【試乗記】ホンダ・シビックEX(FF/6MT)
“走りのホンダ”を体現せよ
若者向けなの? 大人向けなの?
全長4550×全幅1800×全高1415mmというサイズを生かしたボディーは、5ドアハッチというよりスポーツバックというカッコつけた言い方のほうがふさわしい。アメコミから飛び出したかのような先代のゴテゴテ・ガキガキっぷりは一気になりを潜め、どちらかといえば欧州車のトレンドに沿った形だ。これでキャラクターラインがパキッと出て、ぼってりとしたボディーの印象を引き締めることができていたら、かなりの秀作として語られたことだろう。もちろんアウディなどはそこに莫大(ばくだい)な資金をつぎ込んでいるわけだから、テイストをまねるだけでは無理な話なのだけれど。
ともかく筆者が言いたいのは、これで若者向けのエントリーモデルなのか? ということだ。いや、これは文句ではなくて質問である。今どきの若者って、こんなに大人びているんですか?(汗) 筆者としては、むしろ先代のほうが若者向けだったと思う。「タイプR」の文金高島田のような印象が強すぎて、すべてのモデルがガンダムイメージになってはいるが、それこそ5ドアハッチなどはちょうどよい派手さを持っていて、若者が“プアマンズR”を気取れたと思うのである。
そんな大人びた新型シビックだが、走らせると結構硬派だからおかしい。端的に言うと筆者には足まわりが硬く感じられ、「お前は若者か? それともオッサンか?」と、クルマの神様に軽く試されているような気持ちになる。
静粛な車内空間といささか硬派な乗り心地
こうした歯止めの利かない、技術に対する執念ともいうべき注力っぷりはまさにホンダらしくて、いい意味で笑ってしまう。リアシートはタイヤハウスから騒音・振動が侵入してきてCセグメントの域を出ないが、前席に座る限りはとても静かな空間が得られていた。
だからこそ、筆者はもっと、その足まわりをしなやかにすればよいのにと思う。もしくはタイヤの剛性(重さ)を、ワンランクでも下げてあげればいいのにと感じる。
試乗車はすでに3500kmを走破しており、一応のアタリはついているだろう。デビュー時に走らせたとき以上にダンパーは動きを見せていたけれど、道路のつなぎ目のような軽い段差、突き上げのすぐあとにタイヤが落ちるような場面だと、これが伸び切らずに車体が“ドスン”と落下する。これは明らかに運動性能の向上を狙ったセッティングであり、事実シビックは“走らせる”とすこぶる楽しい。
一人で走るぶんには気持ちいい
そのサウンドは、やや遠鳴り気味だが雑音がなく澄んでおり、今回は特に6段MTだったから、これを気持ちよく回し切ることができた。
こうした動力性能に加えて、先述の通り足まわりは鼻息荒くやる気にあふれている。操舵に対する反応は機敏すぎることなく忠実で、同じくリニアなタッチのブレーキでフロント荷重を高めるほどに、グーッとその接地性を高めていく。そのときのリアのスタビリティーもしっかり保たれており(これがダンパー伸び側を固めた効果だ)、走らせれば走らせるほど、夢中になれる。
ただ、こうした走りは一人きりのワインディングロードで得られる気持ちよさであり、今回などはその道中のほとんどを助手席に編集部K氏を乗せる状況だったから、当然その“うまみ”は発揮できなかった。
となると、もう少しこのフットワークは伸び側にしなやかなストロークを持たせたほうがいいと思うのだ。助手席のK氏は筆者よりも先輩ながらヤングなハートの持ち主なのか「全然乗り心地悪いと思わないけどね」とおっしゃっていたが、ドライバーにしてみると、助手席や後部座席に家族や客人を乗せているときは運転に気を使うもの。そういうときは、しなやかな足まわりを、軽い踏力のブレーキングで曲げていく運転をしたくなるものなのだ。
ちなみに、シビックはCVTだとフロント荷重が約30kg重くなり、こうしたスムーズな運転が6段MTよりもしやすい。また、このエンジンはシフトアップ時に未燃焼ガスを燃やす必要があるため回転落ちが悪く、6段MTではシフトアップ時のギクシャク感が目立つ。
言うなれば「男気シビック」
例えると、アシのスポーティーさは「フォルクスワーゲン・ゴルフRライン」と同じかもう少し硬いくらいで、先代「GTI」のほうがずっとまろやかでしなやかだ。ホンダがシビックのガソリンモデルにこうしたセッティングを施した理由は、日本市場における販売台数の少なさと、先代モデルの約3割を6段MT車が占めたことが理由だろう。日本のユーザーは相変わらずシビックにスポーティーさを求めており、販売台数の少なさからいっても、そのキャラクターを曖昧にせずハッキリさせたほうが、埋没しないと考えたのではないだろうか。
それはひとつの、思い切りのよさだ。だったら爽快なんて言わないで、男気……はないにしても、まんま「スポーツシビック」でよかったのではないか? また、ここまで硬派なフットワークを与えるなら、そのエンジンは、このほど発表された北米仕様の高出力バージョン「Si」のものでよかった。加えてベースモデルを仕立て、そちらにはスポーティーながらもよりしなやかな乗り味を与える。そのほうが、このシャシーおよびボディーの素晴らしさが多くの人に伝わると思う。
ハイブリッドモデルの仕上がりに期待
最近のシビックはボディーのサイズアップばかりが話題になるが、スポーティーなホンダの顔役としての責任を、タイプRだけに押し付けたことのほうが問題だと思う。セダンを廃止したぶんハッチバックはラインナップを拡充して、シリーズ全体でホンダのスポーツイメージを体現する。そうすればシビックは、この日本でも(台数的な意味ではない)ホンダの顔にカムバックできるだろう。
とはいえ、ホンダは“脱内燃機関”ともとれる発言で世間をにぎわせたばかり。その手前、筆者の妄想のようなプランは考えていても実現させないだろう。望みがあるとすればハイブリッドモデルで、今後、当面ホンダの主力パワートレインとなる「e:HEV」が、シビック用はかなりスポーティーなものになるとのウワサだ。その仕上がり次第で、日本におけるシビックの今後が占えるはずである。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4550×1800×1415mm
ホイールベース:2735mm
車重:1340kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:182PS(134kW)/6000rpm
最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/1700-4500rpm
タイヤ:(前)235/40R18 95Y/(後)235/40R18 95Y(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック2)
燃費:16.3km/リッター(WLTCモード)
価格:353万9800円/テスト車=368万8850円
オプション装備:ボディーカラー<ソニックグレーパール>(3万8500円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー フロント用 16GBキット<DRH-204WD>(3万9600円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(4万8400円)/取り付け工賃(2万2550円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3386km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:216.8km
使用燃料:18.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.1km/リッター(満タン法)/13.5km/h(車載燃費計計測値)
最新ニュース
-
-
トヨタ『タコマ』のオフロード性能さらにアップ! 冒険志向の「トレイルハンター」2025年モデルに
2024.12.19
-
-
-
佐藤琢磨が往年のホンダF1で走行、エンジン始動イベントも…東京オートサロン2025
2024.12.19
-
-
-
レクサス『LC500』が一部改良、床下ブレース採用でボディ剛性を向上…1488万円から
2024.12.19
-
-
-
「ネーミング通りの雰囲気」トヨタの新型電動SUV『アーバンクルーザー』発表に、日本のファンも注目
2024.12.19
-
-
-
スバル『フォレスター』新型、米IIHSの最高安全評価「TOP SAFETY PICK+」獲得
2024.12.19
-
-
-
ジープ『V6ラングラー』に8速AT復活…米国での人気に応える
2024.12.19
-
-
-
時代は変わった! 24時間営業や純水洗車も、進化するコイン洗車場の全貌~Weeklyメンテナンス~
2024.12.19
-
最新ニュース
-
-
トヨタ『タコマ』のオフロード性能さらにアップ! 冒険志向の「トレイルハンター」2025年モデルに
2024.12.19
-
-
-
佐藤琢磨が往年のホンダF1で走行、エンジン始動イベントも…東京オートサロン2025
2024.12.19
-
-
-
レクサス『LC500』が一部改良、床下ブレース採用でボディ剛性を向上…1488万円から
2024.12.19
-
-
-
「ネーミング通りの雰囲気」トヨタの新型電動SUV『アーバンクルーザー』発表に、日本のファンも注目
2024.12.19
-
-
-
スバル『フォレスター』新型、米IIHSの最高安全評価「TOP SAFETY PICK+」獲得
2024.12.19
-
-
-
ジープ『V6ラングラー』に8速AT復活…米国での人気に応える
2024.12.19
-
MORIZO on the Road