【試乗記】ルノー・トゥインゴS(RR/5MT)

ルノー・トゥインゴS(RR/5MT)
ルノー・トゥインゴS(RR/5MT)

ザ・スタンダード

ルノーのコンパクトカー「トゥインゴ」には、売れ筋のAT車以外にMT車もラインナップされている。マイナーかつマニアックなモデルなのは確かだが、せっせとレバーを操作して走らせたなら、誰でも笑顔になるだろう。

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2014年にRR(リアエンジン・リアドライブ)の小型車としてデビューした3代目「トゥインゴ」。国内では、2019年8月からマイナーチェンジ版が発売され、2020年2月にはMT車「トゥインゴS」が追加された。
2014年にRR(リアエンジン・リアドライブ)の小型車としてデビューした3代目「トゥインゴ」。国内では、2019年8月からマイナーチェンジ版が発売され、2020年2月にはMT車「トゥインゴS」が追加された。
人間工学に基づき視認性のよさが追求されたコックピット。ホワイトのトリムが目を引く。
人間工学に基づき視認性のよさが追求されたコックピット。ホワイトのトリムが目を引く。
「トゥインゴS」のキモとなる5段MTのシフトレバー。シフトパターンはオーソドックスだが、滑り止めの装飾を施すなどノブのデザインは凝っている。
「トゥインゴS」のキモとなる5段MTのシフトレバー。シフトパターンはオーソドックスだが、滑り止めの装飾を施すなどノブのデザインは凝っている。
試乗車を預かってからすぐ首都高速に乗った。中央道に向かう4号新宿線。代々木のカーブのあたりはちょっとしたワインディングロードで、マニュアルのトゥインゴは早くも真骨頂を見せてくれる。

5速トップから4速にシフトダウン。最後の90度左カーブでは回転を合わせて3速まで落とす。前を走っているプリウスはブレーキランプを光らせているだけだが、こっちはいろいろやることがあって忙しい。それをいとわず「楽しい」と思える人のクルマがマニュアル(MT)だ。

最近、たまーにMT車の試乗があると、走り始めてすぐ、「うわッ、おそ!」と思うことがある。すぐに気づく。そうだ、自分でシフトアップするんだった! アクセルを踏めば無限に加速してゆくATに体がすっかりなじんで(ナマって)いるわけである。しかもATは日進月歩でどんどん速くなり、MTはどんどん置き去りにされてゆく。そんな現存MTモデルのなかでも、「トゥインゴS」は最もマニュアル度の高いクルマだと思う。

2014年にRR(リアエンジン・リアドライブ)の小型車としてデビューした3代目「トゥインゴ」。国内では、2019年8月からマイナーチェンジ版が発売され、2020年2月にはMT車「トゥインゴS」が追加された。
2014年にRR(リアエンジン・リアドライブ)の小型車としてデビューした3代目「トゥインゴ」。国内では、2019年8月からマイナーチェンジ版が発売され、2020年2月にはMT車「トゥインゴS」が追加された。
人間工学に基づき視認性のよさが追求されたコックピット。ホワイトのトリムが目を引く。
人間工学に基づき視認性のよさが追求されたコックピット。ホワイトのトリムが目を引く。
「トゥインゴS」のキモとなる5段MTのシフトレバー。シフトパターンはオーソドックスだが、滑り止めの装飾を施すなどノブのデザインは凝っている。
「トゥインゴS」のキモとなる5段MTのシフトレバー。シフトパターンはオーソドックスだが、滑り止めの装飾を施すなどノブのデザインは凝っている。

初心者にもやさしいMT車

前後オーバーハングの短さが際立つサイドビュー。リアフェンダー部には、後部のエンジンに空気を供給するためのエアダクトが設けられている。
前後オーバーハングの短さが際立つサイドビュー。リアフェンダー部には、後部のエンジンに空気を供給するためのエアダクトが設けられている。
ヘッドレスト一体型のシート。シンプルかつスポーティーなデザインだ。
ヘッドレスト一体型のシート。シンプルかつスポーティーなデザインだ。
インフォテインメント用のモニターは7インチサイズ。スマートフォンと連携できるApple CarPlayやAndroid Autoにも対応している。
インフォテインメント用のモニターは7インチサイズ。スマートフォンと連携できるApple CarPlayやAndroid Autoにも対応している。
センターコンソールの小物入れスペースにはUSBのコネクターが2つ。AUXのソケットも備わる。
センターコンソールの小物入れスペースにはUSBのコネクターが2つ。AUXのソケットも備わる。
5段MTを備えるベーシックトゥインゴがS(179万円)である。日本だと販売の8割以上を占める2ペダルモデル(デュアルクラッチ式6段自動MT)は3気筒897ccターボだが、こちらは自然吸気の3気筒997cc。エンジンから違うので、売れ筋の「EDC」より20万円以上安い。以前あった「ゼン」を引き継ぐエントリーモデルである。

897ccターボ+5MTの「GT」は2019年のマイナーチェンジで生産終了となり、日本での在庫もなくなったという。それに代わってSを品ぞろえするのはMTユーザーフレンドリーなルノー・ジャポンならではだろう。

いまのMT車はギアの位置にかかわらずクラッチペダルを最奥部まで踏み込まないとエンジンがかからないが、ルノーはNに入っていればクラッチを踏まなくても始動する。勾配路でブレーキペダルから足を離しても、数秒間、制動力を維持してくれる坂道発進アシスト機構が付いている。仮にエンストさせてもすぐにクラッチを踏み込めば再始動する。これも最近のMT車では一般的だが、何秒かのタイマーを入れているクルマも多いなか、トゥインゴはエンストさせてから2分くらい放っておいてもかかった。

クラッチペダルは軽い。シフトリンケージはリアのエンジンルームまで長い旅をするから、シフトタッチはややモゾモゾしているが、レバーの操作感は軽い。アクセルとブレーキペダルの段差が小さいので、ヒール&トーはとてもやりやすい。右ハンドル化された欧州コンパクトカーにありがちなペダルのオフセットはなく、自然なドライビングポジションがとれる。MT初心者にやさしいMT車である。

前後オーバーハングの短さが際立つサイドビュー。リアフェンダー部には、後部のエンジンに空気を供給するためのエアダクトが設けられている。
前後オーバーハングの短さが際立つサイドビュー。リアフェンダー部には、後部のエンジンに空気を供給するためのエアダクトが設けられている。
ヘッドレスト一体型のシート。シンプルかつスポーティーなデザインだ。
ヘッドレスト一体型のシート。シンプルかつスポーティーなデザインだ。
インフォテインメント用のモニターは7インチサイズ。スマートフォンと連携できるApple CarPlayやAndroid Autoにも対応している。
インフォテインメント用のモニターは7インチサイズ。スマートフォンと連携できるApple CarPlayやAndroid Autoにも対応している。
センターコンソールの小物入れスペースにはUSBのコネクターが2つ。AUXのソケットも備わる。
センターコンソールの小物入れスペースにはUSBのコネクターが2つ。AUXのソケットも備わる。

変速行為に集中せよ!

WLTCモードの燃費値は19.3km/リッター。ターボ車の「トゥインゴEDC」(同16.8km/リッター)に比べ15%ほど良好な値となっている。
WLTCモードの燃費値は19.3km/リッター。ターボ車の「トゥインゴEDC」(同16.8km/リッター)に比べ15%ほど良好な値となっている。
オレンジの色調が特徴的なメーターパネル。大きな速度計の内側にマルチインフォメーションディスプレイがレイアウトされている。
オレンジの色調が特徴的なメーターパネル。大きな速度計の内側にマルチインフォメーションディスプレイがレイアウトされている。
エンジンは車体後端、荷室下に横置きされる。エンジンフードはワンタッチで開く形式ではなく、留め具で固定されている。
エンジンは車体後端、荷室下に横置きされる。エンジンフードはワンタッチで開く形式ではなく、留め具で固定されている。
荷室の容量は174~980リッター。後席だけでなく助手席の背もたれも倒せば、最長2315mmの長尺物が積載できるようになる。
荷室の容量は174~980リッター。後席だけでなく助手席の背もたれも倒せば、最長2315mmの長尺物が積載できるようになる。
以前のゼンもそうだったが、997ccノンターボのトゥインゴは非力である。897ccターボモデルの最高出力が93PSであるのに対して、こちらは73PS。タコメーターはないから回転数はわからないが、適切な変速で常にエンジンのおいしいところを紡ぎ出さないと、加速はカッタルイ。

高速道路でも、100km/h付近から十分な追い越し加速を得るには、5速トップから回転を合わせて3速へ落とすのがマストである。しかしそうやってフランス人のようにシフトすれば、どこでも過不足なく気持ちよく走れる。最初に「MT車のなかでもマニュアル度が高い」と書いたのはそういう意味だ。変速操作に一意専心することを求められるMT車なのである。

車重は950kg。重量税は軽自動車に次いで安い。897ccターボのEDCより70kg軽いキャラクターは、走っていても実感できる。非力だが、動きは軽いのだ。軽くても、足まわりやボディーにしっかりした剛性を感じるから、品質感は高い。トラクションでRRを意識するほどのパワーはないものの、どんなにエンジンを回してもうるさくないのはリアエンジンのいいところだ。

WLTCモードの燃費値は19.3km/リッター。ターボ車の「トゥインゴEDC」(同16.8km/リッター)に比べ15%ほど良好な値となっている。
WLTCモードの燃費値は19.3km/リッター。ターボ車の「トゥインゴEDC」(同16.8km/リッター)に比べ15%ほど良好な値となっている。
オレンジの色調が特徴的なメーターパネル。大きな速度計の内側にマルチインフォメーションディスプレイがレイアウトされている。
オレンジの色調が特徴的なメーターパネル。大きな速度計の内側にマルチインフォメーションディスプレイがレイアウトされている。
エンジンは車体後端、荷室下に横置きされる。エンジンフードはワンタッチで開く形式ではなく、留め具で固定されている。
エンジンは車体後端、荷室下に横置きされる。エンジンフードはワンタッチで開く形式ではなく、留め具で固定されている。
荷室の容量は174~980リッター。後席だけでなく助手席の背もたれも倒せば、最長2315mmの長尺物が積載できるようになる。
荷室の容量は174~980リッター。後席だけでなく助手席の背もたれも倒せば、最長2315mmの長尺物が積載できるようになる。

経済性もなかなか

今回は240kmほどの距離を試乗。燃費は満タン法で16.0km/リッター、車載の燃費計で14.1km/リッターを記録した。
今回は240kmほどの距離を試乗。燃費は満タン法で16.0km/リッター、車載の燃費計で14.1km/リッターを記録した。
チルト機能付きの本革巻きステアリングホイール。スポーク部にはクルーズコントロールのスイッチが備わる。
チルト機能付きの本革巻きステアリングホイール。スポーク部にはクルーズコントロールのスイッチが備わる。
試乗車には「エクセプション」と名付けられたブラックのアルミホイールが装着されていた。価格は1台分で14万4200円。
試乗車には「エクセプション」と名付けられたブラックのアルミホイールが装着されていた。価格は1台分で14万4200円。
フロントにエンジンがないために大きな舵角が得られる「トゥインゴ」。最小回転半径4.3mという小回り性のよさも自慢だ。
フロントにエンジンがないために大きな舵角が得られる「トゥインゴ」。最小回転半径4.3mという小回り性のよさも自慢だ。
ベーシックモデルだから運転支援システムてんこ盛りというわけにはいかないが、70km/h以上で作動する車線逸脱警報が付いていた。この手はたいてい余計なお世話に感じることが多いのだが、高速域でのトゥインゴのスタビリティーは“矢のように直進する”ほどでもないので、これはあってもいい装備だと思った。

アダプティブではない、ただのクルーズコントロールも付いている。しかし、速度キープのために自動変速してくれるATと違って、MTのクルコンは使いでが限られる。というか、わざわざトゥインゴのMTを選ぶ人がクルコンをありがたがるとは思えない。

約240kmを走って、燃費は16.0km/リッター(満タン法)だった。ターボのEDCにはスピードの点でだいぶ差をつけられるが、燃費性能は健闘している。

ブラックのアルミホイールでやんちゃぶっているが、乗ってみるとスポーティーな演出はない。Sはスポーツではなく、スタンダードのSだ。日本にはまず入ってこない「実用ベーシックグレードのMTモデル」であるところがトゥインゴSの価値である。コロナで凍りついた町を走っていると、なぜかこのシンプルさが胸に沁みた。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)

今回は240kmほどの距離を試乗。燃費は満タン法で16.0km/リッター、車載の燃費計で14.1km/リッターを記録した。
今回は240kmほどの距離を試乗。燃費は満タン法で16.0km/リッター、車載の燃費計で14.1km/リッターを記録した。
チルト機能付きの本革巻きステアリングホイール。スポーク部にはクルーズコントロールのスイッチが備わる。
チルト機能付きの本革巻きステアリングホイール。スポーク部にはクルーズコントロールのスイッチが備わる。
試乗車には「エクセプション」と名付けられたブラックのアルミホイールが装着されていた。価格は1台分で14万4200円。
試乗車には「エクセプション」と名付けられたブラックのアルミホイールが装着されていた。価格は1台分で14万4200円。
フロントにエンジンがないために大きな舵角が得られる「トゥインゴ」。最小回転半径4.3mという小回り性のよさも自慢だ。
フロントにエンジンがないために大きな舵角が得られる「トゥインゴ」。最小回転半径4.3mという小回り性のよさも自慢だ。

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