【試乗記】トヨタ・アクアG(4WD/CVT)
うかうかしてはいられない
その地で引き続き生産される新型アクアは、一部でその存続を危ぶむ声もあった。理由は同じく東北生まれのヤリスの存在だ。ことハイブリッドモデルの燃費がアクアより優位なことはちょい乗りでも一目瞭然。燃費王の座を奪還することは相当に難しいとあらば、販売店統合に伴う車種整理の一環でヤリスに絡め取られちゃうんじゃあないかと推されていたわけである。
が、ふたを開けてみればアクアは次代へとたすきをつないだ。初代は「プリウスC」なる名前も与えられるなど海外市場も十分意識していたが、新型は現状国内専売モデルとなる。月販目標台数は9800台と、全パワートレインを含めて7800台を想定していたヤリスよりも実は数が多い。日本のお客さんにはむしろこっちですよというトヨタの思惑も見え隠れする。
見えないところも着実に進化
ハイブリッドパワートレインは1.5リッター3気筒エンジンに最高出力80PS、最大トルク141N・mのフロントモーターを組み合わせ、システム総合出力は116PSを発生。4WDモデルは後軸にも6.4PS、52N・mのモーターが配置される。燃費はWLTCモードで33.6〜35.8km/リッター、4WDモデルは30.0〜30.1km/リッターだ。数値的にはヤリスに対してわずかながら劣っている。
新型アクアのメカニズム面での注目点は、バイポーラ型ニッケル水素電池が採用されていることだ。「双極」を意味するバイポーラ構造はセルごとを隔ててタブでつなぐのではなく一枚の集電体の表裏を正負極化させ面でつなぐため、部材低減と空間優位性を両立しながら扱う電流を大きくできるメリットがある。ちなみに新型アクアの最廉価グレードとなる「B」グレードはリチウムイオン電池を用いるが、理由はバイポーラ構造に伴うニッケル水素電池のコスト増だという。搭載バッテリーの容量はおおむね1kWhで、これは初代と大差はない。
また、ドライブモードが「POWER+」時には従来通りアクセルオン時の加速が活発になることに加えて、アクセルオフ時に回生ブレーキをより強力に働かせる制御が加わったことも新型アクアの新しさのひとつだろう。いわゆるワンペダルドライブ的なロジックを加えたわけだが、トヨタいわく「快感ペダル」。他社のような強力な減速度ではなく、ブレーキランプのつかない0.1G程度の減速に抑えたことで同乗者の不快感を軽減しているという。
「アクア」ならではの美点はある
とはいえ、必要なものはあるべきところにきちんとあるから、操作にはまったくちゅうちょすることはない。ヤリスと同じ配列ながらおのおのの表示が大きいメーターパネルに、日本が特異な高齢化社会と化していることを実感するが、そんなメーターに見やすいなぁと心を許してしまう54歳の自分にがくぜんとした。
ユーティリティー面においてヤリスとの大きな差異は後席の広さだ。ホイールベースの伸ばし代の大半は前後席間に充てられており、足元にも頭上にも余裕ができた。時折大人を後席に乗せるという方になら、このパッケージだけでアクアを薦めたくなる。
パワートレインの出来栄えはお見事だ。アクセル操作に気遣わずともモーター領域をしっかりと引き出せるだけでなく、加速や登坂でもモーター走行が途切れることはない。このあたりはヤリスとはっきり異なるフィーリングで、バイポーラ電池ならではのパフォーマンスがしっかり感じられる。エンジン稼働後の走りも加速要求に対して“無駄ぼえ”は少ない。現行の「THS」銘柄では屈指のリニアリティーではないかと思う。
ド直球のトヨタ車
走りの面ではハンドリングにぐっとフォーカスしたヤリスに対して、新型アクアはド直球のトヨタ車だった。指1〜2本の不感帯からグッとゲインが立ち上がる応答性やモヤモヤしたステアリングインフォメーション、ダイアゴナルを感じさせない旋回姿勢、一線を越えるとクタッと速まるロールスピード……と、マツダ車のように頭を使って乗り始めるとまとまりがないように思えてくる。
初代と違うのはきっちり曲がれる“骨”を持っていることで、結果的にその車台が旋回安定性を担保してくれるが、その過渡をもっとうまくつなげて伝えてくれればいいモノ感が一気に高まるのになぁと残念しきりだ。
でもドライバーに余計な情報を伝えず、過度な刺激を与えない、この緩さこそがトヨタ車の常套(じょうとう)でもある。そしてそのぶん、乗り心地はすこぶる優しい。試乗車は四輪独立サスだったこともあってかリア側からの不快な横揺れもなく、ふわりと上屋を揺らしながら走るサマに、むしろ久々に“らしいクルマ”に乗ったなぁと気持ち悪い薄ら笑いを浮かべてしまったほどだ。
らしからぬ走りっぷり曲がりっぷりに驚かされるばかりだったこのところのトヨタ車に、ちょっと違うなぁと感じていたユーザーがいるとすれば、新型アクアの乗り味はドンピシャかもしれない。まさにもくろみ通り、昔からトヨタに親しむ日本のお客さん向けの味つけに仕上がっていると思う。
(文=渡辺敏史/写真=花村英典/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4050×1695×1505mm
ホイールベース:2600mm
車重:1230kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/4800rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3800-4800rpm
フロントモーター最高出力:80PS(59kW)
フロントモーター最大トルク:141N・m(14.4kgf・m)
リアモーター最高出力:6.4PS(4.7kW)
リアモーター最大トルク:52N・m(5.3kgf・m)
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ブリヂストン・エコピアEC300+)
燃費:30.0km/リッター(WLTCモード)
価格:242万8000円/テスト車=282万0590円
オプション装備:185/65R15タイヤ&15×6Jアルミホイール<センターオーナメント付き>(4万9500円)/トヨタチームメイト<アドバンストパーク[シースルービュー機能付きパノラミックビューモニター+周囲静止物パーキングサポートブレーキ]>(9万7900円)/停止時警報機能付きブラインドスポットモニター<BMS>+前後方静止物パーキングサポートブレーキ+後方接近車両パーキングサポートブレーキ(4万6200円)/LEDリアフォグランプ(1万1000円)/寒冷地仕様<ウインドシールドデアイサー+ヒーターリアダクト+PTCヒーターなど>(1万9800円) ※以下、販売店オプション LEDフォグランプ(2万9590円)/トノカバー(1万6500円)/ETC2.0ユニット<ビルトイン>ナビキット連動タイプ<光ビーコン機能付き>(3万3000円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<スマートフォン連携タイプ>(6万3250円)/フロアマット<デラックス>(2万5850円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1896km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:222.7km
使用燃料:10.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:22.3km/リッター(満タン法)/28.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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