【試乗記】トヨタ・ヴェルファイアZプレミア(FF/8AT)
“走れる”ミニバン
アルファードとは別仕立てに
日本固有のクルマ文化から生まれた高級ミニバンは本来、メルセデスのような欧州の伝統的高級車を好むようなエンスージアストの美意識とは、相いれないものの代表格だったはずである。しかし、わが日本のフォーマルシーンでは、「クラウン」や「レクサスLS」より、今やアルヴェルのほうが当たり前の存在となった。しかも、新型アルヴェルのレクサス版である新型「LM」は、ついにドイツを含む欧州でも販売されるという。そんな高級ミニバンの新作に複雑な思いを抱きつつも、気になってしかたない……という冒頭のSクラスオーナーの気持ちは、痛いほどよく分かる。
今回の取材車はヴェルファイアだが、すでに報じられているとおり、新型アルヴェルは当初、ヴェルファイア廃止の想定で開発をスタートしたという。トヨタの国内販売形態が2020年5月に「全販売系列で全車種とりあつかい」となったことで、アルヴェルのような双子車戦略に明確な根拠がなくなったからだ。
しかし、自身も役員車としてヴェルファイアを好んで使っていた豊田章男現会長をはじめとした各方面から「ヴェルファイアのユーザーのほうが、思い入れがある」との強い指摘もあって、途中からヴェルファイアが残されることになった。ただ、同じ販売店で併売されるゆえに、これまで以上に別モデルとしてのキャラクターを際立たせる必要性が生じた。
聞けば、もともとアルファードのグレードとして検討されていたバリエーションのうち、ドライバーズカー的な性格が強いものをヴェルファイアに付け替えて、それをベースにあらためて独自の乗り味を突き詰めたのだそうだ。
アルヴェルの車格がさらに上昇
ちなみに、279PSという最高出力は先代V6の301PSに一歩ゆずるが、430N・mという最大トルクは逆に先代V6の361N・mより約2割も強力で、しかもそれを低回転からモリモリと発生させる。そのぶん車重は先代V6より約100kg重くなっており、体感的には先代V6比で驚くほどではないのも事実。ただ、前後重量配分がわずかに改善されたからか、あるいはシャシーの大幅進化のおかげか、先代V6でいや応なく漂っていた明確なノーズヘビー感が、今回のヴェルファイアでは見事に払しょくされているのが、なにより印象的だ。
これまでいくつかのトヨタ/レクサスで味わったT24A-FTS型は、正直なところ、どれもガサツなノイズが耳に障りがち……だったのだが、この新型ヴェルファイアは驚くほど静かだ。アクセルを深く踏み込んだときに耳に届くエンジン音も、絶対的に小さく、現実的に音質まではあまり気にならない。
まあパワートレイン自体の改良が進んでいる可能性もあるが、レクサスや「クラウン クロスオーバー」より静かに感じるということは、それだけヴェルファイアの静粛対策が徹底しているのだろう。遮音・吸音はクルマづくりのなかでも、素直に質量とコストがかかる分野である。こういうところを見ても、トヨタ内でのアルヴェルの車格がさらに上昇していることがうかがえる。というか、ありとあらゆる部分に投入された新技術や新機軸の多さでいえば、今やアルヴェルが(センチュリーを別格すれば)事実上のトヨタフラッグシップと呼んでも差し支えないくらいだ。
走行ラインが乱れない
ただ、それ以上に興味深いのは、操縦安定性のキモとなるリアまわりの強化が徹底されている点だ。たとえば、フロア用の構造用接着剤では、セカンドシート下付近に減衰力の高いタイプを使ってフロア振動を抑制しつつ、それより後方のリアまわりにはそれとは別の、がっちり型の高剛性タイプと使い分けている。また、リア床下にはスーパーカーのカブリオレをヒントにしたV型ブレースもつく。
ヴェルファイアではさらにドライバーズカーとしての味わいに特化すべく、19インチタイヤと周波数感応型ダンパー、そしてフロントコアサポート部分の強化ブレースを全車に標準装備する。19インチタイヤはヴェルファイア専用で、周波数感応式ダンパーはアルファードでは最上級の「エグゼクティブラウンジ」にしか使われない。また、コアサポート強化ブレースもヴェルファイアの車体にだけ追加される。
そんなヴェルファイアにして、しかもヴェルファイアとしてはハイブリッドより軽量、かつパワフルな2.4リッター直4ターボを積む試乗車の操縦性と身のこなしは、ちょっとしたハンドリングオタクもビックリするくらい高いレベルにある。ステアリングはどこまでも正確で、しかもリアは常に根が生えたようにどっしり安定しているので、どう振り回しても走行ラインは乱れない。
はっきりいっておなかいっぱい
実際のヴェルファイアの走りも、まさにそのねらいどおりの仕上がりといっていい。路面に吸いつくようにフラットな身のこなしは、その自慢のアシさばきに加えて、路面の凹凸に応じてスロットルを微小に自動制御する「バネ上制振制御」のおかげもあるかもしれない。
いずれにしても、そんな自慢のシャシー性能は、自分でステアリングを握るより、「レーダークルーズコントロール」と「レーントレーシングアシスト」による半自動運転のほうが実感しやすい。そうやって走らせているときの新型ヴェルファイアは、背の低い最新アッパーセダンも含めても、細かい修正舵制御の少なさが屈指というほかない。
今回は運転席中心の試乗になってしまったが、ちょっとだけ体験したセカンドシートでは、例のブルブルは完全解消とまではいかなくても、先代とは別物に軽減されていた。アルファードの、より柔らかい調律の17インチタイヤ装着車だとブルブルはさらに減るが、かわりに、よほど達人運転手でないと上屋の動きは大きく、かつ唐突気味になる。個人的には、かりに自分がセカンドシートに座る立場だとするなら、アルファードよりヴェルファイアを選びたくなる。で、ときおりにでも自分でもステアリングを握る機会があるなら、今回の2.4リッター直ターボが第一候補になるだろう。
2.4リッター直4ターボはセカンドシート周辺装備が少し省かれるZプレミアしか用意されないのがちょっと残念だが、それでも大きくいえば電動スライドにタッチコントローラー、回転収納テーブル、低反発ウレタンなどが省かれるくらいで、シート骨格は上級のエグゼクティブラウンジとも共通だ。さらに、表皮自体も同じ最上級のナッパレザーだし、電動オットマンにシートヒーターや同ベンチレーターもつく。セカンドシートの快適装備は、はっきりいって、Zプレミアでもおなかいっぱいである。
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4995×1850×1945mm
ホイールベース:3000mm
車重:2180kg
駆動方式:FF
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8AT
最高出力:279PS(205kW)/6000rpm
最大トルク:430N・m(43.8kgf・m)/1700-3600rpm
タイヤ:(前)225/55R19 103H/(後)225/55R19 103H(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:10.3km/リッター(WLTCモード)
価格:655万円/テスト車=691万2120円
オプション装備:ボディーカラー<プラチナホワイトパールマイカ>(3万3000円)/ユニバーサルステップ<スライドドア左右・メッキ加飾付き>(6万6000円)/ITSコネクト(2万7500円)/デジタルインナーミラー(4万4000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エグゼクティブ・エントラントマット付き>(13万2000円)/ラグマット(1万5400円)/前後方2カメラドライブレコーダー(4万4220円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2162km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:319.1km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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