【試乗記】アウディRS 7スポーツバック(4WD/8AT)
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アウディRS 7スポーツバック(4WD/8AT)
こう見えて実は硬派
こだわりのシャシー
例えば「RS 4アバント」と「RS 5クーペ」はハードウエアの多くを共有するが、前者は乗り心地が望外に快適でファミリーユースにも適している。後者はサスペンションが引き締まったフィーリングで、よりスポーティーなドライビングを楽しむモデルといった仕上がりだ。
では、日本上陸を果たしたばかりの2代目RS 7スポーツバックはどうなのだろう? クーペのスポーティー&エレガンス、セダンの快適性、ステーションワゴンの実用性を兼ね備えるのがスポーツバックだから、さぞかしバランス志向なのだろうと予想していたが、それは少し外れた。乗り心地がやや硬めで、思っていたより硬派だったのだ。
その要因は、今回の試乗車が「DRC(ダイナミックライドコントロール)付きRSスポーツサスペンションプラス」と285/30R22サイズのタイヤといったオプションアイテムを装着していたことにある。RS 7スポーツバックは車高やダンピングを自動制御する「RSアダプティブエアサスペンション」が標準装備となっているが、ぜいたくにもそれを外してコンベンショナルな金属スプリングに変更している。
DRCは、対角線上に配置されたダンパーがオイルラインで連結され、中央のバルブがダンピングをコントロール。例えば右コーナーでは、左フロントが沈み込み、対角線上の右リアが伸びていくが、その動きを制御することで姿勢を適正に保ち、タイヤの能力を引き出すという。
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2020年11月28日に導入が発表された2代目「RS 7スポーツバック」。他のRSモデルと同じく、アウディのハイパフォーマンスモデルを手がける子会社、アウディスポーツ(旧クワトロ社)が開発を担当した。車両本体価格は1799万円。
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「A7スポーツバック」をベースに50mm拡大されたワイドデザインのフロントフェンダーを採用。RS専用となるダークベゼルのレーザーハイビーム付きマトリクスLEDヘッドライトや大型シングルフレームグリルなどとともに、フロントまわりはアグレッシブな印象に仕立てられている。
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左右のテールランプがライトストリップでつながる、「RS 7スポーツバック」の特徴的なリアデザイン。今回の試乗車は、オプションの「カーボン/グロスブラックパッケージ」で外装が引き締められていた。
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試乗車のホイールはオプションの22インチ「5Vスポーク」で、タイヤは285/30ZR22の「ピレリPゼロ」が組み合わされていた。「セラミックブレーキ+ブルーブレーキキャリパー」も同じくオプションとなるアイテム。
徹底した燃費改善策
しかし、ここまで大きな入力があるのは日本特有の事象。欧州にはほとんどこうしたシチュエーションがないので、輸入スポーティーカーにとっては苦手な分野であることも事実だ。もっとも、突起の鋭い目地段差以外なら、それほどスポーツカー好きでない人でも許容範囲の乗り心地だろう。
いっぽう、RS 7スポーツバックの大きな魅力といえるのがパワートレインだ。4リッターV8ツインターボは最高出力600PS/6000-6250rpm、最大トルク800N・m/2050-4500rpmで、アウディRSのなかでも最高峰。従来モデルに比べるとやや高回転寄りになってパフォーマンスが高まっているが、48V電源のマイルドハイブリッド(MHEV)が組み合わされたことが奏功しているのだろう、MHEVのなかでは比較的強力なモーターがエンジンの低回転域をアシストしており、全速度域で不満のない走りが味わえる。
とはいえ、MHEVの主眼は燃費の改善にある。BAS(ベルト駆動式オルタネータースターター)は最大12kWのエネルギー回生が可能で、その駆動力を生かして55〜160km/hという幅広い領域でコースティング(惰性走行)を実現している。
低負荷時に4気筒を停止するCOD(シリンダーオンデマンド)と合わせ、ハイパフォーマンスカーでも燃費性能に配慮するのはアウディの常で、いまに始まったことではない。BASはアイドリングストップとの相性がよく、22km/h以下になれば素早くエンジンを停止して効率を追求するとともに、再始動は通常のスターターよりもスムーズで快適。走行フィールの向上にもつながっている。
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「Efficiency(エフィシェンシー)」「Comfort(コンフォート)」「Auto(オート)」「Dynamic(ダイナミック)」という4つの走行モードが切り替えられる「アウディドライブセレクト」を採用。これとは別に、好みのドライブトレインやサスペンションのセッティングをあらかじめ2種類設定し、ステアリングスポークの「RS MODE」スイッチで呼び出すこともできる。
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「RS 7スポーツバック」のフロントに縦置きされる4リッターV8ツインターボエンジンは最高出力600PS、最大トルク800N・mを発生。48Vマイルドハイブリッドやシリンダーオンデマンドと呼ばれる気筒休止機構の採用により、パフォーマンスと環境性能の両立が図られている。
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整然としたインストゥルメントパネルのデザインは、基本的にベースとなる「A7スポーツバック」と同じもの。メーター部分に1つ、センターコンソールに2つ液晶ディスプレイが配置されている。
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トランクリッドと一体化されたデザインの可動式リアスポイラーを標準装備。130km/h以上での走行時に自動展開するほか、スイッチ操作で任意に作動させることもできる。
加速力はスーパースポーツ並み
それも緩加速ではなく、けっこうグイグイとくるぐらい速い。おかげで一般的な走行でのエンジンサウンドは静かで、遠くのほうでルルルッと聞こえるぐらいに抑えられている。反対に、せっかくアウディRSに乗っているのにと、寂しく思えてしまうほどだ。
しかるべきステージがあれば、600PSの怒濤(どとう)の加速とダイナミックモードで迫力を増すエキゾーストサウンドを存分に楽しめる。特に圧巻なのがアウディ自慢の4WDシステム「クワトロ」との組み合わせによるゼロ発進で、アクセルを踏みつければタイヤが滑る兆候もなく、市販車の加速Gではトップレベルとなる約1Gを発生させつつ突進。バーチャルコックピットをスポーツモードにしておくとタコメーターはレーシーなバーグラフ式になるが、低いギアでは吹け上がりが速すぎて回転数を目で追えない。
だが、その下のインジケーターに緑が点灯すると5000rpmに達し、5000rpm台では回転上昇にあわせて段階的に黄色が3つ点灯、6000rpmで赤、レブリミットに達すると全体が真っ赤になってドライバーにエンジンの稼働状況を伝えてくる。0-100km/h加速は3.6秒でスーパースポーツ並みだ。ダイナミックモードでのシフトアップは素早いのに加えて、心地いいショックがあって興奮させられる。
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走行モードで「ダイナミック」を選択すると、V8ならではの迫力あるエキゾーストサウンドを存分に楽しめる。市販車でトップレベルとなる約1Gを発生させる加速は、圧巻のひとことだ。
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「RSモニター」と呼ばれる10.1インチサイズのRS専用インフォテインメントディスプレイを搭載。温度モニターやタイヤ空気圧モニター、Gメーターなどが組み込まれている。
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背もたれに「RS」ロゴがエンボス加工されたバルコナレザーのSレザーシートは標準装備のアイテム。前席にはヒーターとベンチレーション機能が内蔵されている。
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後席の座面から天井までの高さは、949mm。流麗なクーペフォルムから想像する以上に、後席の居住空間はゆったりとしている。先代モデルの後席は2人掛けだったが、フルモデルチェンジした最新モデルでは3人掛けに変更された。
いいとこ取りの万能選手
それにしても全長が5mを超え、車両重量が2140kgもある大柄ボディーなのに、操舵に対する正確性と旋回能力の高さは凄(すさ)まじい。おかげでボディーが実際よりもずっと小さく感じられて、道幅が狭いワインディングロードでもスイスイと駆け抜けていける。
セルフロッキングセンターディファレンシャルで前後にトルクを配分するクワトロは、通常時40:60、状況に合わせて70:30〜15:85で可変制御するが、ノーズが機敏に動く感覚と絶大なトラクションを両立している。4輪操舵のオールホイールステアリングもタイトコーナーでクルリと曲がり込むことに貢献しているようだ。
DRC付きRSスポーツサスペンションプラスと285/30R22サイズのタイヤを装着したRS 7スポーツバックは、クーペとセダンとステーションワゴンのいいとこ取りをした万能型モデルでありながら、スーパースポーツに負けないパフォーマンスとフィーリングを備えていた。
日常の快適性やグランドツアラーとしての資質に重きを置くなら、RSアダプティブエアサスペンションの標準仕様のほうが向いているだろうが、腕に覚えのある硬派なドライバーなら、今回の仕様のほうがグッと引きつけられるはずだ。
(文=石井昌道/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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「RS 7スポーツバック」のボディーサイズは全長×全幅×全高=5010×1960×1415mm、ホイールベースは2925mm。車重は2140kgと発表されている。
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試乗車には、19個のスピーカーからなるデンマークの高級オーディオブランドBang&Olufsenの「3Dアドバンストサウンドシステム」がオプション装備されていた。
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荷室容量は5人乗車の通常使用時(写真)で535リッター。後席を折りたたむと、最大で1390リッターにまで拡大できる。
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オプションの「ダイナミックプラスパッケージ」を選択すると速度リミッターが解除され、トップスピードを305km/hに引き上げることができる。WLTCモード燃費値は7.6km/リッターと発表されている。
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