【試乗記】トヨタ・ヤリスZ(FF/6MT)
- トヨタ・ヤリスZ(FF/6MT)
賢者はわずか4%
WRC参戦車のスポーツイメージを浸透させるべく「トヨタ・ヤリス」に設定されたというMTモデル。果たしてその実力は? 1.5リッター直3エンジン+6段MT搭載車をロングドライブに連れ出し、確かめてみた。
狙いはスポーツイメージの定着
ヤリスの1.5リッターシリーズには、CVT同様、MTが3グレード用意されている。しかも6段MT。なぜこんなにMTユーザーフレンドリーなのか。2020年2月の発表直後、開発スタッフに質問すると、「ヤリスだからです」とのこと。3代20年続いた「ヴィッツ」の名をヤリスに変えたのは、欧州での「ヤリスWRC」のスポーツイメージを日本でも定着させたいという意図が大きかったはずだ。その本気度を示したのが、フツーの国内ヤリスにもMT常備の品ぞろえだろう。
取扱説明書には1ページ半にわたってMTの解説がある。『①クラッチペダルをしっかり踏む。②シフトレバーを希望のシフト位置に入れる。③クラッチペダルから徐々に足を離す』。変速操作についてもさらりとそんな記述があるかと思えば、1=50、2=87、3=128、4=173と、1~4速各ギアの限界速度も記されている。
余談だが、7段MTの1速で100km/h近くまで出てしまう先代「シボレー・コルベット(C6)」のトリセツには『234km/h以上の時は4速ギアへ入れる』などという破天荒な記述があり、おかしかった。
今回試乗したヤリスのマニュアルは最上級グレードのZ(187万1000円)。同グレードのCVTより5万5000円安い。
取扱説明書には1ページ半にわたってMTの解説がある。『①クラッチペダルをしっかり踏む。②シフトレバーを希望のシフト位置に入れる。③クラッチペダルから徐々に足を離す』。変速操作についてもさらりとそんな記述があるかと思えば、1=50、2=87、3=128、4=173と、1~4速各ギアの限界速度も記されている。
余談だが、7段MTの1速で100km/h近くまで出てしまう先代「シボレー・コルベット(C6)」のトリセツには『234km/h以上の時は4速ギアへ入れる』などという破天荒な記述があり、おかしかった。
今回試乗したヤリスのマニュアルは最上級グレードのZ(187万1000円)。同グレードのCVTより5万5000円安い。
エンジンの表情がよくわかる
1リッターモデルは未経験だが、これまで1.5リッターはハイブリッドとガソリンエンジンのCVTに試乗している。結論を言うと、そこからのMTモデルは個人的にベストヤリスだと思う。
まずこの6段MTがいい。確実で軽いシフトフィールはいまの「ホンダ・シビック タイプR」に似ている。しかしクラッチペダルは軽い。ステアリングも軽い。高性能のヨロイを着ていないから、運転にストレスがまったくない。車重も1.5リッターヤリス最軽量で、1tちょうど。同グレードのCVTより20kg、ハイブリッドより90kg軽い。
新しい3気筒は素直な実用エンジンである。とくに快音を発したり、高回転がおいしかったりするわけではないものの、レッドゾーンの7000rpm手前まで回すと90km/h近くまでいく2速の伸びが気持ちいい。エンジンの表情がよくわかるのはMTならでは。「ワタシがエンジンを制御している」感が味わえるのもMTならでは。“MT車として楽しい、楽しめる”クルマである。
足まわりもベストチューンだと思う。ハイブリッドとCVTは乗り心地が想定外に硬く、荒れた舗装路や高速道路の継ぎ目などでは少なからず突き上げを食らった。新型プラットフォームの採用で旧ヴィッツより歴然とボディーの剛性感がアップしたのはいいのだが、乗り心地はちょっとやりすぎに思えた。そんなネガがこのMTモデルではほとんど感じられない。標準タイヤサイズは185/60R15だが、今回の試乗車も以前乗ったハイブリッド、CVTと同じオプションの185/55R16を履いていた。
まずこの6段MTがいい。確実で軽いシフトフィールはいまの「ホンダ・シビック タイプR」に似ている。しかしクラッチペダルは軽い。ステアリングも軽い。高性能のヨロイを着ていないから、運転にストレスがまったくない。車重も1.5リッターヤリス最軽量で、1tちょうど。同グレードのCVTより20kg、ハイブリッドより90kg軽い。
新しい3気筒は素直な実用エンジンである。とくに快音を発したり、高回転がおいしかったりするわけではないものの、レッドゾーンの7000rpm手前まで回すと90km/h近くまでいく2速の伸びが気持ちいい。エンジンの表情がよくわかるのはMTならでは。「ワタシがエンジンを制御している」感が味わえるのもMTならでは。“MT車として楽しい、楽しめる”クルマである。
足まわりもベストチューンだと思う。ハイブリッドとCVTは乗り心地が想定外に硬く、荒れた舗装路や高速道路の継ぎ目などでは少なからず突き上げを食らった。新型プラットフォームの採用で旧ヴィッツより歴然とボディーの剛性感がアップしたのはいいのだが、乗り心地はちょっとやりすぎに思えた。そんなネガがこのMTモデルではほとんど感じられない。標準タイヤサイズは185/60R15だが、今回の試乗車も以前乗ったハイブリッド、CVTと同じオプションの185/55R16を履いていた。
MTモデルでもACC付き
1.5リッターヤリスにはグレードを問わず予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense(トヨタセーフティ―センス)」が標準装備されている。「変速は自分でやります」のMTモデルでもレーダークルーズコントロール、レーントレーシングアシスト、オートマチックハイビームといった運転支援システムが最初から付いてくる。
レーダークルーズコントロールのスイッチはハンドルの右スポークに付いている。つい指が延びる位置だ。でも、自動変速をやってくれないMTに追従型のクルーズコントロールを付けて果たして意味があるのか。ためしに高速道路で右足フリー運転をやってみると、けっこう使えた。
6速トップで100km/hに設定すると、エンジン回転数は2600rpmを示す。遅いクルマに追いついて、たとえば80km/hあたりまで自動減速する。ウインカーを出してすいた追い越し車線に出れば、100km/hまで勝手に加速する。平たん路なら意外や6速のままでもちゃんと加速するのだ。
シフトダウンすればより強力にダッシュする。100km/h設定だと3速まで落とすことが可能で、シフトアップしないと5200rpmをキープしたまま100km/h巡航を続ける。そんな使い方をする人はいないだろうが、6段MTでもクルーズコントロールを有用な装備にしているのは、なによりこのエンジンが扱いやすいトルク特性の持ち主だからだろう。
トヨタのMTといえば、「カローラ スポーツ」には1.2リッター4気筒ターボの6段MTモデルがある。しかしあの組み合わせは低回転でのトルクがかなり細く、勾配のきつい峠道だとしばしば1速まで落としたくなった。そういう非力を感じさせる局面がヤリスのMTにはなかった。
レーダークルーズコントロールのスイッチはハンドルの右スポークに付いている。つい指が延びる位置だ。でも、自動変速をやってくれないMTに追従型のクルーズコントロールを付けて果たして意味があるのか。ためしに高速道路で右足フリー運転をやってみると、けっこう使えた。
6速トップで100km/hに設定すると、エンジン回転数は2600rpmを示す。遅いクルマに追いついて、たとえば80km/hあたりまで自動減速する。ウインカーを出してすいた追い越し車線に出れば、100km/hまで勝手に加速する。平たん路なら意外や6速のままでもちゃんと加速するのだ。
シフトダウンすればより強力にダッシュする。100km/h設定だと3速まで落とすことが可能で、シフトアップしないと5200rpmをキープしたまま100km/h巡航を続ける。そんな使い方をする人はいないだろうが、6段MTでもクルーズコントロールを有用な装備にしているのは、なによりこのエンジンが扱いやすいトルク特性の持ち主だからだろう。
トヨタのMTといえば、「カローラ スポーツ」には1.2リッター4気筒ターボの6段MTモデルがある。しかしあの組み合わせは低回転でのトルクがかなり細く、勾配のきつい峠道だとしばしば1速まで落としたくなった。そういう非力を感じさせる局面がヤリスのMTにはなかった。
ライバルにはない魅力
昔、MTのメリットのひとつはATより燃費がいいことだった。しかし最近のクルマは3ペダルより2ペダルのAT系のほうが好燃費である。ヤリスもカタログデータではCVTのほうがわずかに勝る。しかし今回400kmあまりを走って、実測燃費は17.7km/リッター(満タン法)。以前乗ったCVT(16.3km/リッター)よりよかった。
ヤリスは見た目も乗車感覚もこれまでのヴィッツよりスポーティーである。そのかわり、後席に旧ヴィッツほどの開放感はないし、開口部の狭いテールゲートで荷室の使い勝手も見劣りがする。逆に言うとそこまでやってスポーティーに振ったのだから、MTは大いにありだと思う。
しかし、現実は厳しい。導入当初はまず高付加価値モデルが売れるというセオリーがあるものの、発売以来、MTの販売比率はわずか4%だという。100台に4台。ベストヤリスなのになあ。
ヤリスのガチンコライバルはほぼ同時期に登場した新型「ホンダ・フィット」である。1台充足型のファミリーカーとしての偏差値はフィットのほうが高いが、でも、こんどのフィットにMTはない。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎/編集=櫻井健一/撮影協力=河口湖ステラシアター)
ヤリスは見た目も乗車感覚もこれまでのヴィッツよりスポーティーである。そのかわり、後席に旧ヴィッツほどの開放感はないし、開口部の狭いテールゲートで荷室の使い勝手も見劣りがする。逆に言うとそこまでやってスポーティーに振ったのだから、MTは大いにありだと思う。
しかし、現実は厳しい。導入当初はまず高付加価値モデルが売れるというセオリーがあるものの、発売以来、MTの販売比率はわずか4%だという。100台に4台。ベストヤリスなのになあ。
ヤリスのガチンコライバルはほぼ同時期に登場した新型「ホンダ・フィット」である。1台充足型のファミリーカーとしての偏差値はフィットのほうが高いが、でも、こんどのフィットにMTはない。
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