【試乗記】トヨタ・ヤリス クロス ハイブリッドZ/ヤリス クロス ハイブリッドG/ヤリス クロスG
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トヨタ・ヤリス クロス ハイブリッドZ(FF/CVT)/ヤリス クロス ハイブリッドG(4WD/CVT)/ヤリス クロスG(FF/CVT)
ウケない理由が見つからない
ウイークポイントはないのか?
一方、同年に行われた5代目へのフルチェンジを機に再度発売してみれば、当のトヨタも驚くヒットを飛ばす結果となったのが、一度は故郷である日本を捨てた(?)「RAV4」である。そして、その成功を号砲としたかのように、ライズに新型ハリアーにと次々投入されたSUVが、いずれも発売後早々にバックオーダーを抱えるヒット作となったことは、まだ記憶に新しい。
かくして、ほんの1年半ほど前までの「SUVは様子見」という状況に対して、まるで“手のひら返し”のように次々と送り出されているのが、昨今のトヨタのSUV群。その中にあって、最新作であり最大のヒットが確実と目されるのが、ヤリス クロスである。
FF車では180万円切り、4WD車でも200万円そこそこということさらの廉価ぶりをアピールするグレードを除けば、クラスの常識を覆す内容を並べる予防安全パッケージを標準で装備し、ハイブリッドモデルにも後輪をモーター駆動する4WD仕様を設定。さらに、ディスプレイオーディオと通信モジュール(DCM)も標準装備することで、最新の“つながるクルマ”としての機能も怠りないことをアピールする。
日産が、久々の新型車である「キックス」で話題を集めた直後だが、ホイールベースや全長がひとまわり大きいとはいえ、比較されればバリエーションの豊富さや燃費のデータ、そして何よりも価格面から「ヤリス クロスの敵にはなり得ない」というのが、大方の見方であろう。
かくも盤石の構えで登場となったように思えるヤリス クロス。しかし、そこに果たしてウイークポイントはないのであろうか?
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トヨタのシティー派クロスオーバー「ヤリス クロス」は、コンパクトハッチバック「ヤリス」をベースに開発された新型車。2020年8月31日に国内販売を開始している。
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エクステリアのデザインキーワードは「ENERGETIC SMART(エナジェティックスマート)」。SUVとしてのロバスト(頑強性)と利便性などをミニマルに表現したという。
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先に発売された「ヤリス」の姉妹車という位置付けの「ヤリス クロス」だが、ボディーはひとまわり大きく、独自のエクステリアデザインが採用されている。
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「ヤリス クロス」ではSUVとしての走破性をアップするために、駆動方式にかかわらず最低地上高が170mmに設定されている。
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インストゥルメントパネルの基本デザインは「ヤリス」に準じたものだが、縦方向にアクセントを加えたセンターコンソールにするなど、差異化も行われている。
ヤリスと比べてしまうと
最初に1時間のテストドライブへと出かけたのは、「Z」グレードの4WD車。純エンジンモデルでは最上級となるモデルで、ヤリスを30万円余り上回る車両価格は、244万1000円の設定だ。
会場を出発の後、5分ほどの市街地走行を経て最寄りの入り口から首都高へ。と、この段階でまず感じさせられた走りの第一印象は、実は「カタくてうるさいクルマだな……」というものであった。
ヤリス クロスに用いられたランニングコンポーネンツが、ヤリスをベースとしたものであることはもちろん承知している。そして、そんなヤリスに対する当方の評価は、「このクラスとしては、世界的にもトップランクの高い走りの質感の持ち主」というものだったのだ。なかでも、クルージングシーンでのフラット感の高さなどは、“圧巻”と評しても過言ではない秀逸さ。それをベースに開発されたヤリス クロスへの期待値が、相当に高いものとなったことは当然だろう。
ところが、「比べるとちょっと精彩を欠いてしまうナ」というのが、ヤリス クロスに対する率直な印象。そもそも、必要にして十分な力強さが感じられたヤリスに比べると、動力性能は劣勢と言わざるを得ないものだった。
冷静に考えてみれば、大型化したボディーに加え4WD車であったことから、FF車で乗った同じパワーパックのヤリスとでは200kgもの重量差がある。さらに、かくも重くなったボディーと高まった重心高をカバーするサスペンションが与えられ、無理やりに(?)大径化されたシューズを履くとなれば、走りのフィーリングが“良いほう”に向かうはずがないのも納得である。
さらに、重くなったボディーに同等の加速感を求めようとアクセルペダルをより深く踏み込めば、CVTが高いエンジン回転数までを常用するようになり、ノイズ面で厳しくなることも自明。かくして、ヤリスに比べると「カタくてうるさい」と感じられるのも道理……なのは確かなのだが。
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「ヤリス クロス」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4180×1765×1560mm、ホイールベースは2560mm。写真は「ハイブリッドZ」(FF車)グレードで、車重は1190kgとなっている。
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「ハイブリッドZ」グレードは、7インチ液晶+オプティトロンメーターを標準装備。写真は「エコジャッジ」と呼ばれる、燃費面から走行状況が分析・判定されるモードを表示した様子。
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ブラウン系のカラーを用いた合皮とツイード調ファブリックのコンビネーションシートは、「ハイブリッドZ」および「Z」グレードの専用アイテム。前席はヒーター機能を内蔵し、運転席には電動調整機構も備わっている。
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トヨタのコンパクトSUVでは初採用となる4:2:4の3分割可倒式後席バックレストを「G」グレード以上のモデルに標準装備。多彩なシートアレンジが行えるのも「ヤリス クロス」のセリングポイントである。
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今回試乗した「ヤリス クロス ハイブリッドZ」のタイヤは215/50R18サイズの「ダンロップ・エナセーブEC300+」。同グレードには、写真の切削光輝+センターオーナメント付き18インチホイールが標準装備される。
ライバルに対する圧倒的な競合力
実際、このモデルの走りは、なかなかの好印象を抱くことができるものだった。
例によって“ほとんど無音”で始まる発進加速のシーンは、ヤリスほどではないもののそれなりに力強く、スムーズにして軽快。路面凹凸を拾った後のボディー振動の収まりに余韻が残り、少々ウエット感の強い乗り味ではあるものの、4WD仕様の純エンジン車に比べればフラット感も大幅向上。「クラスを超えた上質さ!」と驚嘆だったヤリスに比べるとそこまでではないが、この仕上がりならば十分称賛に値すると思えたのもまた事実であった。
ちなみに、50kmほどの走行距離のうち8割ほどを流れの良い首都高で過ごした後の平均燃費計のデータは、25km/リッターほど。同様のパターンであれば、恐らく30km/リッターはシレッとマークするであろう同パワーパック搭載のヤリスに比べれば、これもまた「劣化はそれなり」ということにはなるわけだが、ライバル勢と比較した際にはどうなのかと問われれば、「圧倒的な競争力を有している」と紹介できる。燃費のみならず運動性能も確実に上回るのだから、やはりこちらがオススメのパワーユニットなのである。
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「ヤリス クロス」のサスペンションはフロントがストラット式、リアが搭載パワーユニットにかかわらずFF車はトーションビーム式、4WD車はダブルウイッシュボーン式となる。
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ハイブリッドパワーユニットを搭載する「ヤリス クロス ハイブリッドZ」のエンジンルーム。最高出力91PSの1.5リッター直3エンジンに、最高出力80PSの電気モーターを組み合わせている。
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オーディオ機能とスマホ連携機能を内蔵するディスプレイオーディオを全車に標準装備。「G」グレード以上のモデルでは画面が8インチ(写真)、それ以外のモデルでは同7インチのアイテムとなる。
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4WD車では搭載パワーユニットにかかわらず、走行モード切り替えスイッチをシフトレバー手前に配置している。写真は「NORMAL」「SNOW」「TRAIL」の3つのモードが用意されるハイブリッド「E-Four」車用のスイッチ。
多くの人との親和性が高い
今回、試乗会場内に特設されたモーグル路やキャンバー路において、ハイブリッドと純エンジンの2種類の4WD車で、スタック状態からの脱出体験もできた。ヤリス クロスに与えられた“脱出デバイス”は、コンソール部にあるスイッチ操作で起動。浮き上がって空転する車輪をブレーキ制御し、接地状態にある車輪に新たな駆動力を発生させ脱出を図るという考え方が基本となる。
試乗車に合わせてレイアウトされた路面だけに容易に脱出できたのは当然ながら、最低地上高は170mmと、実際にもそれなりのオフロード性能が確保されているはず。ちなみにFF車でも最低地上高は同様だから、わだち路面への対応能力はこちらも高いことになる。
ホイールベースはヤリスと同じ2560mm。ヤリス クロスも後席のニースペースはタイトだが、それでも居住性としてはグンと上を行くように感じられたのは、アップライトな着座姿勢で行儀よく座るゆえ。荷室は後席使用時でもゴルフバッグ2組が横置きで重ねて積め、大型のスーツケース2つが平積み可能。さらに、上級グレードではリアのシートバックに4:2:4の分割可倒機構が備わり、大人4人が乗車した上でスキー板のような細身の長尺物が室内に搭載できる……など、そのユーティリティー性がヤリスとは比較にならない高さであるというのもポイントである。この先ヨーロッパのマーケットでも大きな強みになっていくことは間違いナシだ。
確かに走りの質感という点ではヤリス クロス全般において、それが際立つ高さにあった“普通のヤリス”ほどの驚きはなかったというのが率直な印象だった。しかし、今の時代にどちらが「より多くの人の心に刺さるモデルなのか?」と問われれば、もはや答えは明確だろう。サイズに価格、そしてその内容……と、どこをとっても非の打ちようのない、ヒットしない理由が見当たらないヤリス クロスなのである。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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滑りやすい路面を想定したローラーにオンデマンド式四駆システム「ダイナミックコントロール4WD」を搭載する「ヤリス クロスG」を乗せ、走行モードの違いにおける挙動を確認。「NORMAL」モードでは右側前後2輪が空転しスタック状態に陥るが、「ROCK&DIRT」モードを作動させるとローラー上で空転する車輪に自動でブレーキがかかり、同時に反対側の前後輪にトルクが集中。容易に脱出が図れた。
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「ヤリス クロス ハイブリッドZ」(4WD車)で不整地での対角線スタックを想定した走行を体験。片輪が大きく浮くような状態でも「TRAIL」モードを用いれば、接地するタイヤに最適な駆動トルクが配分され、スムーズに脱出することができる。
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FF車は、荷室床面の高さを分割し2段階で調整できる「6:4分割アジャスタブルデッキボード」を標準装備。写真は左側の床面を外した様子。
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ガソリンエンジンのFF車における荷室容量は、5人乗車の通常使用時で390リッター。後席の背もたれを前方に倒せば、簡単に荷室を拡大できる。
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「ヤリス クロス ハイブリッドZ」(FF車)の燃費値は、JC08モードが31.3km/リッター、WLTCモードが27.8km/リッターと発表されている。
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