【試乗記】トヨタ・ヤリス クロスGRスポーツ(FF/CVT)

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    トヨタ・ヤリス クロスGRスポーツ(FF/CVT)

クルマはシャシーで変わる

ヤリス クロスGRスポーツ」に試乗。トヨタのモータースポーツ直系ブランド「GR」の手になるチューニングプログラムは、人気のコンパクトクロスオーバーをいかなる“スポーツモデル”に仕上げたのか。ベースモデルとの違いや走りの印象を報告する。

絶妙な立ち位置

ヤリス クロスGRスポーツは、2022年7月に実施された「ヤリス クロス」の一部改良と同時に登場したスポーツコンバージョンモデル。車名にある“GR”はトヨタのモータースポーツ部門に位置づけられるTOYOTA GAZOO Racingを表しており、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりで培った知見を活用し、展開するシリーズ」と紹介される。つまり、メルセデスにおける「AMG」や、BMWの「M」に相当するようなトヨタのスポーツブランドがGRであると理解できる。

GRには、限定車としてリリースされてきたメーカー自らが手がけるチューンドコンプリートカー「GRMN」を頂点に、専用車とスポーツパワートレインや改良型シャシーの搭載車などによって構成される「GR」、そしてボディーの強化や足まわりのチューニング、パワートレインの設定変更などによって走行性能の向上を狙った「GRスポーツ」という3つのシリーズがある。

今回試乗したのはGRスポーツ。つまりスポーツ性能はGRほどではないが、標準モデルよりもスポーツテイストが強いカスタマイズプログラムが自慢だ。ただ、そうはいっても同車はヤリス クロスの実質的なトップモデルであり、同じカタログにも記載されているので、“特別”のハードルは低い。トヨタは、チューンドコンプリートカーではなく、スポーツコンバージョンモデルと紹介している。コアなファンには物足りないかもしれないが、一般的なユーザーであればスポーツテイストを存分に感じる、そんな絶妙な立ち位置だ。

実際そのフォルムは、コンパクトなヤリス クロスそのものである。ただ、ラジエーターグリルとリアバンパーのロアカバー、フォグランプベゼル、18インチサイズのホイールなどが専用アイテムで、そのアピアランスはなかなかスポーティーだ。特に目を引くのは、切削光輝仕上げが施された10本スポークデザインの18インチホイール。タイヤは215/50R18サイズの「ファルケン・アゼニスFK510 SUV」が専用品として組み合わされている。

NVHのフィーリングが違う

今回ヤリス クロスGRスポーツの試乗にあたっては、先に同じハイブリッドユニットを搭載する標準仕様車の「Z」グレードに試乗することができた。トヨタの最新コンパクトカーに共通する「GA-Bプラットフォーム」に、システム最高出力116PSの1.5リッター直3ハイブリッドユニットを搭載したヤリス クロスの走りは、特別にスポーティーではないけれど程よくキビキビとしており、正確なハンドリングと小回りの利く取り回しもセリングポイントだ。

ただしエンジンサウンドは少々にぎやか。3気筒ガソリンユニットという点を考慮しても、もう少し抑えられたのでは? と思う。ハイブリッドユニットだけに、EV走行時とエンジン作動時のギャップがよりそう思わせるのかもしれない。ヤリスをベースに車高をアップし大口径タイヤを組み合わせればこうなるだろうなという乗り心地も、トヨタの地力をもってすればもう少しマイルドな仕上がりが望めそうだが、まぁ我慢できないほどではない。

しかし、ヤリス クロスGRスポーツは、まるでパワーユニットが違うのかと思うほどエンジンノイズが抑えられ、別車種かというほどに乗り心地も改善されている。エンジンルームをのぞき込んでも特に遮音材が追加されている様子は確認できない。けれど、両者のNVHに関するフィーリングは大きく異なっている。

パワートレイン系の主な変更点は2つ。ひとつはモーターの過渡特性を最適化し、アクセルの応答性を向上させたという「高応答パワートレイン制御」。もうひとつはねじり剛性を向上させ、駆動力をよりダイレクトにタイヤに伝達することを目的とした改良型ドライブシャフトの採用である。前者では速度域を問わずクルマの加速とエンジンサウンドの一致を、後者ではアクセル操作に対するダイレクトな駆動力変化をもたらすという。それは、リニア感の向上と、意のままに操っている感覚がより色濃くドライバーに伝わるという解釈で間違いないだろう。

これがGRのチューニングレシピ

ボディーのしっかり感も、標準仕様車の比ではない。それはネジというネジをしっかり増し締めし、ボディーの隙間という隙間にエポキシ樹脂でも流し込んだがごとくの剛性アップである。確認すると、フロアトンネルに2本のブレースが、リアエンドにロアバックブレースが追加されている。

サスペンションも専用アイテムでチューニング済みだ。フロントではロアアームブッシュの変更や補強パッチの追加、リアではハブベアリングとアクスルキャリアが専用アイテムとなり、ブッシュやビームブラケットも変更を受けた。電制系では電動パワステの専用チューニングや、トヨタのハイブリッド車でおなじみのバネ上制振制御を積極活用してピッチングを抑えたそうだ。

こうした細かなチューニングを積み重ね、磨き込まれたヤリス クロスGRスポーツは、ソリッド感と滑らかな乗り心地が標準仕様車とは別物といえる仕上がりだ。引き締まった足まわりゆえに減衰のフィーリングは「GR86」風で、「ああこれがGRのチューニングレシピか」と納得する。絶対的な硬さは増しているものの、多少の段差をきれいにいなす所作やコーナリング時の少なめのロールも標準仕様車とは異なる味つけである。

ステアリングに逐一フィードバックされる路面情報は解像度が高く、ちょっとしたプレミアムスポーツカーのようだ。開発当初は標準仕様車と同じタイヤの採用を想定していたというが、テストを繰り返してファルケン・アゼニスFK510 SUVに落ち着いたとのこと。標準仕様車に装備されるエコタイヤでは、きっとこのフィーリングは出せないのだろう。ただし「専用チューンのタイヤにだけ頼るような足まわりにするつもりはなかった」というコメントも開発チームからは聞かれたので、パフォーマンスの高いタイヤに丸投げのセッティングではないことはお伝えしたい。

ベテランカーマニアにもおすすめ

ボディーの剛性感が増し、標準仕様車に比べて(減衰は少しきつく感じるが)乗り心地が良くなったヤリス クロスGRスポーツは、本物のGRとは異なりファミリーユースもこなせるキャラが持ち味だ。マニアが見れば違いは一目瞭然だが、一般的なまなざしからは標準仕様車と大きく変わらないエクステリアデザインである。スポーツモデルにありがちな稚拙なデコレーション(失礼)が抑えられているのも、ファミリー向けとして高得点である。

車両本体価格がハイブリッドモデルで275万円、純ガソリンモデルで236万7000円となるのもお見事。ハイブリッドモデルの上級グレードであるZが260万円という設定なので、その差は15万円ちょっと。これだけのチューニング内容と「GR」のロゴ付き専用スポーツシートやダークメタリック塗装でコーディネートされたシックなインテリア、アルミ製ペダルなどの装備を考えれば十分リーズナブルと言っても間違いではないだろう。

そのコスパの秘密は、ヤリス クロスGRスポーツのベースが上級グレードのZではなく「G」グレードであるからだ。ちなみにADASの標準装備アイテムはZと変わらず、「パノラミックビューモニター、ブラインドスポットモニター[BSM]、パーキングサポートブレーキ(後方接近車両)」のセットは全車でオプション扱い(「X」グレードには設定なし)となるので、何かの安全装備が省略されているということもない。

いち早くこの車両のステアリングを握りリポートした自動車ライターの佐野弘宗さんが「運転好きなら、ヤリス クロスはGRスポーツ一択」とおっしゃっていたが、個人的にはまったく同意見である。標準仕様車よりもファンで確実に静かで、そして圧倒的に快適。クルマはシャシーでこれほどまでに変わるのだ。GRスポーツという看板がまぶしすぎて、「スポーツカーはもっと若い人が……」と思っているベテランカーマニアにもおすすめしたい超優良物件である。

(文=櫻井健一/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

テスト車のデータ

トヨタ・ヤリス クロスGRスポーツ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4185×1765×1580mm
ホイールベース:2560mm
車重:1190kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3800-4800rpm
モーター最高出力:80PS(59kW)
モーター最大トルク:141N・m(14.4kgf・m)
タイヤ:(前)215/50R18 92V/(後)215/50R18 92V(ファルケン・アゼニスFK510 SUV)
燃費:25.0km/リッター(WLTCモード)
価格:275万円/テスト車=318万4500円
オプション装備:ボディーカラー<ブラックマイカ×センシュアルレッドマイカ>(7万7000円)/ステアリングヒーター+シートヒーター+ナノイーX(3万8500円)/ハンズフリーパワーバックドア<はさみ込み防止機能・停止位置メモリー機能・予約ロック機能付き>(7万7000円)/LEDリアフォグランプ(1万1000円)/パノラミックビューモニター、ブラインドスポットモニター[BSM]、パーキングサポートブレーキ<後方接近車両>、寒冷地仕様<ウインドシールドデアイサー+ヒーターリアダクト+PTCヒーターなど>(9万6800円)/自動防げんインナーミラー<ドライブレコーダー付き>(5万3900円)/アクセサリーコンセント<AC100V・1500W×1個、非常給電システム付き>(4万4000円) ※以下、販売店オプション ETC車載器<ビルトイン、ボイスタイプ>(1万4300円)/フロアマット<GRフロアマット>(2万2000円)

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3066km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

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