロントデザインコンセプト「ダイナミックシールド」を採用し、SUVのような力強さを表現している。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=3395×1475×1685mmで、	ホイールベースは2495mm。SUVのような姿だが、最低地上高155mmは標準車の「eKワゴン」と同じ。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=3395×1475×1685mmで、 ホイールベースは2495mm。SUVのような姿だが、最低地上高155mmは標準車の「eKワゴン」と同じ。
リアまわりでは厚みを持たせたバンパーによって安定感を表現。ホイールアーチの黒い部分はステッカーとなっている。
リアまわりでは厚みを持たせたバンパーによって安定感を表現。ホイールアーチの黒い部分はステッカーとなっている。
三菱eKクロスの評判がいい。「eKワゴン」や「日産デイズ」もそこそこ好評なのだが、eKクロスを称賛する声が突出している。メカニズムや装備などはほとんど変わらないのだから、主に評価されているのはデザインなのだろう。同じような顔つきの「デリカD:5」はあれほど攻撃されたのに、正反対の反応である。

「ダイナミックシールド」というデザインコンセプトは「エクリプス クロス」でも使われていて、特に悪評は聞かない。デリカの場合、以前のデザインに愛着を持つ人から極端に嫌われてしまったということが考えられる。まっさらな目で見れば、三菱が主張するRobust(力強い)でDependable(信頼性のある)でFunctional(機能的な)という要素をうまく表現しているのだ。eKクロスは幅が狭いことからフロントマスクの「X」モチーフが強調される形になり、スタイリッシュさを感じさせるのかもしれない。

軽自動車のハイトワゴンやスーパーハイトワゴンが似通ったデザインになってしまったことで、ユーザーは少しでも違いのある形を求めているのだろう。少々価格が張っても「スズキ・ハスラー」を買いたいと思う人が多かったことからもわかる。優しげなノーマルモデルといかついカスタムの2種を用意するのが定番となったが、デザインはどのメーカーも似たり寄ったり。eKクロスぐらいアクが強いほうがアピールできるのだ。

開発を主導したのが日産であることはこれまでに伝えられているとおり。軽自動車を手がけるのは初めてだというのに、見事な仕事ぶりである。長きにわたって国内で新型車を発表していなかったので、エンジニアがたまっていたうっぷんを一気にぶつけたのだろうか。もちろん、製造を担った三菱の生産技術も称賛されてしかるべきだ。

今回テストしたのは最上級グレードの「三菱eKクロスT」。車両本体価格は176万5800円で、カーナビゲーションなどを含めた試乗車の価格は239万7166円に達していた。
今回テストしたのは最上級グレードの「三菱eKクロスT」。車両本体価格は176万5800円で、カーナビゲーションなどを含めた試乗車の価格は239万7166円に達していた。
三菱のフロントデザインコンセプト「ダイナミックシールド」を採用し、SUVのような力強さを表現している。
三菱のフロントデザインコンセプト「ダイナミックシールド」を採用し、SUVのような力強さを表現している。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=3395×1475×1685mmで、	ホイールベースは2495mm。SUVのような姿だが、最低地上高155mmは標準車の「eKワゴン」と同じ。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=3395×1475×1685mmで、 ホイールベースは2495mm。SUVのような姿だが、最低地上高155mmは標準車の「eKワゴン」と同じ。
リアまわりでは厚みを持たせたバンパーによって安定感を表現。ホイールアーチの黒い部分はステッカーとなっている。
リアまわりでは厚みを持たせたバンパーによって安定感を表現。ホイールアーチの黒い部分はステッカーとなっている。

コンパクトカーとがっぷり四つ

従来は副変速機を備えたコンパクトカーと共用可能なCVTを搭載していたが、新型では新開発の軽自動車専用CVTを採用。コンパクトかつ軽量で、変速比幅が軽に最適化されているのが強みだ。
従来は副変速機を備えたコンパクトカーと共用可能なCVTを搭載していたが、新型では新開発の軽自動車専用CVTを採用。コンパクトかつ軽量で、変速比幅が軽に最適化されているのが強みだ。
インストゥルメントパネルのデザインコンセプトは「ホリゾンタルアクシス」。水平基調のすっきりとした形状で、良好な前方視界を目指した。
インストゥルメントパネルのデザインコンセプトは「ホリゾンタルアクシス」。水平基調のすっきりとした形状で、良好な前方視界を目指した。
テスト車にはオプションの「プレミアムインテリアパッケージ」が装着されていた。インパネなどの随所がブラックとタンのカラーコーディネートとなるほか、シートのファブリックがストライプパターンになる。
テスト車にはオプションの「プレミアムインテリアパッケージ」が装着されていた。インパネなどの随所がブラックとタンのカラーコーディネートとなるほか、シートのファブリックがストライプパターンになる。
リアシートは前後スライド(左右一緒)とリクライニング(左右個別)が可能。写真は最も後ろにスライドさせたところで、ひざまわりの空間はご覧の通りの広さ。
リアシートは前後スライド(左右一緒)とリクライニング(左右個別)が可能。写真は最も後ろにスライドさせたところで、ひざまわりの空間はご覧の通りの広さ。
eKクロスは、「スズキ・ワゴンR」が切り開いたハイトワゴンというジャンルに属する。ほかにも「ダイハツ・ムーヴ」「ホンダN-WGN」などが居並ぶ激戦区だ。最近はさらに背の高いスーパーハイトワゴンが主流になっているものの、根強い人気を持つ。大きな自転車を積まなければならないといった事情がなければ、十分なスペースが確保されている。広さと実用性、運転のしやすさなどの条件をバランスよく満たすのがハイトワゴンだろう。

試乗車はターボエンジンを搭載する4WDモデル。最上級グレードであり、車両本体価格176万5800円といういいお値段である。もろもろのオプションを加えると230万円超。ハイトワゴンの上級バージョンは、今やそういう価格帯のクルマなのだ。登録車のコンパクトカーとがっぷり四つで勝負しなければならない。内外装の質感が高いのは当然だ。

試乗車は2トーン仕様で、アイボリーとオレンジメタリックの組み合わせがオシャレ感を漂わせる。モノトーンと合わせて11種類のボディーカラーが用意され、フロントとリアのガーニッシュは3種類あって選択の幅は広い。2トーンの境目はきれいに塗り分けられていて、テールゲートの裏側などの隠れた部分もしっかり塗装されている。価格の安さが売りの軽自動車とは別格だ。

試乗車にはオプションの「プレミアムインテリアパッケージ」が選ばれていて、インテリアは合成皮革とファブリックでコーディネート。ちょっとレトロ感覚なストライプ柄シートは、汚れが目立たず実用的だ。助手席ドアトリムの車検証入れはアイデア賞である。取説と一緒にグローブボックスに入っていると、本当にジャマなのだ。うまく逃げ場所を見つけたおかげでグローブボックスは2段となり、上部にはボックスティッシュが入る。

従来は副変速機を備えたコンパクトカーと共用可能なCVTを搭載していたが、新型では新開発の軽自動車専用CVTを採用。コンパクトかつ軽量で、変速比幅が軽に最適化されているのが強みだ。
従来は副変速機を備えたコンパクトカーと共用可能なCVTを搭載していたが、新型では新開発の軽自動車専用CVTを採用。コンパクトかつ軽量で、変速比幅が軽に最適化されているのが強みだ。
インストゥルメントパネルのデザインコンセプトは「ホリゾンタルアクシス」。水平基調のすっきりとした形状で、良好な前方視界を目指した。
インストゥルメントパネルのデザインコンセプトは「ホリゾンタルアクシス」。水平基調のすっきりとした形状で、良好な前方視界を目指した。
テスト車にはオプションの「プレミアムインテリアパッケージ」が装着されていた。インパネなどの随所がブラックとタンのカラーコーディネートとなるほか、シートのファブリックがストライプパターンになる。
テスト車にはオプションの「プレミアムインテリアパッケージ」が装着されていた。インパネなどの随所がブラックとタンのカラーコーディネートとなるほか、シートのファブリックがストライプパターンになる。
リアシートは前後スライド(左右一緒)とリクライニング(左右個別)が可能。写真は最も後ろにスライドさせたところで、ひざまわりの空間はご覧の通りの広さ。
リアシートは前後スライド(左右一緒)とリクライニング(左右個別)が可能。写真は最も後ろにスライドさせたところで、ひざまわりの空間はご覧の通りの広さ。

地味に働くマイルドハイブリッド

「eKクロス」には全車に最高出力2.7ps、最大トルク40Nmのモーターによるマイルドハイブリッドシステムが搭載されている。加速時にモーターが駆動力をアシストする(最大30秒間)。
「eKクロス」には全車に最高出力2.7ps、最大トルク40Nmのモーターによるマイルドハイブリッドシステムが搭載されている。加速時にモーターが駆動力をアシストする(最大30秒間)。
リング部分の立体感にこだわったというメーターパネル。写真は中央のマルチインフォメーションディスプレイにエネルギーモニターを表示したところ。
リング部分の立体感にこだわったというメーターパネル。写真は中央のマルチインフォメーションディスプレイにエネルギーモニターを表示したところ。
「T」グレードでは本革巻きのステアリングホイールが標準。右側のスポークには「マイパイロット」の操作スイッチが備わっている。
「T」グレードでは本革巻きのステアリングホイールが標準。右側のスポークには「マイパイロット」の操作スイッチが備わっている。
アクセルペダルを前方ではなく下に向かってストロークする構造とすることで、つま先だけでなく足全体を使って踏み込めるようになっている。
アクセルペダルを前方ではなく下に向かってストロークする構造とすることで、つま先だけでなく足全体を使って踏み込めるようになっている。
eKクロスには、ターボでも自然吸気でも、パワートレインにはマイルドハイブリッドシステムが付属している。減速時に発電したエネルギーを運転席下に設置したリチウムイオンバッテリーにため、加速時にモーターでアシスト。ただしバッテリーもモーターも小さいので、効果は限定的だ。強力な加速を体感するようなことはなかった。エネルギーモニターを見ていると、電力の出入りが激しい。裏で地味に燃費向上の役に立っているのだろう。

モーターの大きな協力が得られるわけではないので、動力性能は驚くほどのものではない。必要にして十分ではあるが、発進加速も中間加速も平均的である。それでも運転していて気持ちがいいのは、ボディーの剛性感が高いからだ。しっかりしていて、乗り心地は硬め。ちょっとドイツ車っぽい感触もある。ワインディングロードをキビキビと走れる安心感が感じられた。スーパーハイトワゴンに対するアドバンテージだろう。

フロントスクリーンが寝ているのも大きな違いである。スーパーハイトワゴンはこれを立たせているから、ドライバーからとても遠い。前に広がる空間が広すぎて、1人で乗っていると寂しい気持ちになる。空力的にも不利な気がするが、どのメーカーも同じような箱型にしているので意味のある造形なのだろう。eKクロスはフロントスクリーンが寝ているせいなのか、風切り音が小さかった。路面の悪いところではロードノイズが気になったが、これはエコタイヤのせいかもしれない。

eKクロスには全車に「e-Assist」と名付けられた運転支援システムが標準装備されている。衝突被害軽減ブレーキや踏み間違い衝突防止アシストなどをセットにしたもので、軽自動車でもこれらの装備はもはや必須と考えられているようだ。さらに、高速道路での同一車線運転支援技術「マイパイロット」がオプション設定されている。アダプティブクルーズコントロール(ACC)と車線維持支援機能を組み合わせたもので、日産の「プロパイロット」と同じである。

「eKクロス」には全車に最高出力2.7ps、最大トルク40Nmのモーターによるマイルドハイブリッドシステムが搭載されている。加速時にモーターが駆動力をアシストする(最大30秒間)。
「eKクロス」には全車に最高出力2.7ps、最大トルク40Nmのモーターによるマイルドハイブリッドシステムが搭載されている。加速時にモーターが駆動力をアシストする(最大30秒間)。
リング部分の立体感にこだわったというメーターパネル。写真は中央のマルチインフォメーションディスプレイにエネルギーモニターを表示したところ。
リング部分の立体感にこだわったというメーターパネル。写真は中央のマルチインフォメーションディスプレイにエネルギーモニターを表示したところ。
「T」グレードでは本革巻きのステアリングホイールが標準。右側のスポークには「マイパイロット」の操作スイッチが備わっている。
「T」グレードでは本革巻きのステアリングホイールが標準。右側のスポークには「マイパイロット」の操作スイッチが備わっている。
アクセルペダルを前方ではなく下に向かってストロークする構造とすることで、つま先だけでなく足全体を使って踏み込めるようになっている。
アクセルペダルを前方ではなく下に向かってストロークする構造とすることで、つま先だけでなく足全体を使って踏み込めるようになっている。

上出来なマイパイロット

「マイパイロット」の設定可能速度は100km/hまで。先行車に追従しての停止にも対応するほか、停止から3秒以内であれば自動で再発進もしてくれる。
「マイパイロット」の設定可能速度は100km/hまで。先行車に追従しての停止にも対応するほか、停止から3秒以内であれば自動で再発進もしてくれる。
めったに使用しない車検証ケースはドアパネルの専用ポケットに収納できる。もちろんふたが付いている。
めったに使用しない車検証ケースはドアパネルの専用ポケットに収納できる。もちろんふたが付いている。
車検証ケースを別に収納したことで、上下2段のグローブボックスが自由に使える。上側はボックスティッシュがぴったりと収まるサイズ。
車検証ケースを別に収納したことで、上下2段のグローブボックスが自由に使える。上側はボックスティッシュがぴったりと収まるサイズ。
後席のスライドや背もたれの折りたたみは荷室側からでも行えるようになっている。
後席のスライドや背もたれの折りたたみは荷室側からでも行えるようになっている。
マイパイロットの使用方法は、もちろんプロパイロットと同じ。ステアリングホイールに備えられたスイッチを使い、速度と車間距離を設定すればすぐにスタートする。軽自動車ではホンダの「Nシリーズ」が先行していたが、マイパイロット/プロパイロットには後発ならではのアドバンテージがある。NシリーズのACCが約35km/h以上の速度でなければ使えないのに対し、前走車に合わせて停止もできるのだ。渋滞の中でも利用できるわけで、この違いは大きい。

これまでに何度か「日産セレナ」のプロパイロットを試したが、正直言って期待はずれだった。レーンキープの精度が低く、ステアリング操作がぎこちなかったからである。eKクロスのマイパイロットは記憶の中のプロパイロットをはるかにしのいでいた。

ステアリング操作はスムーズで、前車に追随する動きも素早い。車線から外れそうになった時のアシストは強引なほどで、ここでもドイツ車的な印象を持った。プロパイロットがこの1年の間に進化したのか、それともミニバンより軽自動車との相性がいいのかはわからない。とにかく、きちんと使えるレベルになっていたのは確かである。

eKクロスの後席シートは、前端の角度がゆるやかになっていて膝裏に当たらない形状になっていた。リクライニングした時に楽な姿勢をとれるようにするための工夫である。デザインばかりが注目されてしまうが、ディテールに細やかな配慮が行き届いているのだ。いろいろあったが、日産と三菱が誠実につくった実直でマジメなクルマである。カスタム顔に飽きてしまった人には有力な選択肢になるだろう。

(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

「マイパイロット」の設定可能速度は100km/hまで。先行車に追従しての停止にも対応するほか、停止から3秒以内であれば自動で再発進もしてくれる。
「マイパイロット」の設定可能速度は100km/hまで。先行車に追従しての停止にも対応するほか、停止から3秒以内であれば自動で再発進もしてくれる。
めったに使用しない車検証ケースはドアパネルの専用ポケットに収納できる。もちろんふたが付いている。
めったに使用しない車検証ケースはドアパネルの専用ポケットに収納できる。もちろんふたが付いている。
車検証ケースを別に収納したことで、上下2段のグローブボックスが自由に使える。上側はボックスティッシュがぴったりと収まるサイズ。
車検証ケースを別に収納したことで、上下2段のグローブボックスが自由に使える。上側はボックスティッシュがぴったりと収まるサイズ。
後席のスライドや背もたれの折りたたみは荷室側からでも行えるようになっている。
後席のスライドや背もたれの折りたたみは荷室側からでも行えるようになっている。

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