【試乗記】アウディRS 7スポーツバック(4WD/8AT)

  • アウディRS 7スポーツバック(4WD/8AT)

    アウディRS 7スポーツバック(4WD/8AT)

こう見えて実は硬派

スタイリッシュな4ドアクーペフォルムが特徴の「アウディRS 7スポーツバック」が2代目に進化。開発を手がけたアウディスポーツは、ベースとなる「A7」をいかなるレシピでハイパフォーマンスモデルに仕立てたのか。ロングドライブに連れ出し、確かめてみた。

こだわりのシャシー

ここのところ、アウディの「RS」モデルに試乗する機会に恵まれている。そこで全体的に洗練度が増してきていることに加え、モデルごとに走りのキャラクターが少しずつ違うことをあたらめて実感した。RSは、アウディのハイパフォーマンスモデルを手がけるアウディスポーツが開発を担当。基本的には、圧倒的なハイパフォーマンスとデイリーユースでの親しみやすさを高度なテクノロジーによって両立させるのがRSである。しかし、ボディー形状および想定されるユーザー層などによって色合いに変化を持たせているのだ。

例えば「RS 4アバント」と「RS 5クーペ」はハードウエアの多くを共有するが、前者は乗り心地が望外に快適でファミリーユースにも適している。後者はサスペンションが引き締まったフィーリングで、よりスポーティーなドライビングを楽しむモデルといった仕上がりだ。

では、日本上陸を果たしたばかりの2代目RS 7スポーツバックはどうなのだろう? クーペのスポーティー&エレガンス、セダンの快適性、ステーションワゴンの実用性を兼ね備えるのがスポーツバックだから、さぞかしバランス志向なのだろうと予想していたが、それは少し外れた。乗り心地がやや硬めで、思っていたより硬派だったのだ。

その要因は、今回の試乗車が「DRC(ダイナミックライドコントロール)付きRSスポーツサスペンションプラス」と285/30R22サイズのタイヤといったオプションアイテムを装着していたことにある。RS 7スポーツバックは車高やダンピングを自動制御する「RSアダプティブエアサスペンション」が標準装備となっているが、ぜいたくにもそれを外してコンベンショナルな金属スプリングに変更している。

DRCは、対角線上に配置されたダンパーがオイルラインで連結され、中央のバルブがダンピングをコントロール。例えば右コーナーでは、左フロントが沈み込み、対角線上の右リアが伸びていくが、その動きを制御することで姿勢を適正に保ち、タイヤの能力を引き出すという。

徹底した燃費改善策

乗り心地は、高速道路や自動車専用道などによく見られる路面の継ぎ目、いわゆる目地段差を通過する際に硬さを感じ、舗装がヘタり段差が大きくなってしまっている箇所ではより顕著となる。「Efficiency(エフィシェンシー)」「Comfort(コンフォート)」「Auto(オート)」「Dynamic(ダイナミック)」と4種類用意される「アウディドライブセレクト」を、ダンパーの減衰力が最もソフトになるコンフォートにしていてもガツンとくるので、極薄の30偏平タイヤが入力を直接的にキャビンに伝えてしまうようだ。

しかし、ここまで大きな入力があるのは日本特有の事象。欧州にはほとんどこうしたシチュエーションがないので、輸入スポーティーカーにとっては苦手な分野であることも事実だ。もっとも、突起の鋭い目地段差以外なら、それほどスポーツカー好きでない人でも許容範囲の乗り心地だろう。

いっぽう、RS 7スポーツバックの大きな魅力といえるのがパワートレインだ。4リッターV8ツインターボは最高出力600PS/6000-6250rpm、最大トルク800N・m/2050-4500rpmで、アウディRSのなかでも最高峰。従来モデルに比べるとやや高回転寄りになってパフォーマンスが高まっているが、48V電源のマイルドハイブリッド(MHEV)が組み合わされたことが奏功しているのだろう、MHEVのなかでは比較的強力なモーターがエンジンの低回転域をアシストしており、全速度域で不満のない走りが味わえる。

とはいえ、MHEVの主眼は燃費の改善にある。BAS(ベルト駆動式オルタネータースターター)は最大12kWのエネルギー回生が可能で、その駆動力を生かして55〜160km/hという幅広い領域でコースティング(惰性走行)を実現している。

低負荷時に4気筒を停止するCOD(シリンダーオンデマンド)と合わせ、ハイパフォーマンスカーでも燃費性能に配慮するのはアウディの常で、いまに始まったことではない。BASはアイドリングストップとの相性がよく、22km/h以下になれば素早くエンジンを停止して効率を追求するとともに、再始動は通常のスターターよりもスムーズで快適。走行フィールの向上にもつながっている。

加速力はスーパースポーツ並み

高速道路を走っていると、頻繁にコースティングするのがタコメーターの動きからわかるが、エンジン停止や再始動によるショックや前後への揺れなどはほとんど感じられず快適そのものだ。驚かされるのが低回転域のトルクの太さで、100km/hから120km/hへ加速させるのも2000rpmで事足りてしまう。

それも緩加速ではなく、けっこうグイグイとくるぐらい速い。おかげで一般的な走行でのエンジンサウンドは静かで、遠くのほうでルルルッと聞こえるぐらいに抑えられている。反対に、せっかくアウディRSに乗っているのにと、寂しく思えてしまうほどだ。

しかるべきステージがあれば、600PSの怒濤(どとう)の加速とダイナミックモードで迫力を増すエキゾーストサウンドを存分に楽しめる。特に圧巻なのがアウディ自慢の4WDシステム「クワトロ」との組み合わせによるゼロ発進で、アクセルを踏みつければタイヤが滑る兆候もなく、市販車の加速Gではトップレベルとなる約1Gを発生させつつ突進。バーチャルコックピットをスポーツモードにしておくとタコメーターはレーシーなバーグラフ式になるが、低いギアでは吹け上がりが速すぎて回転数を目で追えない。

だが、その下のインジケーターに緑が点灯すると5000rpmに達し、5000rpm台では回転上昇にあわせて段階的に黄色が3つ点灯、6000rpmで赤、レブリミットに達すると全体が真っ赤になってドライバーにエンジンの稼働状況を伝えてくる。0-100km/h加速は3.6秒でスーパースポーツ並みだ。ダイナミックモードでのシフトアップは素早いのに加えて、心地いいショックがあって興奮させられる。

いいとこ取りの万能選手

ワインディングロードをダイナミックモードで走らせてみると、やはり路面が荒れたところではサスペンションがちょっと硬すぎる印象があった。そこでオートモードに切り替えると、タイヤをしっとりと路面に押しつける感覚が強くなり格段に走りやすくなった。ダイナミックモードはサーキットなど整備されたきれいな路面で威力を発揮するのだろう。

それにしても全長が5mを超え、車両重量が2140kgもある大柄ボディーなのに、操舵に対する正確性と旋回能力の高さは凄(すさ)まじい。おかげでボディーが実際よりもずっと小さく感じられて、道幅が狭いワインディングロードでもスイスイと駆け抜けていける。

セルフロッキングセンターディファレンシャルで前後にトルクを配分するクワトロは、通常時40:60、状況に合わせて70:30〜15:85で可変制御するが、ノーズが機敏に動く感覚と絶大なトラクションを両立している。4輪操舵のオールホイールステアリングもタイトコーナーでクルリと曲がり込むことに貢献しているようだ。

DRC付きRSスポーツサスペンションプラスと285/30R22サイズのタイヤを装着したRS 7スポーツバックは、クーペとセダンとステーションワゴンのいいとこ取りをした万能型モデルでありながら、スーパースポーツに負けないパフォーマンスとフィーリングを備えていた。

日常の快適性やグランドツアラーとしての資質に重きを置くなら、RSアダプティブエアサスペンションの標準仕様のほうが向いているだろうが、腕に覚えのある硬派なドライバーなら、今回の仕様のほうがグッと引きつけられるはずだ。

(文=石井昌道/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

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